プロローグ 『守』の失い
時は2014年。東京都真白木区の児童養護施設に住む計9人の12歳の子供達が誘拐された事件が発生した。
事件から数週間後、子供達は公園で見つかったが、犯人は不明。いつの間にか時効となった。
だが、その後が問題だった。
子供達がいつの間にか『特殊能力』を手に入れていたのだ。
ある者は炎を、ある者は水を…誘拐された9人全員が何かしらの能力に手に入れていた。
彼らは他の子供や職員達に『忌み子』として蔑まされ、差別された。
それからして18となった彼らは一人を除いて失踪。『忌み子』を知る者は暫くしてそれを忘れた。
そして、『忌み子』の中で唯一失踪しなかった子供は、彼らの失踪前日、とある人間に養子として貰われていたのであった…
四年後、2024年。東京都釘柴町。暴力団嶋脇組の事務所。
「ふぅ…」
組長、嶋脇武はタバコを吸いながら赤髪の青年と会話をしていた。
「それで、お前達の組織の傘下になれと?」
「はい。貴方達がいれば、俺達の組織が強くなります」
「ふぅん」
タバコを灰皿に置き、嶋脇は笑みを浮かべる。
「お前らみたいなケツの青いガキの下っ端になるなんざ100年早ぇ。おこちゃまの遊びには付き合わない方針なんでね、ウチは」
「そうですか…それは残念だ」
青年が横にいた組員に手の平を向ける。
「あん?」
すると、手の平から炎が噴射された。
「ぎゃぁぁぁぁ!熱い!あづいぃぃぃ!」
その瞬間、組員は火だるまとなった。
「なっ!?」
「これを見ても、ですか?」
「くそったりゃぁ!お前ら集まれ!」
嶋脇の叫びにより、組長室に10人程の組員が集められた。
「ガキぃ…ヤクザ舐めるなよ!」
「死ねおらぁ!」
ある組員が刀を振り上げるも、青年は振り上げた腕を掴み、顔に炎を噴射した。
「がぁぁぁ!」
「見て見て、炎の剣」
そして刀を奪うと、刀の上身に炎を纏わせた。
「ふんっ!はっ!」
「ぎゃっ!」
「ごのべっ!」
組員が斬り倒され、残るは嶋脇と若頭の沢田のみ。
「お、オヤジを殺らせるかぁ!」
沢田が長ドスを構え、青年に斬りかかる。
「バカだなぁ」
青年は炎を纏わせた刀で、沢田の心臓を貫いた。
「がっ…ばっ…」
沢田は死亡。嶋脇は拳銃を構え、青年に狙いを定める。
「く、来るなぁ!」
「俺一人に壊滅させられるとは、全く情けない」
刀を捨て、青年は嶋脇の顔を掴む。
「レッツファイア」
「ぎゃばぼぉぉぉ!」
顔が炎に包まれ、嶋脇は悶絶しながら死亡した。
「さ、て、と。ボスに報告しないとね」
一方その頃。真白木区の暴力団、仁科組。
「どうなってやがる…」
組長、仁科義継は最近の出来事に困惑していた。
「大原組に原岡組に岡嶋組…一気に三つの組織が壊滅させられた」
すると、部屋に若頭の伊沢が入ってきた。
「お、オヤジぃ!」
「なんだ!?」
「さ、先程入った情報ですが…嶋脇組が…」
「嶋脇組がなんだ?」
「壊滅…させられたと」
「なんだって!?」
「す、すぐに逃げましょう!ぼっちゃんを連れて!」
「うむぅ…」
伊沢の言うぼっちゃんとは、仁科が児童養護施設から引き取った子供、仁科守義の事であった。
「このままじゃあウチの組もいずれ…」
その瞬間、仁科が叫ぶ。
「馬鹿野郎が!」
「なっ…」
「俺は組の長やってんだ!お前達残して逃げられっか!」
「な、ならぼっちゃんだけでも…」
その時、玄関の方から音がした。
「ぐわぁぁぁ!」
「がばぁぁ!」
「なっ…」
「くそっ…いつの間に…」
仁科が刀を持ち、音の方へ向かおうとする。
「ダメですオヤジ!オヤジが死んだら…」
「ダメだ!子の危機は俺の危機でもあるんだ!」
「くっ…俺はその心意気に惚れてここに入りました。俺も行きます!」
そして二人はそこへ向かった。
「大丈夫かぁ!お前…ら」
「なっ、嘘だ…」
そこはもう後の祭り。組員は殆ど殺られていた。
「な…」
「油断はしちゃだめでしょう」
「あがっ!」
伊沢の体が炎で包まれる。
「なっ、伊沢ぁ!」
「アンタがここの組長さん?まさか前線に出るとは」
襲撃者は赤髪の青年。仁科は躊躇せずに青年に斬りかかった。
「はぁぁぁ!」
「馬鹿が」
手の平を出し、炎を噴射させるも、それを仁科は奇跡的に避けた。
「はぁっ!」
「うおっと、今のを避けるとは」
「この野郎ぅぅ!」
仁科が唐竹割りで青年を切り裂こうとする。しかし…
「真剣白刃取り」
「何っ…」
切られる直前に刀を防いだのだ。さらに、刀が溶け始める。
「なっ…」
「アンタは強い。だから名乗ってやろう。俺は『炎の忌み子』の火山灯紅。『タブーチルドレン』の幹部さ」
「けっ…俺もここで終わりか」
「まぁ、良い相手だったし、即死で終わらせよう」
火山が手刀の構えをし、手に炎を纏わせる。
「じゃあね」
「ぐぶっ…」
胸を貫かれ、仁科は即死。そのまま火山はそこを去った。
それから1時間後、ある青年が事務所に戻ってきた。
「ただいま、父さ…ん」
青年の目の前に広がるのは、何人もの死体。
「なっ、皆!」
それは、自分を愛してくれた仁科組の組員達だとすぐに分かった。
「父さん!父さんは…」
青年は非情にも、父の死体を見つけた。体には穴が空いていた。
「そんな…父さん!父さぁぁぁん!」
青年は叫んだ。
青年の名前は仁科守義。仁科の義子であり、10年前の事件の被害者の一人であった。
彼が手に入れた能力は『守』。