第20話 自然の恐怖
野党、明蘭党の議員、尾崎敏男の邸宅。
彼の部屋には、家主の尾崎と黒ずくめの男がいた。
「くくく…今回の依頼はなんでしょう?尾崎の旦那」
「コイツを、殺ってもらいたい」
尾崎が差し出したのは好青年の写真。しかしその写真は古く、昭和に撮られたような画質だった。
「コイツは?」
「名前は屋敷慎一。まぁ、これは偽名だ」
「偽名?」
「そうだ。コイツは他にも高島隆次、西園寺光久、東国原まさを…といろんな偽名を持ってやがる。まぁ、今じゃあ『ボス』と名乗ってるらしいがな。この写真の男は今、90を超えている。この写真は奴が2、30代くらいの時のやつで、『屋敷慎一』だった時だ」
「へぇ。不思議な男だ」
「そんで、今、コイツは『タブーチルドレン』という謎の組織の首領だ」
「タブーチルドレン…名前だけなら分かる。確か、四年前から色んな暴力団を壊滅させ、幹部が10年前に起きた集団誘拐の被害者。そんで末端は金で買ったチンピラに半グレ…そんなところか?」
「あぁ。そうだ。奴らは差別を許さない集団で、俺が何か変な発言をする前に、コイツを殺って欲しいんだわ」
「……フフフ、分かりました。では、殺りましょう」
「ありがたい!前金はこれだ」
尾崎がジュラルミンケースに入った9千万もの金を男に見せる。
「えぇ。尾崎の旦那の頼みなら、この殺し屋『雲雀』がどんな野郎でも殺します」
「へへっ、ありがたい」
それから数日後、雲雀はターゲットの男を知る者、草柳に接触していた。
「さぁ、草柳さんよ。そのボスという男やらはどこにいるんだ?」
路地裏に怪しげな男二人。雲雀の質問に対し、草柳は笑みを浮かべる。
「いやぁ、飛んで火に入る夏の虫と言ったところでしょうか?」
「はぁ?」
草柳は深く被っていた帽子を外し、自身の顔を見せる。
「なっ、お前は…」
「植草生樹。『草の忌み子』です」
雲雀の上からつたが伸びる。そしてそれは、雲雀の首を囲む。これは植草の拷問、『自然の絞首刑』である。
「あっ、いつの間にぃ!」
「その首を絞められたくなければ、うちのボスを殺すよう依頼した奴を言ってください」
「けっ、俺は殺し屋雲雀。簡単に依頼者を…」
「そうですか」
つたが雲雀の首を掴み、持ち上げる。それはまさに絞首刑のようであった。
「がぶっ!」
「はやく言ってくださいよ。このままじゃ死にますよ」
「言う、言うがらぁ…」
つたを離し、落ちる雲雀。
「げほっ!げほっ!」
「それで、誰ですか?」
「お、尾崎、尾崎敏男だ!明蘭党の!」
「ほう…」
任務を終えたので、その場を去ろうとする植草。その時、雲雀が質問をした。
「な、なんでアンタ、俺がボスを狙っているとわかったんだ…」
しかし、返ってきたのは答えではなかった。
「そりゃあ、バレバレだったからですよ」
「がぁっ」
雲雀の胴体には何本もの竹が貫いていた。
それからして植草は尾崎の邸宅に着いた。この日は護衛は居らず、尾崎が一人で仕事をしていた。
「失礼します」
「だ、誰だ!」
尾崎の仕事部屋に突入し、植草は不気味な笑みを浮かべながら、葉っぱを指の間に挟む。
「これだけ覚えといてください。『草の忌み子』と」
植草が尾崎の喉めがけて葉っぱを投げる。
「ぎゃがぁっ!」
それは尾崎の喉を切り裂き、即死した。
「さて、仕事終わり」
植草が帰路に着く。すると、目の前の黒パーカーの人物がゆっくりと歩いてくる。
「ん?」
すると、一気にそいつは駆け出し、植草の腹を刺した。
「ぐおっと…」
そのまま通り魔は植草を横切る。
「……この俺に腹を刺すとはいい度胸してんなぁ」
草柳の人格が出た。刺されたナイフを抜き、腹を手で抑える。するとそれは一瞬にして癒えた。それが植草の能力の真骨頂、『回復』である。
「待て」
つるを伸ばし、通り魔の足を掛ける。
「がばあっ!」
植草が引きずり、二人は対面した。
「さぁて。お前、死にたいの?」
「な、なんだこれぇ!?」
植草の問いに対し、通り魔はいつの間にか伸びていたつるに驚いていた。
「質問に答えろや」
能力を使わず、植草は通り魔の顔を殴った。
「がばあっ!」
「お前、TC壊滅軍の野郎か?」
「な、なんだそれ、知らねぇよ!」
「ほう…(コイツの目は真実を言っている。ただの犯罪者か)」
植草の人格を戻し、笑顔を絶やさずに通り魔に話しかける。
「そうだ。貴方、ど根性花というものを知ってますか?」
「た、確か、コンクリートのところから咲いてるっていう…」
「今からするのは私の好きな殺し方です」
「ひぃっ!」
先程抜いたナイフで通り魔の腹を十字で切る。
「がぁぁぁ!」
「暴れないで。埋め込められない」
そして、その傷口に謎の種を入れる。
「な、何をしたぁ…?」
「今入れたのは私が生み出した種でね、名前は『吸収する種』。たとえ土や水がなくても育ちます」
「そ、それはどういう…」
すると、傷口から芽が出た。
「ぎゃ、ぎゃぁぁぁ!」
「貴方のエネルギーを吸って育ちますからね」
そのまま芽は育っていき、蕾をつくった。それと同時に通り魔の顔は干からびていった。
「た、たふけて…」
「ダメです。貴方のその手際のよさ、まさに何人も殺してきた通り魔ってところですかね?」
「い、いやだ…死にたく…な…」
花が咲いた。その見た目はグロテスクな感じがありつつ、世界中のどんな花よりも美しかった。
「……」
エネルギーを吸われ続け、通り魔は衰弱死した。
「さて…黒岩はいまどこにいるんですかねぇ…」
植草は笑顔を絶やさずにその場を去った。