第9話 守りたいものを守るために
俺は仁科守義。かつての友人との戦いを始める能力者だ。
目の前には『雷の忌み子』、雷光。ボクシング選手のような構えで俺を見つめる。
「さぁ、開始といこうか!」
いきなりジャブを飛ばす雷。
「くっ」
後ろに避け、ジャブを回避しようとするも、雷の方が早かった。
「ぐっ…」
いきなりそれは鼻に当たり、痛みはないが鼻がおシャカになった。
「さぁ、次は鳩尾ぃ!」
ストレートで腹を狙う雷。防御の前にそれが通る。
「うっ…」
「ちっ、痛がらねぇからつまんねぇ」
痛みは無くとも確実にダメージが蓄積されている。すると、雷が笑みを浮かべる。
「もう飽きたし、やっちまうか」
そう言い出したかと思うと、俺の目の前から雷が消えていた。
「何っ!?…(いない…まさか)」
その瞬間、後ろからヘッドロックを決められた。
「あがっ…」
「呼吸出来なくなって死ぬか、首折られて死ぬかどっちにするかい?」
「(……父さんが言っていた。相手はそれに慣れていない限り、唐突な行動に驚く)はぁっ!」
俺は近くのワイングラスを手に取り、それを割った。奇跡的にステム部分の先っちょが鋭利なものになった。
「あん?」
「このぉっ!」
そして、それを雷の腕に刺してやった。
「がぁぁぁっ!」
痛みからか腕を離し、俺はすぐに距離を取る。
「げほっ…ごほっ」
「ちぃぃっ、やりやがったなぁ!?」
怒り狂う雷。
「殺し合いに卑怯もクソもない。これは父さんの教えだ」
「まぁ確かにそうだ。正々堂々なんか綺麗事だよ」
第2ラウンドが始まる…。その時だった。
「大丈夫かぁ!」
ポピーに大村が入ってきた。
「仁科、有か…わ」
大村の目には、有川の死体が。死体を見て動けなくなった大村に雷はなにかを思い付いたようだ。
「…馬鹿がぁ!」
雷がステムを抜くと、一瞬にして大村の後ろに回り、口を抑えて喉元にそれを突き立てた。
「なっ…」
「これが本当の卑怯だ、仁科ぁ!」
「この…」
「動くなよ。さもなければコイツを殺す」
「ぐぅぅぅ!」
卑しい笑顔を見せる雷。それは、俺を怒らせる装置となった。
「雷ぃぃぃ!」
「そんなに死にてぇのかぁ?なら、コイツごと死ねやぁぁ!」
ステムを床に落とし、大村をこちらに投げ渡した。
「大丈夫ですか!?」
「俺はいい!雷が!」
雷が手のひらをこちらに見せる。そして、雷のような光線が俺に発射された。
「はぁぁぁ!」
「なっ…」
その時。時間がゆっくり流れるかのような感覚に陥った。
(なんだ…奴の光線が遅い)
そして光線が止まったかと思うと、俺はいつの間にか全てが黒い空間にいた。
(ここは…どこだ?)
すると、どこからか声がした。それは、なんとなく聞き覚えのある声の気がした。
『仁科。お前は人を守りたい。そうだろう?』
「だ、誰だアンタは!」
『それは後だ。もう一度聞く。お前は人を守りたい。そうだろう?』
恐らく何を聞いても答えてくれないと察し、自分の意思を伝えた。
「あぁ、そうだ!」
『それなら、お前の能力を進化させてやる。応用は、お前次第だ』
「何っ!?」
その瞬間、雷が手のひらを向ける瞬間に俺はいた。
「はぁぁぁ!」
光線が発射。
「なっ…」
俺は思わず目をつぶる。その時だった。
「………ん、なんだ。何も攻撃を受けていないような…」
「オイオイ、それは無いだろぉ!」
俺と大村の前には、『バリア』が張られていた。
(これが、俺の進化した能力…)
「ちぃぃ!」
今度は殴りかかるも、雷の拳はバリアにより防がれた。
「くそぉぉっ!どうなってんだよぉぉ!」
雷がバックステップを取り、俺はバリアを無くして大村が拳銃を構えた。今の雷は隙がデカい。
「くたばれぇっ!」
そのまま発砲。
「けっ、こんな銃弾は避けるまでもねぇ!」
俺は先程の言葉を思い出していた。
『応用はお前次第だ』
その言葉の通り、応用で飛んでいる銃弾にバリアを張る。
「はっ!」
雷が電撃で銃弾を破壊しようとするも、バリアによりそれは防がれた。
「やばっ…(まずい、至近距離じゃあ…)」
そしてバリアを消し、銃弾が雷の肩を貫いた。
「ぐがぁぁぁっ!」
雷が肩を抑える。しかし、俺はそれを見逃さない。
「この…悪人がぁぁぁ!」
「やめろぉぉぉ!」
俺は怒りで作った握り拳で、奴の顔面を破壊した。
「ぎながぁぁぁっ!」
これにより、鼻が壊れ、歯もズタボロだ。
「はぉ…はぁ…」
俺は拳銃を貰い、倒れているが意識がまだある雷に突き立てる。
「雷ぃぃ…」
「な、なぁ、仁科ぁ!俺達友達だっただろう?止めてくれよぉ!これは、友達のよしみで…」
「黙れ…お前は、自分の勝手で色んな人を殺した。俺は今初めて殺しをする。これは俺の勝手じゃあない。これは、人の為なんだよ…」
「俺は、差別を無くす為に…」
「差別を無くすには、人を殺さないと駄目なのかぁ!?」
すると、雷は捻り出した言い訳を出す。
「ぼ、ボスの命令なんだ!仕方ないだろう!」
俺はその言葉に絶望した。引き金に手を掛ける。
「すまないが、死んでくれ」
「待って、やめ」
俺は容赦なく、奴の額に何発も、何発も、何発も……鉛玉をぶちこんだ。
「がぁぁぁぁっ!!!」
「はぁ…はぁ…」
玉切れを起こし、雷はポツリと呟いた。
「俺は…ボスに命令されて…やっただけなのに…ぐふっ」
雷は事切れた。その瞬間、俺の頭の中には、雷との記憶が流れた。
かけっこをして、いつも同率だった。飯を食うときはいつも嫌いなものを交換していた。学校のテストでは、どっちも10点代を叩き出していた。
火山と同じく仲良しだった雷を、この手で…
「……ぐぅっ…うぐっ…うぅっ!」
「仁科…」
ポピーは日本では『思いやり』だが、海外では『永遠の眠り』。それは今日、いつも通っているバーで永遠に眠るという悲しい最期を雷は遂げたのだった。
付和雷同・・・自分にしっかりした考えがなく、むやみに他人に同調する諺。