第12話 砕ける事のない岩
とあるカフェ。
タブーチルドレンの幹部、黒岩はブラックコーヒーにガムシロップを沢山入れたものを飲みながら電話を受けていた。
「それで、鍵枝区の半グレ集団『矢作ブレイカーズ』を一人残さず潰せばいいんだな?」
「えぇ。奴らは我々タブーチルドレンの思想に反するような人間達です」
「あぁ。俺は差別が大っ嫌いなんだわ」
「情報によれば、奴らはこの後午前11時に集会を行うそうです。そこを急襲すればよいかと」
「あぁ。分かった」
「後これはボスからの伝言ですが…ブラックコーヒーに入れるガムシロップの数は2個までにしておけと」
「ふん、分かっているわ」
電話を切り、黒岩は立ち上がった。
「さて、奴らを破壊してやろうか」
そんな黒岩のいたテーブルの上にはコップと空のガムシロップが10個置いてあった。
午前11時10分。矢作ブレイカーズの拠点である廃倉庫にて、リーダーの矢作寛之が10名の構成員に向けて語りかけていた。
「お前らぁ!最近の日本には外国人ばっかりが入ってきやがる!」
「うぉぉぉ!」
「そうだそうだ!」
「アイツらは日本人じゃないのに日本を楽しんでやがる!」
「そうだ!日本は日本人のものだ!」
「明日、奴らが集まる所に爆破テロを行う!知り合いに頼み、大量の爆弾を集めたぁ!それで奴らを…」
「奴らになにをするんだぁ?」
「あん?」
そこに入ってきたのは黒岩だった。
「誰だよてめぇ!」
「俺か?確かそこの矢作とは知り合いの筈だがなぁ」
「けっ、俺はお前みたいな奴は知らねぇなぁ!」
「そうかい」
「まぁ、俺達の作戦を聞いた奴はどっちみち死ぬしかねぇなぁ!」
構成員達が得物を構える。
「死にやがれぇ!」
構成員の一人が刀を持って襲いかかるも。黒岩は余裕の笑みを見せる。
「おらぁっ!」
それは確かに黒岩を切り裂いた筈だった。だが刀が折れ、黒岩は生きていた。さらに傷もない。
「なっ…マジかよ…」
「俺は『岩の忌み子』黒岩剛磨。これだけ覚えておけ」
黒岩の握り拳が頑丈な岩のようになる。
「脳天に岩がぶつかったらどうなる?」
「な、なに言ってる?」
そして、黒岩がそいつに拳骨を喰らわした。
「能天気に脳天直撃!」
「ぎにゃぁっ!」
即死だ。他の構成員が怯える。
「う、嘘だ…」
「勝てる訳がねぇ」
「お前らぁ!怯えるなぁ!撃てぇ!」
矢作に喝を入れられた構成員達が発砲するも、銃弾は黒岩の体を弾く。
「やめろ、来るなぁ!」
そんな構成員の声を無視し、黒岩は奴らの懐に入る。
「鳩尾に正拳突き!」
「ごべばっ!」
「首を折れば楽になる!」
「きびひっ!」
「チンピラ頭を叩いてみれば、文明開化の音がするぅ!」
「ぎのっ!」
次々と殺される構成員達。いつの間にか、生き残っていたのは黒岩と矢作だけだった。
「さぁ、なにか遺言ある?」
「さっき、名前言ったろ…お前、『幸せの園』の出身か?」
幸せの園というのは、児童養護施設の名前だ。それに対し、黒岩は首を縦に振る。
「そうだが。てか、お前もそうだろ?」
「あぁ。確か、『岩バカ』の黒岩って呼んでたっけ?」
「矢作ぃ…あそこを卒園してからろくなことしてないって聞いてたが、こんな事してるとはねぇ」
「がはは!お前も同じ穴の狢だろぅ?」
「ふぅん。お前のその差別意識は変わってねぇわけだ」
「うるせぇ!爆発して死ねぇ!」
矢作が近くにあった手榴弾を手に取り、ピンを抜く。
「ほらよぉっ!」
それを投げ、黒岩の足元に着地。それから間もなくして爆破した。
「けっ、流石に死んだだろ」
しかし、爆破の煙が晴れると、そこには怪我一つない黒岩の姿があった。
「なっ、何ぃぃぃっ!?」
「岩は頑丈なの。わかる?」
「クソッタレェ!もう一発!」
今度は急いでピンを抜き、手榴弾を投げた。
「お前、焦りすぎ。死因それね」
なんと黒岩は手のひらで手榴弾を跳ね返し、矢作の元に戻したのだ。
「えっ…?」
それが奴の最後の言葉であった。
その瞬間、爆破。矢作は他の爆発物ごと木っ端微塵となった。
「さてと…次の仕事は数日後。確か、久木田の殺害かね?」