第1話 『炎』と『守』
俺は仁科守義。家族を殺された青年だ。
俺は東京に住む普通の22歳の大学生だ。まぁ、父親(もとい義父)が暴力団の組長をやっていること以外は普通である。
だが、俺は父さんが好きだ。児童養護施設で差別されていた俺をなんの躊躇もなく引き取り、普通の人同然に愛してくれた。
俺はそんな父さんや父さんの部下達を何者かに殺された。
殺されたと分かった時、最初に感じたのは虚無。その後に怒りだ。
涙を父さんの死体の上に落とす程、俺は泣いたのだ。
そして、誓う。
「絶対に…俺の父さん達を殺した奴らを…この手で…」
しかし、相手が分からない以上どうすることも出来ない。そんな俺は真白木区を彷徨っていた。
「おいガキ」
「何ですか?」
「金、出しな」
一人の半グレがカツアゲをやってきた。
「お金なんて無いですよ」
「はぁ?ならストレス発散と行こうか」
半グレが俺の顔を殴る。しかし、それは俺に効かなかった。
「なっ、なんでなんともねぇんだよ!ひぃぃぃ!」
半グレはすぐに逃げ出した。
(……やっぱり、今のような反応が正しいのかな)
俺は12歳の頃に、何者かに連れ去られ…それ以降の記憶は無いが、その時に特殊能力を手に入れていたのだ。
俺の能力は『守』らしく、なんの攻撃を受けてもダメージを受けないとか。しかし、傷痕は残るらしく、児童養護施設にいた時にはダメージを受けない事を利用され、何度も殴られた。今着ている服の下は傷痕でいっぱいである。
「はぁ…これからどうしたものか…」
すると、目の前から赤髪の青年が歩いてきたかと思えば、俺の目の前で止まる。
「あ、あの…何ですか?」
「……ん?」
数秒の沈黙の後、青年が声を上げる。
「ま、まさか、守っちゃんか?」
「守っちゃん…」
その言葉は少年期に仲良くしていた者しか知らないもの。
「俺だよ!火山、火山灯紅!」
「えっ!灯紅くんかい!?」
そう、その青年は俺の友人であった火山だった。
「久しぶりだなぁ!」
「あぁ、まさかここで出会うとは!」
出会ったのが嬉しかったのか、俺は父の死を忘れ、近くのカフェで思い出を語り合った。
「いやぁ、それにしても街中で再会するとは!」
「俺は引き取られたから、何年振りだろ…」
すると、火山が思い出したかのように話し出した。
「そうだ。俺、とある組織の幹部やってるんだわ」
「ん?」
「確か名前は…『タブーチルドレン』だったかな?」
「えっ、何それ…」
俺の中の緊急警報が鳴り響く。それにお構い無しに火山が話しだす。
「ほら、昔俺達9人は『忌み子』って言われて児童養護施設で虐められてただろ?お前を除いた俺達が幹部やってるのがその組織なんだよ!」
「う、うん…」
「いつでもお前を待ってるから!なんなら、今入っても…」
「い、いや、遠慮しとくよ」
すると、火山の顔から笑顔が消えた。
「ご、ごめんね…でも、なんか怪しそうだし…」
「ふぅん…もしアイツが断れば殺れ…か」
「えっ、何っ?」
「仕方ない。これも命令だし」
すると、火山が俺に手の平を向ける。
「なっ!?」
俺はすぐさま手を掴み、上に向ける。
「おっと」
手の平からは炎が噴き出された。
「まぁ、昔からの付き合いだ。俺の能力ぐらいは分かるか」
火山の能力は『炎』。他にも水や岩の能力を手に入れた奴もいたが、それは今どうでもいい。
「さぁてと。お前はダメージを受けないだけの能力だ。でも、痛みが無くなるだけで痕とかなら残る!」
火山が握り拳を作り、それに炎を纏わせた。
「ファイアパンチ!」
「ぐっ!」
俺は腕をクロスさせ顔を守る。恐らく腕に火傷痕は残るだろう。しかし、火の痛みを感じる事は無かった。
「ちっ」
「火傷ぐらいならもう既に体験しているよ」
俺は腹を括った。これは父さんから学んだことだ。
「う、うぉぉぉぉ!」
俺はコップの中の水をぶちまける。
「なっ!?」
いきなりの行動だったのか、火山は防御出来ずに水が掛かる。
「くそっ、卑怯だぞ!」
「このぉっ!」
さらに近くにあったフォークを手に取り、腹に刺そうとする。
「させるかぁ!」
だが、火山は左腕を前に出したのだ。
「ぐぅっ!」
「くっ…」
左腕を犠牲にしながらも、腹への攻撃を防いだのだ。
「ちっ、流石ヤクザに引き取られた野郎だよ…」
すると火山がフォークを抜き、背を向けて逃げ出した。
「なっ、待てっ!」
「あばよ!次会った時は確実に消し炭にしてやるからなぁ!」
そして、火山はそこを去った。
「………火山…」
俺はかつての友人と戦わなければいけないという事に対し、その場に立ち尽くすしか他無かった。