第11話 堕ちるべき人間
俺は仁科守義。新たな事件に驚く男だ。
雷を殺し二日経ち、TC壊滅軍では平和が訪れ……たというわけでもなく、新たな事件に目を光らせていた。
「『民令党幹事長に殺害予告』…ねぇ」
なんとか回復した副リーダーの我孫子さんが、本部で今日の朝刊を見ていた。
「民令党も大変だなぁ」
「民令党?」
あまり政治に詳しくない俺は、それについて我孫子さんに聞いてみた。
「ん、お前知らねぇのか?」
「いやぁ、あまりテレビは見ないもので」
「民令党ってのは市民令和党の略で政界ではとても名の知られている与党だ。ちなみに、現総理大臣の藤尾実政もそこの人間だったりする。そんで一昨日、幹事長である久木田照泰が殺害予告を受けたんだよ」
我孫子さんが見せた新聞にはその事件を書いた文章があり、その下には久木田に送られてきたであろう殺害予告が載せてあった。
『久木田照泰。お前は差別をしたな。貴様がこれを見た一週間後、岩に潰され死ぬ』
確かにこれは殺害予告だ。しかし、俺は『差別』の部分に目が行った。
「この差別をしたってのは、どういう…?」
「あぁ。奴は四年前に東南アジアの人間を馬鹿にしたような発言をSNSでして、炎上したんだ。一時期は幹事長を辞任するかと思われたが、その時タブーチルドレンが沢山の暴力団を壊滅させている事にマスコミの奴らがそれに集中。いつの間にか久木田の発言は無かった事になった…。まぁ、皮肉にもタブーチルドレンが人を救った話な訳だ」
「でも、今になって過去の発言が掘り出されたのか…」
「あぁ。確かにコイツの発言もよくなかったが、わざわざ掘り返して、ましてや殺してやる…なかなかに酷い話だよ」
すると、本部の門を叩く音がした。
「誰かぁ!誰かいないかぁ!?」
「なんだ?」
「俺が行きます」
玄関に行き、扉を開ける。
「はい」
「助けくれぇ!このままじゃあ殺されちまう!」
ハゲ頭の初老の男が俺に縋り付く。
「な、何ですか…?」
「何の騒ぎだ…?」
男の声を聞き付けた我孫子さんがこちらに来る。
「あ、あんたはTC壊滅軍の者かぁ!?」
「そうだが…って、アンタは民令党幹事長の?」
「あぁ、私は久木田照泰。市民令和党幹事長だ!」
「あなたが…」
俺達は久木田を客室に通し、友添さんと対面させた。
「まさか、政治家さんがここに来るとはねぇ」
「あぁ。私だってあまり裏社会の人間と親しくしたくないもんだ」
「それで、あんた程の人間が何の用で?」
「実は一昨日にこんな者が私の元に送られたんだ」
久木田が見せたのは、一枚の紙。それはまさに先程見た殺害予告そのものだった。
「これは…」
「あぁ。それが送られてから警察は送った犯人を捜してはいるが一向に見つからない!それで業を煮やした私は裏のルートでコイツを送った奴を見つけたのだ」
「それが、タブーチルドレンの者だと?」
「あぁそうさ!確か『岩の忌み子』黒岩剛磨。何者かは存じ上げないが、この男が私を殺しに来ると思うと毎晩眠れないのだ」
「うぅむ…」
少しの間沈黙が流れる。そして、友添さんが口を開いた。
「分かりました。奴に襲われないために、うちの者を護衛として付けます」
「いいのですか?」
「えぇ。うちの者達は元ヤクザとはいえかなりの武闘派。誰が来ても倒せます」
「あ、ありがとうございま…」
「ですが話を聞く限り、貴方のその差別発言により殺害予告が来たと思われます」
「そ、それがなにか…?」
「一週間後、貴方は自身の差別発言に対し謝罪し、幹事長を辞任してください」
「な、それはできん!」
「ほう…?」
すると、友添さんが久木田を睨み付け、ヤクザの一面を見せた。
「今の子供ですら悪いことには謝れる。なのにお前はなんだぁ?過去の発言に謝らず、今もなおその地位にいる!」
「な、貴様、脅しか!?」
「いぃやこれは脅しではない。私がただ反省もしない悪人に怒っているだけだ!」
「ぐぬぬ…」
久木田が数秒黙った末に、遂に言った。
「分かりました。来週、マスコミを集めて謝罪の後に幹事長を辞める旨を伝えるさ」
「そうですか。分かりました。私はそれを聞きたかった」
先程までヤクザの顔をしていた友添さんは、一瞬にして穏和な顔になった。
それからして久木田が本部から去った後、俺は友添さんに一つの質問をした。
「友添さんって、あんなに理不尽な事に怒れる人間なんですか?」
しかし、友添さんの回答は意外なものだった。
「いやいや、普段はペコペコしているようなものさ。リーダーってのは、常時キレる人間には務まらないものだよ」
「そうですか…」
見上げた雲一つもない青空は、まるで友添さんを表しているかのようであった。
ちなみに久木田照泰の由来は暴露屋の主人公、九鬼泰照です。
いわゆるアナザー九鬼泰照ですね