第16話 たとえ敵でも
俺は仁科守義。唐突な乱入者に驚く男だ。
「やめてぇぇぇぇ!」
その声と共にやって来たのは、ある老婆。その人に、俺と戦っていた黒岩は驚いていた。
「じょ、城婆ちゃん!?」
「やめて、あなたは人を殺しちゃあ駄目なの!」
「だ、だが…」
「あなたはまだ若い!老人である私と違って、やり直せるの!」
「くっ…」
「お、おい、黒岩!この人は…」
「この人は、俺が行っている喫茶店の店主だ」
黒岩は乱入者の城武子の事について話してくれた。
「お前がお世話になった人と…」
「あぁ。学生時代は、児童養護施設でいい飯を出してくれなかったからな。オムライスを出してくれてたんだ」
「確かに、高校生の頃は夜はいつもいなかったよな」
「へっ、お前も覚えてたか」
「剛磨ちゃん…」
「それにしても、なんで俺がここにいることが分かったんだよ」
「あなたはいつも店を出て左の道に行くでしょう?でも、あなたは珍しく右の道に行った。気になって着いていったら、あなたとこの人が戦っていたのが見えたの」
「……やっぱり、亀の甲より年の功か」
「もうやめて…あなたはまだ一線をギリギリ越えてない!もう…これ以上は…」
「……すまねぇな。城婆ちゃん。俺はもう…一線を越えてるんだよ」
「えっ…?」
「俺は…」
その時だった。公園に、二人のチンピラが入ってきたのだ。
「おいおい黒岩さんよぉ。話と違うんじゃねぇの?」
「お前ら、なんでいるんだ!?」
黒岩の話しぶりから、タブーチルドレンの者か。片割れが黒岩に向けてナイフを向ける。
「俺はボスから『もし黒岩が奴と和解するような事があったら殺せ』と命じられているものでね」
「ふん、そんなちっぽけなナイフで俺を殺れるのか?」
「ケケケ、このナイフはボスの能力を纏わせてる。お前も知ってる通り、岩なんて簡単に切れるぜぇ!」
「ぐぅぅ……」
城さんが黒岩の前に出る。
「ん?なんだババア?コイツを守るのか?」
「私のような老いぼれの役目は、若者を守る事!もしこの子を殺すのだったら、私が許さない!」
「城婆ちゃん…」
「あっそう。だったら死ねやぁ!」
チンピラが城さんに切りかかる。
「おらぁ!」
「うっ…」
城さんが切られた…かと思われた。
「やらせるかぁ!」
「ぎのやぁっ!」
俺は寸前に奴の顔を殴り、それを防いでいた。
「はぁ…はぁ…」
「あなた…」
「俺の役目は、皆を守る事。例え、あなた達も守ります!」
「この野郎!」
チンピラが立ち上がろうするが、前に出た黒岩が奴の腹を踏み潰した。
「がぼべっ!?」
「黒岩!?」
「ふん、呉越同舟だ」
「くそがぁぁ!」
残りのチンピラが拳銃を構える。しかし、銃口は城さんに向いていた。
「なら、ババアから死ねぇぇ!」
発砲。俺は急いでバリアを張るも、なんと銃弾はバリアを貫いたのだ。
「なっ…」
俺の頬を掠り、後ろには城さん。
「ぐぉぉぉぉ!」
だが、間に黒岩が入り込み、城さんを庇った。
「剛磨ちゃん!」
その銃弾は黒岩の腕をお釈迦にした。その時、黒岩の叫びが暗闇の公園に響いた。
「がぁぁぁっ!?」
腕からは血がだらだらと流れる。
「へっ、もういっぱ…」
「させるかよ」
俺は先程のチンピラのナイフを拾い上げ、奴を逆袈裟に切り裂いた。
「ごばぁぁぁ!」
チンピラは即死。俺はすぐに黒岩に駆け寄った。
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫か!」
黒岩の額には、脂汗が流れていた。
「痛ぇ…初めての感覚だ…」
「そんな事言ってる場合か!早く治してもらわねぇと」
「おい、仁科」
「あ?」
「敵の…俺を、救うのか?」
「うるせぇ!お前から敵意を感じなかった。ただそれだけだ!」
「けっ…」
俺は黒岩を担ぎ上げ、ある所に向かった。それは、TC壊滅軍の救護所だ。
「殿山さぁん!怪我人が!」
「どうした仁科ぁ!」
救護班の殿山さんがこちらに駆け寄ってくる。
「コイツは…」
「黒岩です!腕を撃たれたそうで…」
「……平等に救うのが、医者である俺の役目だ。おい!急患だ!」
殿山さんと他のメンバーが黒岩を手術室に運ぶ。
「黒岩……」
「剛磨ちゃん…」
俺と城さんは心配しながらも手術の終わりを待った。
数十分後。手術室から殿山さんが出てきた。
「黒岩は…」
「一命は取り留めた。でも、あの感じじゃあ暫くは安静必須だな」
「よかった…」
「うぅ…剛磨ちゃん…」
すると、救護所にある男が現れた。
「仁科」
「友添さん…?」
友添さんが俺の前に立つ。
「……お前、黒岩を助けようとしたんだな」
「えぇ」
「うちのもんが、お前が黒岩を運ぶのを見たそうだ」
「……」
「ふっ、そこも父譲りってところか」
「えっ…?」
「アイツもな、例え敵対組織の一員の奴でも、何も知らない、やってない下っぱの奴は殺さなかったんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。なんなら、俺もアイツに恩がある身だからな」
そのまま友添さんは自身の過去を語りだした。