8 ☷ 悪役令嬢は私と一緒に歩く道
あの後『小人にする』呪いを解いて、燕未ちゃんは無事に元の大きさに戻れた。
そして次の月曜日、私はいつも通り学校に通った。ただ今日は燕未ちゃんと一緒にね。
「なんでジメメヌなんかと?」
「青川森様はジメメヌと一緒だなんて、どういうこと!?」
「ジメメヌ、お前青川森様と近づくんじゃねぇよ!」
私が燕未ちゃんと一緒に並んで歩いているところを取り巻きたちが見たら大騒ぎになった。無理もないか。いきなり燕未ちゃんの態度は今までとは全然変わったのだから。
「見ての通りですわ。わたくしはこれから鴎未と友達になりますの」
「「「へぇ!?」」」
燕未ちゃんの宣言を聞いて、彼女らはすごく驚いたようだ。
「っていうか、『鴎未』って誰のことですか?」
「まさかジメメヌのこと?」
「こういう名前だったっけ?」
どうやら取り巻きたちは私の下の名前を全然覚えていないようだ。ずっと名字や『ジメメヌ』と呼ばれていたから。私は今、地味に傷ついてしまったな。
「ジメメヌ、お前青川森様に何をした?」
「まさか洗脳か? それとも何か弱みを握って無理矢理友達にさせた? 許せないわ!」
「何かの呪いで青川森様を操ってるな?」
やっぱり、そう思われるか。てか呪いを使われたのは私の方だけどね。
「みんなさん。誤解しないでくださいまし。わたくしは別に鴎未に酷いことはされていませんわ。むしろ優しくしてくれましたの。わたくしは今すごくすっきりしていますわ」
そう言って燕未ちゃんは恥ずかしそうに赤面をした。
「やっぱり、ジメメヌに何かされたね!」
「許さないぞ!」
「ジメメヌのくせに!」
今の燕未ちゃんの宣言と仕草でむしろ誤解は酷くなってき、取り巻きたちは更にうるさくなってきた
こんな感じて、しばらく燕未ちゃんの取り巻きたちとの対立はまだ続いていく。いきなりそう簡単に変わるわけがないよね。
でも燕未ちゃんは私の味方をしてくれているから、時間が経つにつれ状況はどんどん改善していく。苛めもソフトになって、やがてほとんどなくなった。
いろいろなことはいい方向に変わっていく。私は最早ただの苛められっ子の地味メガネっ娘じゃないんだ。
もう『ジメメヌ』という渾名とはおさらばだな。
その後時間は流れ、もう一度春が訪れて、私たちはもう高校2年生になる。
春休みが終わって新学期の日、私は学校に通う途中、ある女の子と出会った。彼女は私と同じ真っ暗な髪で、地味そうだけど、意外と整った顔の少女だ。背は私より少し小さくて160センチ未満だろう。髪型は私より長く、三つ編みにしている。そんな彼女の姿を見て、私はすぐわかった。
「福川島緒萩ちゃん?」
そう。彼女こそこの乙女ゲーム『おはぎよりその恋の風味』の主人公だ。本当にこの高校の1年生として現れてきた。本来彼女がこの学校に入学したことでこのゲームの本編のストーリーが始まる。
でも悪役令嬢になるはずの燕未ちゃんはもう私と出会ったことで性格が丸くなってしまったね。もう悪役令嬢になんてなれないのでは? こうなるとゲームのシナリオはどうなってしまうのかな? 気になるけど、今はもう私とは関係ないことだよね。
「あの……なんで私の名前を?」
緒萩ちゃんは不思議そうな顔で訊いた。今のは口に出たか。
しまったな……。いきなり知らない人に名前を呼ばれたら変だと思われるよね。
「あ、ごめんね。何でもないの。私のことなんて気にしないで。ただのモブだから」
彼女は主人公で、私はただのモブ。やっぱり住む世界は違って、あまり関わらない方がいい。そう思っていたのだけど……。
「あれ? 『モブ』って、その言い方……。まさかあなたも転生者ですか?」
「えっ? へぇ!!!」
今彼女の口から『転生者』って。それに『も』って。つまり……。そうか。そうなるか。
どうやら主人公も転生者のようだ。
しかもその後私は彼女と話し合ってわかったんだが、緒萩ちゃんも前世は男で、攻略対象のイケメンたちのことなんて全然興味がないって。そして彼女……いや、彼の推しも悪役令嬢だった。燕未ちゃんとは別の悪役令嬢だから私とのライバルにならなくてよかったけど。
主人公はこうなってしまったら、これからこの乙女ゲームはどうなってしまうの? もうメチャクチャだ。
それに他にも転生者がいるという可能性も低くないだろうね。どうやらゲームのシナリオを本来あるべき形から遠のかせていくのは私だけではないようだ。
でもこの世界はどうなろうと、そんなことはもうどうでもよかろう。私には燕未ちゃんがいて、一緒にいて幸せだからただそれだけでいい。
そして今年も私は彼女と同じクラスでよかった。
「ね、鴎未、あの呪いの藁人形の間違いを改善しましたの。今回ちゃんと胸を小さくできるはずですわ」
去年と同じように私は燕未ちゃんの後ろの席で、彼女は元気そうに私に朗報を伝えた。
「本当!? ありがとう。燕未ちゃん。大好き!」
これは私と燕未ちゃんの約束の一つだ。前回あの藁人形にかけた呪いの失敗の所為で『胸を小さくする』ではなく、『小人にする』ということになってしまったから。
「でも本当にいいですの? この胸はわたくしとあなたの絆みたいなものですもの」
「燕未ちゃん、こんな言い方ってまるで私と付き合っているのは体目当てみたいね」
「違いますの! もうわかりましたわよ」
付き合ってから燕未ちゃんは随分私のこのCカップに執着心を持っているようだ。時々襲いかかってきたこともある。
確かに私たちはこういう関係になったのもこの胸が一つのきっかけだったよね。でもこんなものはもういいの。たとえこんなものはなくなっても私たちの絆は消えるわけではない。
「でも本当にもう失敗はしないよね? また小人になったりしたらもうごめんだよ」
「それは……。まあ、実際に試してみないとわかりませんこと」
「何こんな自信のなさそうな言い方。不安しかない」
なんか嫌な予感もするけど、まあいいか。燕未ちゃんを信じよう。
私は期待に胸を膨らませている。もちろん物理的な意味ではない。実際にこの胸がこれ以上膨らんでしまったら困る。膨らませるどころか、これから縮めに行くしね。
そして放課後、私は燕未ちゃんの家に来て呪いの藁人形を使ってみたけど……。
「何じゃこりゃ!!!」
私は自分の胸に手を当ててみた。やっぱりペッチャンコだ。確かに望んだ通りあのCカップの胸がなくなった。それはいいけれど……。
「鴎未、あなたすごく可愛いですの!」
燕未ちゃんはニコニコ笑っている。私を見下ろしながら。
「そ、そんな……」
私も彼女も同じ体勢で立っているのに、なぜ私と身長が同じくらいのはずの燕未ちゃんは今私を見下ろしているのか? 自分の視線の高さは低くなったと実感したけど、今回は別に小人になったわけではないみたい。
それに私の着ている制服はなぜかぶかぶかになっている。今自分の口から発した声もいつもと違って、舌足らずって感じだ。
私は部屋にある姿見を見てみた。そしてそこに映っているのは、ぶかぶかの服を着ている7-8歳くらいの幼い黒髪の女の子だった。
間違いない……。私、幼女になっている!
「やっぱり、また失敗か……? ね、燕未ちゃん……」
「胸はちゃんと小さくなったじゃありませんの」
「こんなちっちゃな子供になったから当然だよ!」
確かに胸はペッチャンコになったから、ある意味この呪術は成功とも言えるけど……。
「よしよし~」
燕未ちゃんは子供みたいに私の頭を撫で撫でした。
「燕未ちゃん、なんか嬉しそうね」
「だって、今の鴎未はすごく可愛いですもの。ずっとこのままでいいですわね」
「いいわけないでしょう! 学校はどうするの?」
「問題ないですわ。わたくしは学校の方に説明してこの姿でも通えるようにしてあげますわ。おほほほ」
「そんな……」
「あ、こんな格好ではもうサイズ似合いませんわね。今すぐわたくしの子供の頃の服を準備してさしあげますわ」
勝手に盛り上がった燕未ちゃんは私の反論を無視して部屋から出ていった。
「あの……」
もしかして燕未ちゃん、最初から実はわざと私をこんな姿に? そんなことない……よね?
その後私はしばらくこん幼女の姿で過ごすという覚悟をしたが、結局呪いを解く方法を見つけられず、私はこの体のまま学園生活を送ることになった。
しかもどうやらこの体は成長することはなく、この先の人生で私は『不老幼女』として生きていくだろう。
でもこれで永遠にまた胸のことで悩むことはないのだからこれでいいのでは?
はい、めでたしめでたし……?
~お終い~
最後までお読みいただきありがとうございます。
物語はここで終わりです。
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