008─生徒総会─
入学式を終えた次の日。目を覚ましたノアは重い体をゆっくりと起こして伸びをする。時間帯は昨日と同じ早朝だった。
「……。」
布団から出たノアはゆっくりとした足取りでクローゼットに向かう。中から制服一式を取り出して寝巻きから着替え始めたノアの視界の端で、向かいのベッドに眠っていたヴィンセントがもぞもぞと動き始めた。ノアが視線を向けると動かなくなる。しかし意識は浮上しつつあるのか、しばらくするとヴィンセントは布団から顔を出してゆっくりと体を起こした。
「……ノア、おはよう」
「おはよう、ヴィンセント。今から朝食食べてくる」
支度を進めていくノアの姿を見つめて数回瞬きをするヴィンセント。
「……僕も、行く」
「まだ眠いんじゃないのか?」
「んー……、大丈夫。二度寝はしないタイプだから」
まだ眠い様子のヴィンセントは瞼を擦りながらベッドから出るとそのままクローゼットへと向かう。クローゼットの中にも"贈り物"がちらほら見えたがヴィンセントは気にした様子もなくハンガーにかかったシャツへ手を伸ばす。
「昨日もそうだったけど、ノアって結構朝早いよね」
「学院に来る前はいつもこの時間に起きていたから……癖みたいなものだと思う」
「そうなんだ?じゃあノアは朝に強いタイプなんだ」
何気ない会話を交わしながら身支度を整えていくノアとヴィンセント。ベストを身につけた2人はクローゼットに備え付けられた鏡の前で紫属寮の寮生であることを表す寮色のリボンを好きな形に結び形を整える。最後にブレザーを羽織り制服に身を纏ったノアとヴィンセント。ローブは朝食後取りに来ることで話がまとまった2人は早速部屋を出た。
「朝食食べた後はどうする?」
「まだ決めてない。ヴィンセントは?」
「僕もまだ決めてない」
2人が歩く廊下は昨日ノアが歩いた時と同じく静まり返っている。
「まだみんな寝てるみたいだね」
「そうみたいだな。そういえば昨日、食堂にオリド寮長がいた」
「オリド寮長が?」
「入学式の準備の為に早く起きたらしい」
「オリド寮長も監督生だもんね。んー、オリド寮長もノアと同じで朝強そう」
ヴィンセントの言葉にノアはベネディクトの姿を脳裏に浮かべた。
(……確かに弱そうではない。少なくとも寝坊はしなさそうだ)
これがノアのベネディクトに対する見解だった。夜型と言われても違和感はないが寝坊や遅刻という失態は犯すことがなさそうだと考えるノア。監督生である時点でそこは間違いないだろう。
「今日の朝食はなんだろうね?」
「毎日変わるのか?」
「ほとんどのメニューは日替わりみたいだよ。毎日同じ朝食派の生徒の為にも固定メニューもいくつか用意してあるようだけど。固定メニューがあるのは助かるよね。急いでる時とか迷わないで済むし……」
食堂の扉を開け、先に中に足を踏み入れたヴィンセントが何かに気づいた様子で言葉を止める。ノアが続いて食堂の中に入ると、昨日と同じ場所にベネディクトの姿があった。
「おはよう、ノア君と……今日はヴィンセント君も一緒なんだね?」
すぐにノアとヴィンセントに気づいたベネディクトが軽く手を挙げて笑みを浮かべる。朝だからか、ベネディクトの周辺に爽やかなオーラが漂っているように見えて、ノアとヴィンセントは瞬きを繰り返す。間を置いて2人が挨拶を返すと続いてベネディクトの方から朝食を誘われ、2人は顔を見合わせた後その誘いを受ける事にした。
カウンター越しにメイル達と挨拶を済ませたノアは昨日と同じように少なめに盛られたライスとスープを受け取る。朝食乗せたトレーを手に2人はベネディクトの前の席に腰を下ろした。まだ朝食を食べる前だったのか2人と同じタイミングで朝食を食べ始めるベネディクト。一度既に目の当たりにしているとはいえ、ノアは無意識でベネディクトの前にある朝食に視線を向けていた。
「……え?」
ノアの隣に座るヴィンセントは初めて見る光景に分かりやすく驚いた表情を浮かべる。常に感情を表に出さないように表情管理の教育を受けているはずの皇族の人間ですら、この光景は衝撃だったらしい。
「……オリド寮長って……結構、食べる人……なんですね」
「ノア君も昨日同じような事を言ってたよ」
「初めて見た人は大体似たような反応をすると思います」
ノアが返すとベネディクトは間違いないね。と言いながら笑みを溢す。本人は慣れた様子で特に気にしていないようだった。
「今日は生徒総会の準備ですか?」
「ん?あぁ、その通りだよ。段取りの確認の為に。本来なら最上級生の7年生が取り締まるんだけど……」
ここで言葉を止めてなぜか苦笑を浮かべるベネディクトにノアとヴィンセントは顔を見合わせる。フレデリック、テオ、ルイスの幼馴染3人組から聞いた話を思い出したのだ。
「そういえば、オリド寮長は5年生で監督生になったんですよね」
ノアがベネディクトへ問うとパスタを口に運ぼうとしていたベネディクトが片耳に髪をかけながら動きを止める。
「うん?誰から聞いたのかは知らないけどその通りだ。もっと正確に言うと"5年生の最終学期に"が正しい。今の生徒会も学科長も各寮長達も、私を含めた全員が新6年生の生徒達さ」
「そういえば、全員が6年生だって言ってたっけ?」
隣でパンを口に運んでいたヴィンセントが思い出すように話す。ノアも同じことを思い出し頷いた。そんな2人を眺め、ベネディクトはパスタを口に運ぶ。そして目を閉じた次にはやや遠い目をしながら再び口を開いた。
「在校生達は……通常より早いこの異例な代替わりに、どこか尊敬の眼差しを向けてくるけど……、私達からするとあれは、ただの丸投げさ」
「ただの……」
「丸投げ……?」
ノアとヴィンセントがベネディクトの言葉を復唱しながら顔を見合わせると、当時の心境を思い出したのか微かに眉を寄せながらベネディクトは再び遠い目をする。
「……通常なら、卒業を迎えた前役職の7年生が次の代の次期7年生の生徒を中心に後任を指名する。そして次の次の代の為にもその下の次期6年生からも数人選ばれることがあるんだ。今の最上級生達も中には6年生の頃から監督生だった生徒もいて、去年までは例年通り最上級生の7年生を中心に6年生を交えて監督生は構成されていたんだが……」
フォークでパスタを巻きながらベネディクトは視線を落とす。
「今年の監督生メンバーが特に異例だと言われているのは、総監督生が最上級生ではないということと監督生メンバーにも1人として7年生がいないという点があるから。──それが、意味することが何か、ノアくん、ヴィンセントくん……分かるかい?」
「意味する、こと……?」
突然投げられたベネディクトからの問いかけにノアとヴィンセントの声が重なった。ベネディクトの視線は2人からの返答を待っているようだ。2人は手に持っていたフォークやスプーンをテーブルに置くと考える素振りを見せた。まず、意見を述べたのはヴィンセント。
「今の6年生達が監督生を任せられるほどの実力と信頼があったから、とかですか?」
ヴィンセントが出した答えにベネディクトは笑みを返すだけで、ノアの返答も待っている様子で視線をノアの方へも向ける。
「…………、7年生が何かしらの問題を起こした、とかですか?」
長い沈黙を経て導き出した考えをベネディクトに返すノア。2人の返答が出揃ったところでベネディクトはニコリと笑みを浮かべた。その笑顔がどこか意味ありげなのはノアとヴィンセントの気のせいではないだろう。
「2人とも、当たらずとも遠からずと言ったところだね」
思ってもいないベネディクトからの返答に再びノアとヴィンセントは顔を見合わせる。ヴィンセントの考えの方は大方納得できるが、7年生が何かしらの問題を起こした、というノアの考えが間違っていないとは。そこにノア本人もヴィンセントも引っかかった。監督生を降りることになるような問題とは一体、と。
「──……。」
ノアとヴィンセントがチラリとベネディクトへ視線を向ける。その笑みがだんだんと闇がさしているように見えたことで、ヴィンセントは内心困惑し、ノアは何度も瞬きを繰り返した。
(え……?オリド寮長、なんか、怒ってる……!?)
(……こんな表情も浮かべるのか、オリド寮長って)
相反する感想を抱く2人の心境を知ってか知らずか、ベネディクトは笑みを深める。
「今の7年生である先輩方は、揃いも揃って一点集中型。"自分の課題に集中したいから"と当時5年生だった私達に、まだ1年も任期が残ってるのにも関わらず役職全てを丸投げしてね。ノア君の考えを否定しなかったのは、この"丸投げ行為"を私達6年生は全員が"問題行為"だと考えているからだよ」
気づけば無くなっていたパスタの器をテーブルの端に寄せてサラダへ手を伸ばすベネディクト。相変わらず、食べるペースは早い。
「……そんなこともあって無事自分達の希望を押し通した7年生達は、入学式を終えた今も学院外の課題学習に専念しているよ。──おかげで今年の監督生メンバーは揃いも揃って1年繰り上げで6年生のみの生徒で構成された過去にもない異例が出来上がってしまったって訳だ。……うん、思い出すだけで、腹が立ってきたなぁ……?」
目の前にある朝食の数々がベネディクトの口の中に休む間も無く運ばれていくのを目で追うノアとヴィンセント。その表情は今も笑顔が張り付けられたまま。その笑顔に恐怖を覚えたのか、ヴィンセントはどこか緊張した様子でごくりと固唾を飲む。
「ち、ちなみにその主犯とかって…」
何故か恐る恐ると言った様子でヴィンセントがベネディクトに問いかける。ヴィンセントから質問を受けたベネディクトの手が不自然なほどにピタッと止まったことで、ノアとヴィンセントも無意識に固まった。
「……」
「……。」
3人の間に沈黙が流れる。キッチンの方から今もメイルやエンデリア、ターシェ達が朝食を作っている音が聞こえてくる中で、ノアの隣に座るヴィンセントは内心焦っていた。
(ま、まさか……いや、そんなわけないよね。……で、でも……あり得ないわけでは、ない……なぁ……)
いっそのこと違ってて欲しいと心の底から願うヴィンセントのその祈りは届かず──。ベネディクトはしっかりと現実を突きつけた。
「主犯は──"前"生徒会長様だよ」
今までにない爽やかな笑みを浮かべながらのベネディクトからの返答。声色には微かな怒気が含まれている。特に"前"の部分にかなりの私念が込められていたように感じさせた。
「……。」
ベネディクトの声色や言葉の節々からひしひしと伝わるそれら……にも関わらず浮かべられた笑顔はより一層爽やか。もはやカオスな状態のベネディクトの様子にノアとヴィンセントの恐怖心が煽られ、背筋が凍ったように冷たくなる。ヴィンセントに至ってはピシッと固まったように動かなくなってしまった。それもそのはず、ベネディクトの視線はどういうわけかヴィンセントにばかり向けられていたからだ。
「……う、うちの兄上が……申し訳、ないです」
やや体を強張らせながらヴィンセントが謝罪したことで、ノアは瞬きをした。どうやらその問題行動を起こした主犯格の生徒は総監督生の前生徒会長、そしてその生徒はヴィンセントの兄だったらしい。つまりこの帝国の第一王子という事。
「うん。ヴィンセント君、君が謝ることではないよ」
食後のデザートに手を伸ばしながら、ベネディクトはヴィンセントに笑みを返す。ヴィンセントが緊張を緩めかけた時、ベネディクトは言葉を続けた。
「──深夜だというのに急に呼び出された事も、ただの呼び出しに応じただけで役職も業務も責務も全て丸投げされた事も、就任式を終えてすぐに前倒しで課外授業に出て行った事も……うん。私達は"全く"、"微塵"も気にしていないよ。過ぎたことを気にしたところで、禁術を使わない限り、"既に起こった物語"は変えられないからねぇ?」
微塵も気にしていないようには見えないベネディクトの発言にノアはそっとヴィンセントへ視線を向けた。ヴィンセントはもはやベネディクトを直視できない様子で水の入ったカップに手にひたすら喉を潤すことに徹している。
「……あぁ。でも、"もし"ヴィランス前生徒会長に会う事があれば──弟である君の方からも伝えておいてくれると嬉しいかな。"重要な要件"は"事前"に"余裕"を持って、"決定事項を投げつけるんじゃなくてまずは打診して欲しい"──ってね?」
ベネディクトの"お願い事"にヴィンセントはこくこくと何度も頷く。
「は、はい…次会った時に、つ、伝えておきますっ!!」
(……まるで、捕食者に出会してしまった獲物のような姿だ……)
2人のやり取りを聞きながらノアは今も隣で怯えるヴィンセントに視線を向けて、次にベネディクトに視線を向けた。
「オリド寮長……。あまり、後輩に当たるのは……」
ノアが助け舟を出すと、ベネディクトも流石に大人気ないと感じたのか一度ため息を吐いて頷く。
「……そうだね。私とした事が身内だからと罪のない後輩に当たってしまうのは筋違いだったよ。まぁ、次にヴィランス先輩が学院に戻ってきた時──恐らく監督生メンバーが黙っていないだろうが……。その時は"そういった経緯があった"という事で察しておいてくれるかな」
「は、はい……その、本当に……兄上には僕からも注意しておきます」
今もプルプルと体を震わせるヴィンセントの姿に、ベネディクトは普段通りの穏やかな笑顔で頷いた。
「……?」
ようやく話がひと段落したところで、ノアは気づく。あんなに大量にあった朝食をベネディクトが既に食べ終えていることに。ベネディクトの切り替えの速さよりも、ノアが驚くポイントはここだった。しかもデザートまでもが綺麗になくなっている。
(……いつの間に?)
ノアとヴィンセントが恐怖心に占領されている間に、ベネディクトは手早く朝食を済ませてしまったのだろうか、とノアが1人首を傾げている間にもベネディクトは最後に水を流し込む。
「……さて、私はそろそろ行こうかな。一緒に朝食を取れて楽しかったよ」
ベネディクトがトレーを片手で持ち上げながら立ち上がるとテーブル越しにトレーの持たない手を伸ばし、ノア、ヴィンセントの順に頭を撫でる。
「また一緒に食べよう。ノア君、ヴィンセント君」
ヴィンセントはこくこくと頷き、ノアは一度だけ頷いた。対照的な2人の反応にベネディクトは僅かに口角を上げる。ベネディクトが食器を返却し食堂を出て行くまでの間、ノアとヴィンセントは無言のまま見送り、最後にベネディクトが軽く手を振ったのを最後にパタリと食堂の扉が閉まった。
「──ノ、ノア〜〜〜っ‼︎‼︎」
ドアが閉まったと同時にヴィンセントがノアの体に飛びつく。ベネディクトの怒気を含んだあの恐ろしい程にまで爽やかな、あの笑顔がよっぽど怖かったらしい。
「こ、怖い……っ、怖すぎる……」
ヴィンセントは思い出したようにブルブルと体を震わせて両肩をさすっている。
「……。」
ノアの方もヴィンセントほど態度には見せなかったが、さっきのベネディクトを思い出し恐怖心を抱いていた。
(……オリド寮長は、怒らせない方が身の為だな……つい、母を怒らせてしまった時のことを思い出してしまった…………。)
密かにベネディクトは2度と怒らせまいとノアが誓ったと同時に、さっき閉まったはずの扉が再び開く。
「──あ、そうそう。言い忘れていたけど……」
「っ……!!」
「……オリド寮長」
分かりやすく両肩を跳ねさせるヴィンセントの代わりにノアがベネディクトの方へ視線を向ける。
「生徒総会、遅れないように」
何事もなかったかのように柔らかな笑みを浮かべるベネディクトに対してヴィンセントの方はさっきと同じようにこくこくこくこく、と何度も頷く。もう土器が含まれていないとはいえ、その人当たりの良い笑顔は今の2人にとっては恐怖心を煽るだけだった。それをベネディクトは自覚してやっているのか、どこか面白がっているようにも見える。
「……分かりました」
どこか楽しげなベネディクトにノアが頷くと満足した様子で今度こそ学食を出て行くベネディクト。再び身を寄せてきたヴィンセントの背中をさすりながら、自分以上にしばらくベネディクトの笑顔に怯えることになるだろうことに同情するノア。──そうしてすっかり冷めてしまった朝食を済ました2人は長居することなく食器の返却口でメイル達に感謝の言葉を伝えて食堂を出た。外に出る気分にもなれなかったノアとヴィンセントは自室でゆっくり過ごした後、ローブを羽織り大ホールへ向かう為に寮を出る──。
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「──やっぱり、中等部生は僕達だけみたいだね」
「……そうみたいだな」
隣に座っていたヴィンセントがこっそり耳打ちしてくる。ノアが周囲を見渡すとそのほとんどが入学式の時同様、初等部の制服を身にまとった幼い魔術児達だけで、会場内にはノアとヴィンセントの他に中等部生らしい人物は見当たらない。
「……あれ?でも、一番後ろの席に座ってる人って……僕達よりも年上みたいだね」
「一番後ろ?」
視線を向けていることを悟られないようにゆっくり振り返り、ノアはヴィンセントが向けた視線の方を見る。
「……。」
そこには確かにここにいる生徒達よりも年上の、身に纏った制服も初等部や中等部のものとは違うものだった。どちらかというとベネディクトが来ていた高等部のデザインに近い。
「……高等部生だとしたら、珍しいね。僕達みたいな中等部からの入学も滅多にいないのに……」
ヴィンセントの言葉に頷きかけた時、入学式の時と同じ司会進行役の生徒が舞台袖付近に置かれた演台の前に立つ。どうやらオリエンテーションが始まるらしいとノアとヴィンセントは姿勢を正すとステージの方を見た。
「──これより、新入生オリエンテーションを始めます」
舞台袖からペネルペが姿を現すと、学院長によるフィスラティア学院内のおおまかな説明が始まった。この学院は一般的に8歳から19歳までの12年制。学院の生徒数もペネルペから伝えられたがその人数の多さに誰もピンと来ていない様子。初等部、中等部、高等部の自動進級式で、飛び級制度有り。高等部卒業後はさらに5年間の研修部に在籍する選択肢も用意されていることも伝えられる。それだけの生徒達が収容されているこの学院の規模はやはりかなり大規模だった。今新入生達の前に映し出されてる学院敷地の全体縮図からもその事が分かる。
「……。」
ペネルペから引き継いだ別の教師から魔術像を元に学院内の説明を受け終えると、最後に別の教師が入れ替わる形で演台の前に立ち、各学科紹介が始まった。
──フィスラティア学院には"専攻学科"というものがある。初等部4年生から高等部までの生徒が専攻する必修科目で、共通学科とは別に学科別の授業が開かれる。共通学科と専攻学科の違いは簡潔にいうと学院側が割り振ったか自分で決めたかの違いだという。所属寮も専攻学科も関係なく振り分けられた共通学科ではその名の通り共通科目を、自分で選択した専攻学科では各専門分野を。
ほとんどの生徒達は自分の潜在魔術を専攻基準にしている。自身の潜在魔術の属性、性質、用途などを鑑みて尚且つ自分が興味のある分野から専攻学科を選択する。
「──専攻学科は、魔術基礎科、特級魔術科、魔術騎士科、医療魔術科、制作魔術科、建築魔術学科、魔術素材科、魔術文書学科、魔術産業学科の9学科を主軸とし、さらにそこから細分化され全部で20分野以上。各学科の詳細についてはまた専攻選択時に説明があります」
口頭での説明が終わったと同時に司会進行役の生徒が再び舞台袖から姿を見せる。どうやらこれでオリエンテーションは終わりらしく、上層階に在校生達が入場するのを待って生徒総会に入る。
──生徒総会は監督生である各学科長と各寮長の紹介から始まった。そこには言わずもがな、紫属寮の寮長であるベネディクトの姿も。ベネディクトは寮長としてだけでなく、魔術開発科の学科長としても紹介される。ノアが専攻した特級魔術科の学科長はディアン–ウェストル。どういうわけか生徒会長までもが学科長を兼任していた。
「……。」
学院内の部活動の紹介の最中、ノアは隣に座るヴィンセントへと視線を向ける。ヴィンセントはというと、ステージ上にいるベネディクトの姿に微かに緊張した様子。それに気づいているのか否か、ベネディクトの方は終始笑顔を浮かべていた。ベネディクトだけではなく、6年生の表情にも各々の、何かしらの意味が含まれているように思えたノアだったが……それ以上深く考えるのは止めた。自らトラウマを増やすような真似はする必要ないと判断したのだ。
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こうして無事(?)生徒総会も終えたノアとヴィンセントは大ホールの外に繋がる魔術門を通った。
「ノア、この後どうする?」
人混みの中を歩きながらノアは少し考える。
「時間もあるしそのまま昼食を食べよう」
「うん、そうしよう」
オリエンテーションでは学院内の商業施設──メディウムタウンにも飲食できるエリアが併設されているという説明を受けたこともあり、2人の中でメディウムタウン内にあるお店で食べるかという話も出た。しかし長時間座り続けて説明を受け続けたノアとヴィンセントは思いの外疲れを感じていたこともあった為か、紫属寮に戻って学食で済ませることで話がまとまる。その後は自室でゆっくり過ごすとことにして、ノアとヴィンセントは共に紫属寮の方向へと向かった。
──ちなみに余談ではあるが、昼食を食べている時にヴィンセントの専攻学科も特級魔術科だという事が判明し、ヴィンセントは目に見えて嬉しそうな様子だった。
源創魔術師の黙示録を一読いただきありがとうございます。
世埜です。今回の話は誰もが一度は受けたことがあると思われるオリエンテーションや生徒総会の回。
もしかしたらノアやヴィンセントを含めた新入生達同様、読者の皆様の中にも疲れを感じている方がいらっしゃるかもしれません。
ベネディクトの意外(?)な一面も垣間見えましたが、少しずつノアとヴィンセントがベネディクトとも親交を深めている場面が書けて楽しかったです。
毎月15日を目標に更新予定。※あくまで予定。
次回の更新は11/15(火)18:30予定です。
魔術児達が織り成す物語、目を通してくださる皆様にも楽しんで頂けますように。