第13話 金剛石以上の男
俺は仁科守義。要人を影から見守る男だ。
俺は今、民令党幹事長の久木田照泰の護衛をしている。
遡ること数日前、TC壊滅軍の本部に久木田がやってきた。その久木田は過去に差別発言をしており、それが理由で殺害予告を受けていたのだ。
久木田曰くその殺害予告を送ってきたのはタブーチルドレン幹部『岩の忌み子』こと黒岩剛磨。恐らくこの男が久木田を殺しに来るだろう。
そして、友添さんは戦闘班の者に久木田の護衛を任せることにした。その際、条件として『自身の発言に謝罪し、幹事長を辞任する』事を提示した。
久木田は渋々それを受け入れ、俺達を護衛にしたのであった。
俺が護衛をしたのは、謝罪会見の前日。いわば、殺害予告が送られて一週間経ったというわけだ。
念のためか、本来使っている護衛を二人置き、それを陰ながら俺と戦闘班の男、船谷と村瀬が裏の護衛としてついた。
時間は午後6時。真白木区の料亭『やまなか』で会合を行うとか。
「明日辞任するのに、呑気に会合かよ」
「そうだよな」
外で船谷と村瀬がそう話しているが、俺は一抹の不安を抱いていた。
(何か、嫌な気がする…中に護衛がいるとはいえ、アイツらも馬鹿じゃない。何かしてくるはずだ…)
実はこの連日、俺達が護衛をしている時にタブーチルドレン側から何かされてきた訳ではなかったのだ。
護衛をした者は『久木田がビビっているだけ』と言ってはいたが…
すると、料亭に入ろうとするパーカーの男が一人。
「ん?アイツ怪しいなぁ」
船谷が男に近付く。
「オイ、ここは今日貸し切りの筈だ。服装からして政界の人間でも無さそうだが?」
「けっ、やっぱりいるか」
男が拳銃を取り出そうとするも、船谷がその前に目潰しをした。
「ぐにゃっ!」
「やっぱりタブーチルドレンの野郎か」
俺と村瀬が急いで船谷の元へ向かう。
「今から質問をする。お前はあの殺害予告を送った野郎かぁ?」
「けっ、どうだろうなぁ?」
「答えねぇと、死ぬぞ」
「まぁ、俺の役割はここで時間稼ぎすることよ」
「あん?」
その瞬間、俺の中の緊急警報が鳴り響く。
(まさか中で…)
俺は急いで料亭の扉を開ける。
「どうした!仁科ぁ!」
「なっ、待てよっ!」
俺と村瀬が中に入り、久木田のいる部屋に向かう。
「久木田ぁぁ!」
急いで襖を開けた。だが、そこには久木田と会合相手の議員、川原が飲みあっていたのだ。
「ん?なんだよ」
「久木田さん。この人たちは?」
「いやぁ、すいませんなぁ。私もこの方々を知らないもので」
「おい!あまり表には出ないと約束した筈だ!出ていけ」
俺と村瀬は護衛によって外に出された。
「たくっ、お前の杞憂だったんじゃないのか?」
「……」
だが、俺はあの部屋に違和感を抱いていた。
(久木田が護衛を付けているのに、なんで川原は護衛を付けていないんだ?自分もタブーチルドレンに襲われるかも知れないのに…)
その瞬間。部屋から二発撃ったような音が聞こえた。
「がっ!」
「のげっ!」
「何っ…!?」
俺達は急いで部屋に戻る。襖を開けると、そこには護衛が二人、血を流して倒れていた。
「な、川原…!?」
なんと川原の手には拳銃が握られていたのだ。
「いやぁ、自分が殺されるかも知れないのに…流石差別主義者はアホだ」
「な、何を言っているのだね?」
すると、川原の顔が変わった。その顔は笑顔が張り付いていた。
「よっ。仁科」
「い、衣斐…」
「おいおい。止めてくれよ。俺の今の名前はバケルなんだ。本名出すには事務所を通してくれよ」
なんと、川原に化けていたのは、かつての友人の衣斐学だった。
「お前も…タブーチルドレンに」
「そうだよ。意外と面白いぜ」
「ま、待て、本物の川原は…」
「川原ぁ?ソイツなら今頃東京湾の底かね?」
「なっ…嘘だ…」
「衣斐ぃぃ…」
「まぁ、俺はあくまでも護衛を殺す役だ。メインはお前に任せるよ。黒岩」
すると、襖を壊して男が入ってきた。その男も、俺は見覚えがあった。
「黒岩…」
「後は任せろ。バケル。この差別野郎を殺って、すき焼きパーティーだ」
「そんじゃ」
衣斐、否、バケルが急いでその場を去る。
「待てっ!」
村瀬がバケルを追おうとする。しかし、目の前に黒岩が立ちふさがった。
「ここを通りたければ俺を倒してからだ」
「クソッタレェ!」
村瀬が黒岩の鳩尾を殴る。しかし、逆に村瀬がダメージを受けたのだ。
「ぐっぅ!」
「俺は岩の忌み子。たとえ殴っても切っても撃っても爆発させても崩れる事はない!」
黒岩が握り拳を固め、村瀬を殴ろうとする。
「なっ…」
「オラァァッ!」
しかしその刹那。俺は村瀬と黒岩の間にバリアを張った。
「ほーーう?バリアか」
「村瀬さんは久木田を連れて逃げて!」
「だ、だが、仁科は」
「俺は久木田を守るからここにいるんだ!早く!」
「お、おぅ!」
そして、村瀬と久木田がその場から去った。
(あとは俺が機を見計らって…)
「けっ、バリアがあるんなら。もう用がねぇ。久木田も逃げちまったし」
黒岩が興味を無くしたのか、背を向ける。
「どうせボスからこっぴどく叱られるだけだ。もういいさ」
その途端、黒岩の声色が変わる。
「でもよぉ、お前だけは次に会った時は殺す。いいな?」
「……あぁ」
そして、黒岩もそこを去った。
「……皆、変わっちまったな」
俺は一人残された料亭で、そう呟いた。