第17話 かつて救われたもの
遡ること数十年前。当時真白木区の隣町、式沢区をシマとする暴力団の高瀬連合会は仁科組の前身、柏原組と抗争を起こしていた。後にこの抗争は、『高柏抗争』と呼ばれた。
そんな高瀬連合会の末端だったのが、若き日の友添俊だったのだ。
まだ末端だったこともあるのか、仕事は雑務のみ。同期の者達と切磋琢磨していた。
そんなある日。この日は高瀬連合会三代目組長の西条幸生と若頭の桂芳三が珍しく末端の集まる事務所にやって来たのだ。
「よぉ。お前ら。ちゃんと仕事してるか?」
「お、オヤジ!お疲れ様です!」
「お前らは組のお荷物なんだからなぁ。仕事して柏原の奴らを殺ればいいんだよ」
「は、はい…(早く死んでくれねぇかなぁ…)」
西条はその高圧的な態度から、自身の言いなりである幹部を除く組員から裏で嫌われていたのだ。
「さぁさぁ早く仕事を…」
そんな時だった。
「おらぁ!西条のタマ取りに来たぞぉ!」
「あん!?」
そこに現れたのが、当時柏原組の三年目組員でありながら『死神仁科』の異名を持つ仁科義継だったのだ。
「なっ、柏原組のモンかぁ!」
「オヤジを殺らせねぇ!」
自身の昇格を考えた一人の組員が仁科に襲いかかった。
「死ねぇぇ!」
「遅ぇ。まだカタツムリの方が速い」
「ぎにべっ!」
しかし、ソイツは仁科に顔を蹴り飛ばされたのだ。
「俺は西条と桂狙いだ。三下は殺さん」
「ひぃぃぃ!」
「勝てるわけねぇぇ!」
その途端、友添を除く末端構成員がその場を去ったのだ。
「お、お前ら!逃げるなぁぁぁ!」
「何よそ見してるの」
「ぎばがっ!」
いつの間にか、仁科は桂を撃ち抜いていた。
「かっ、桂ぁぁぁ!」
「さぁて。西条幸生。ここがお前の死に場所だ」
その時、西条と仁科の間に出たのは友添だった。
「ん?」
「たとえクソッタレなオヤジでも、殺させはしない!」
「ほう…」
「と、友添…」
友添はドスを取り出す。腹を括った事がわかる。
「し、死ねぇぇ!」
仁科に突撃する友添。しかし、動きに関しては素人。カウンターの右フックが友添の顔に向けて飛ぶ。
「ぎゃのぶっ!」
手加減はしたらしいが、友添は気絶。一人西条が残された。
「や、やめてくれぇ…」
「さぁ。西条。死んでくれや」
仁科のドスは、西条の腹を切り裂いた。
「ぐぼべやぁぁぁぁ!」
西条は死亡。仁科は倒れている友添に言葉を掛けた。
「お前は俺に対して立ち向かった。度胸のあるいい幹部になれるさ」
そして、仁科はその場を去った。
西条の死後、若頭補佐であった桑野が代理組長となり、柏原組にケジメを付けた事により高柏抗争は終了。
死人は柏原組では5人。高瀬連合会では西条、桂を含め7人。(そもそも高瀬連合会の若衆が柏原組の幹部をやった事がこの抗争の始まりだったとか)
後に友添は度胸のある組員として知られ武闘派として名を馳せた。幹部にもなり、最終的には高瀬連合会の組長になるが、タブーチルドレンにより高瀬連合会は壊滅させられたのであった。
「という感じだ」
「はぁ…父さんは、貴方と戦っていたんですね」
「まぁ、瞬殺だったがな」
「そうだ。黒岩は今どこに」
「奴はあそこの病室だ」
俺と友添さん、城さんは黒岩のいる病室に向かった。
そこには一つのベットがあり、ベッドに寝かされている黒岩が外を見ていた。
「黒岩!」
「仁科…城婆ちゃん」
「剛磨ちゃん…ぐぅぅ!」
城さんは泣きながら黒岩に抱きついた。
「もう…心配させて…ぐっ…うぅ…」
「すまねぇな」
二人はまるで、絆で結ばれた親子のようであった。