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忌み子という名の能力者  作者: 蔵品大樹
第3章 二足の草鞋
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第21話 種と宣告

 俺は仁科守義。悪夢を見せつけられている男だ。

 遡ること30分前。俺はTC壊滅軍の救護班の一人、高倉(たかくら)と、戦闘班No.3の東郷隆都(とうごうりゅうと)が黒岩が療養しているカラオケバー『カサブランカ』に向かっていた。

 「黒岩の感じからして何日か静かにしてれば体の傷は治るな」

 「昨日見た時、腕の傷も塞がってきたんで、あと少しですね」

 「あぁ。かつて俺達と敵対してたやつが、今俺達の手によって救われている……不思議な感情だ」

 話し合う俺達。しかし、この時は知らなかった。まさか、身近な人間が俺達を地獄に落とすなんて…。

 それからして俺達はカサブランカに着き、中に入る。

 「店長、来ました」

 「お、来たか」

 店長の諸岡さんと、見知らぬ外国人の店員がいた。不思議に思った東郷さんが諸岡さんに聞く。

 「ん、店長、その人は?」

 「あぁ。この子は東南アジア出身のホアンくんだ。この間、アルバイト募集したときに雇ったんだ」

 「よ、よろしくお願いします…」

 ホアンは少し片言ながらも、上手い日本語を話していた。

 「よろしく」

 「じゃあホアン。一旦店から出てくれ」

 「わ、分かりました」

 ホアンが店から出て、俺達は黒岩と顔を合わせる。

 「よっ、調子は?」

 「まぁ、すこぶるいいってところか?」

 「とりあえず俺と高村さんはここにいるから、お前は諸岡さんと店内にいてくれ」

 「了解」

 言われるがまま、俺と諸岡さんは待機していた。

 「そういえば、君、我孫子のおかげでTC壊滅軍に入ったんだっけ?」

 「まぁ、そうなりますかね…」

 「どう?我孫子はいいやつだろ?」

 「はい。武器の使い方を教えてくれたり、飯を奢ってくれたり…いい人です」

 「そうか、アイツは昔からいい奴だからなぁ」

 すると、ホアンが店の中に入ってきた。

 「…店長…」

 「ん?どうしたホアン。忘れも…」

 いきなりホアンが諸岡さんの後ろに周り、喉元にナイフを突き付けたのだ。

 「な、ホアン…」

 「ごめんなさい。俺、脅されて…」

 その時、店に入ってきたのは緑の長髪の青年だった。

 「お、お前は…」

 「久しぶりですね。仁科くん」

 植草生樹だ。黒岩を追っている、あの男。

 「いやぁ、傀儡は役に立つ」

 「な、なにを言っている!?」

 「お、俺、コイツに弱みを…」

 「なんだって!?」

 ホアンがそう言うと、植草はスマホを取り出し、映像を見せる。

 「ううう!」

 そこには、椅子に縛られた東南アジア系の中年女性が。

 「おい…植草。まさか、人質を…」

 「そうだ。タブーチルドレンの思想に賛同する者は世界中にいてね。タイのある組織がこの女性を監禁しているんだ」

 「な、何のために…」

 「そりゃあ、この青年を傀儡にするためだ」

 すると、植草が語り出す。

 「そもそも貴方達がここにいることは既に分かっていた。まぁ、バケルのおかげだ。もちろん、すぐに襲撃しようかと思った。だが、あの雷を倒し、黒岩を救った君に興味があってね。君が来たことがわかるよう、ここの店員であるホアンに私は目を付けた。調べたらこの子は母国に母を残して日本に来たそうでね。それで、例の組織に頼んでこの子の母を監禁。そしてホアンを傀儡にし、今に至る」

 その時、俺の中で怒りが爆発した。

 「おい…」

 「なんでしょう?」

 「タブーチルドレンは差別を許さないと黒岩から聞いた。でも、お前は人質をとり、ましてやその息子を傀儡にした。それは許さない事だ!」

 「ふっ、私だってできる限りこんなことをしたくない。勿論、ボスはこの事を知らないさ」

 「くっ…」

 「さぁ、ホアンはもう用済みだ」

 「えっ…?」

 ナイフを諸岡さんに突き立てていたホアンは植草から伸びるつたに気付いていなかった。

 「ごっ!」

 それは奴の胴体に巻かれた。

 「ホアン!」

 諸岡さんが叫んだと同時。俺はナイフを持って植草に突撃した。

 「うぉぉぉあっ!」

 「おやおや。とても単純だ」

 植草が一枚の葉っぱを指に挟む。

 「投擲ですよ」

 そして、それを投げる。それに対して俺はバリアを張ってそれを防いだ。

 「はぁっ!」

 バリアで反射した葉っぱは、天井に刺さる。

 (おいおい、手裏剣かよ)

 「流石。『守』を使う男。ですが、私よりこっちの心配をしたほうがいいのでは?」

 植草が指差した方向。そこには、首につたを巻かれ、苦しそうにするホアンがいた。

 「が、ぐぐ…!」

 「なっ…!?」

 「さぁ、どうします?」

 「……それなら、二つ一気にだ」

 俺は左手にナイフを持ち、つたを切る。

 「がっ…げほっげほっ!」

 そして右手には球状にしたバリアを指で弾き飛ばす。

 「おっと!」

 「これは我孫子さんと興津さんから学んだ指弾ってやつだ!」

 植草がもう一度葉っぱをバリアに向けて投げるも、それはバリアに弾き飛ばされる。

 「ほう…流石バリアの応用」

 そのままそれは植草のこめかみを掠る。

 「ぐおっ!」

 「どうだ…」

 すると、植草の雰囲気が変わる。

 「……やってくれるじゃねぇか」

 さっきまで優しそうな雰囲気とはうってかわり、凶暴そうな雰囲気を見せる。

 「俺に傷を付けたのはお前で二人目だよ」

 一人称も私から俺に変わっている。植草がこめかみに指を付ける。すると、そのかすり傷はすぐさま治ったのだ。

 「何っ!?」

 「これが俺の真骨頂。さてと、本来の任務は黒岩の粛清だ。通させて貰う」

 じりじりと植草が店員専用の扉に近付く。

 「ま、待て!」

 諸岡さんが植草に近付こうとするも、鞭のようなつるが諸岡さんの体を叩いた。

 「がぁっ!」

 植草が強引に扉を開けた。

 「なっ、植草!」

 しかし、扉を閉じられ、ましてや内側から鍵を掛けられた。

 「くっ…黒岩ぁ…」

 植草が入ると、そこには東郷さんがいた。

 「お前、植草か!」

 サバイバルナイフを構える東郷さん。しかし、植草は無言でつるを東郷さんにけしかけた。

 「させるかぁぁぁ!」

 つるを切ろうとするも、無規則にうねるつるに東郷さんは対応しきれなかった。

 「がっ、ぎゃぁ!」

 「殺しはしない。戦闘不能に陥らせるだけだ」

 何度もつるで叩き、東郷さんは気絶した。

 「さあ。黒岩。地獄の開始だ」

 諸岡さんじゃないと開けられない扉を奴は無理やりこじ開けた。

 「黒岩、後はここで安静に…」

 「なっ、植草…」

 高倉をつるで掴む。

 「がっ!」

 「暫く眠れ」

 そして高倉を壁にぶつけ、黒岩と対面した。

 「植草ぁ…」

 「さぁ。裏切り者の黒岩よ。お前はじわじわ死ぬのがふさわしい」

 植草は俺を真似たのか、謎の種を黒岩の口の中に向けて飛ばす。

 「なっ何を」

 それは黒岩の口内に入り、うっかり飲み込んでしまった。

 「今入れたのは吸収する種(ドレインシード)。お前の体内で一週間かけて育つ。もちろん、お前のエネルギーを使ってな」

 植草が後ろを振り向き、黒岩に言い放つ。

 「これは俺なりの慈悲だ。一週間の間、俺はとある所で隠れている。そこで、俺を殺せ。そうすれば、その種は育つことはない」

 「……悪趣味な野郎だ」

 植草はそのまま裏口から去った。

 植草生樹。その笑顔とは裏腹に、悪魔に等しい『忌み子』である。

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