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短編 待ち受け画面の人。 護ってあげたい。

作者: 単独行

高校生という時間を戻せない3年間過ごした校舎とももうすぐお別れ。私は進学先が決まって安心してたけれど、歳三くんは志願入隊したから、どこかの部隊へ配属されることになる。

歳三くんとは、高校一年の秋に、私がこれまでの人生で一番の勇気を出して、「好きです。付き合ってください」って告白したのが始まりだ。それからもう二年も経つけれど今までも変わらず仲はいい。でも、彼から入隊するって聞いた時には、ちょっと動揺しちゃって、「どうして入隊するの?」って聞いてしまった。

すると、彼は私から目をそらして恥ずかしそうに言った。



「祖父も父も国防に携わっていて、色々話を聞いていたし、体力には自信あるし、今までは家族や皆に守られてきたし、瑠香と出会ってからは、今度は誰か護りたいって思うようになってさぁ」


「瑠香と出会ってから」って、言われたら返す言葉が見当たらない。逆にうれしくなって、「そうなんだね~」といって、照れをごまかすくらい浮かれてしまった。


でも、ちょっぴり不安が残ってたのは、現代史の授業で、ずいぶん昔に私たちの国から、宗教間による内戦が続いていた中央アジアの国に派兵したっていうのを学んでいて、それなりのリスクがあったってことも先生から聞いていたからだ。

派兵するにあたっては、憲法で禁じられていたから、国会で改憲派と保守派との間で揉めて、最後には強行採決で改憲した事は教科書が教えてくれたけど、それ以上の事は教えてくれてなかった。


ここ数年、海外の情勢も安定しているみたいだし、現代史で習ったような危険な職務には就かなくてもいいのかもという空気感はあって、クラスは違うけど、同級生の女子の何人かは入隊するみたいだし、私たちにとって入隊するのは普通に感じてた。

それでも、強行採決してまで憲法を変えなければならない理由ってなんなのかが、ずっと気になってて、彼が入隊するって聞いてから、本腰を入れてネットや図書室で色々調べてみたけれど、これだっていう答えには出会わなかった。


卒業も迫ったある日の事、その日も図書室で本を読んでいると世界史の先生が入ってきた。目があってしまった私は頭を下げて「こんにちは」と言うと、先生も「こんにちは」と挨拶をされた後に、「土曜日なのに図書室で読書ですか。もしかして、いい本に出逢いましたか」と、尋ねられた。

まさかの質問に、どう答えていいかわからず「いえ。ただ、途中で読むのを止めていた本があったので、早く帰っても暇だからなんとなく」というと、先生は微笑んで「そうでしたか。これはお邪魔しました。」と言って頭を下げられたので、


「そんなことないです・・・・・・。あのっ、先生。今、時間って空いてますか?」


と言って、とっさに先生を引き留めてしまった。先生も少し驚いていたけれど、「今ですか? 少しだけなら大丈夫ですよ。どうかしたのですか?」と言って私に向き合ってくれた。


私は彼の入隊動機を聞いて、彼を応援したいと思ったし、そんな彼についていきたいと思った。でも、少しだけ不安もあった。

それは、政治家の人達が十分な説明もせずに改憲をしてしまった前例があるなら、また、同じことが繰り返されてしまって、歳三くんの身に危険が及んでしまうんじゃないかって。

だから、そうならないようにするには、私はどうしたらいいのかをずっと考えていて、時々図書室に来ては現代史に関連する本を読み漁っていた。

それでも、腑に落ちないことばかりだった。だから、先生に答えの出ない答えを聞いてみようと、思い切って尋ねてみた。


「先生。分からないことがあるので少し尋ねてもいいですか? 」


先生は、「おや。なんでしょう。僕に答えられることならよいのですが。」と言って私の向かい側の椅子の背もたれを引いて腰を掛けた。図書館には勉強している生徒が何人かいたが、もう卒業するのだから臆することもないと思い先生に尋ねた。


「先生。変な質問とは思うのですが、昔、海外への派兵も徴兵制度もなかった時代があったのに、どうして憲法が変わっちゃったんですか? 私、憲法が変わらないほうがずっと平和で居られるのにって思ったんです。それで、色々調べてみたんですが、スッキリとした答えが得られないんです。先生はこの事をどう思っていらっしゃいますか。」


すると、先生は難しい顔をして「・・・そうですね。どう答えればいいのでしょう。」といってしばらく考え込んだ。

これは先生でも答える事が難しい事なのかなと思い焦っていると、先生は「では、これは総体的な意見ではなく、私個人の答えとして受け取って頂くという条件で答えてみますね。」と言って、話を始めた。


「言葉を乱用すると本質を見失うので簡潔にまとめるとですね、それは、その時代が必要としたからです。」


私は驚いて「えっ、それだけですか?」と思わず言うと、先生は頭をかきながら「そうですね。余りにも簡潔すぎましたね。」と言って照れ笑いをした。そして、「でもですね、そう表現するしかないのかなと思ったんです。ああいう法律が成り立った経緯を紐解いてゆくのは、その場にいたものですら難しいと思います。国家の栄枯盛衰はいつだってそういうものなんです。ですが、私たちの国は辛うじて民主主義国家の体をなしているのですから、徴兵制度だって否決するチャンスは何度かあったはずなんですよ。例えば選挙ですね。」


「選挙? ですか?」


「ええ選挙です。」


「それはなぜなんですか。」


「まだ議員を選ぶ権利が私達にあるからなんですよ。あの頃の若者がもう少し政治に関心を持ち、どうすれば私たちの生活を危ういものにする法案を立案する人たちと均衡を保てるか考えて票を投じていれば回避できた可能性があったはずですから」


それは、思いのほか簡単で分かりやすい回答だった。

私は大きくうなずくと先生は「わかっていただけましたか? それはよかった。」と言って胸をなでおろし「来年からあなたにも選挙権が発生しますでしょう。その権利は必ず行使してください。そして、法案というものは時代に召喚されるものですから、派兵や徴兵制に疑問を感じているなら派兵や徴兵制廃止を謳いあげた議員さんが登場したら投票しなさい。それが、あなたが国民であることの権利なのですから。」と言って席を立つと「あなたの下に幸多からんことを。」と呟かれたのが聞こえた。


玄関に行くと扉がガタガタ音を立て冷たい北風が入り込んでいた。時頼グラウンドの土が舞い上がるので、その度にサッカー部の男子がプレイを中断しているのが見えた。私は靴箱から靴を取り出し上履きを入れていると、後ろの方から「よぉ、今帰り?」と彼が声をかけてきた。

「うん。今帰りだよ。一緒に帰ろうよ」というと、照れくさそうに「しょうがないなぁ」と言って彼も靴を出した。そして、彼が靴をはきかえようとしたとき、ふと思い立った。


「そうだ。お願いがあるんだけれどいいかな?」と少しかしこまってお願いすると、「うわっ、なになに。何事? 」と言って後ずさりした。

私は「そんなに怖がらなくていいわよ。あなたを写真に収めておきたいの。だめ?」と、言うと「なんだ、そんなことか。いいよ。気が済むまで撮ってくれ。」と言って彼は、親指を立てたり、髪をかき上げたり、カメラ目線でウィンクしたりしてファッション雑誌の表紙を飾るタレントさんのようなポーズをとり始めた。

私は少し呆れながら「そんなんじゃなくて、普通のポートレートでいいんだよ。ちょっとじっとしてて」と言って、ブレスレット型通信端末にタッチして手のひらを広げると、ブレスレットから伸びるホログラムが手のひらに映し出された。

そして、手のひらに映写されてる画面のカメラアプリをタップして、両手の人差し指と親指を広げて、目の前の彼をフレームの間に抑えた。

「じっとしててよ。もっとズーム!」と、通信端末に声をかけると、手の中のフレームは彼の姿をぐんと引き寄せピントを合わせた。


「歳三くん、そのまま動かないでね。はいっ!」


音声認識でシャッターが切られると、うまく撮れたか、すぐにフォトのフォルダーを開く。


「・・・・・・いい写真だぁ」


思わず言葉が漏れる。


私の手のひらの中の制服姿の彼は爽やかに微笑んでいた。

そして、この笑顔、いつまでも護ってあげたいって思った。




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