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源創魔術師の黙示録  作者: 世埜 黎(SenoRei)
入学編
3/10

002─紫寮監督生─


 「──それでは、監督生の元へと向かいましょう」


 一通りの手続きと説明が終わったらしく女性は話を切り上げると席を立った。部屋に入って間もなくして受け取った入学式の予定表をトランクケースの中へ仕舞いながらノアも続いて立ち上がる。


「……」


 部屋を出た女性の後を着いて行きながら、ノアは本館の中の様子を観察した。広い廊下の両壁にはいくつもの扉が並んでいる。本館建物内はかなり広く見えるが、管理は行き届いているようで埃ひとつない。室内も廊下も装飾が適度にされていて、内装を担当した人物のセンスの良さが伺えた。


「……」


 途中で建物内を観察しているノアに気づいた女性は、ノア以外の生徒が見当たらないことを不思議に思っていると勘違いしたのか、校舎や寮はここから離れた場所にある事や本館に立ち寄る生徒は滅多にいないことなど知っていて困ることはないだろう内容の話を始めた。


「……」


 ノアは再び周囲を見渡す。気にしていなかったが、確かに女性の言う通り本館内はここで働く職員や従業員と思われる大人達ばかりで生徒と思われる子供の姿はない。女性の話の通りなら院生活内で自分がここへ足を運ぶ事はほぼないだろうとノアがぼんやりと考えていると、前を歩く女性が向かい側から歩いてきた人物へ挨拶を交わしていた。後に続いたノアも一応ペコッと軽く会釈をすると相手も同じように会釈で返してくる。


 2階に続く階段を上り、またいくつかの部屋の前を通り過ぎていく。突き当たりの部屋の前で女性が立ち止まったことに倣い、数歩後ろでノアも立ち止まった。女性が扉を数回ノックすると中から微かに声が聞こえてくる。間も無くして扉の向こうから現れたのは、この学院のものと見られる制服を身にまとった男子生徒の姿だった。恐らく彼がこれから対面する予定の人物、紫属(ファウスト)寮の寮長だろう。


「どうぞ、こちらへ」


 女性に促されるままノアも続いて部屋の中へ入ると、女性は仲介役として監督生と思われる生徒をノアへ紹介する。


「セレシルヴァさん。こちらは貴方が配属された紫属寮の監督生、オリド寮長です」

「初めてまして、ノアフォルトス-セレシルヴァ君。これから君の生活のサポートをする。ベネディクト-オリドだ」


 目の前に差し伸べられた手を見て、ノアは自分より高い位置にあるベネディクトの顔を見上げた。肩につかない程度の長さに切り揃えられた銀髪とやや鋭さを備えた切長の紅い眼。男性にも女性にも見える中性的な顔立ちを持つ彼からは不思議な雰囲気が漂っていた。ベネディクト-オリドと名乗った紫寮の監督生は自分をジッと見つめるノアを見下ろし柔らかな笑みを浮かべる。物腰の柔らかさや雰囲気から温厚そうな人だ、と言うのがノアの第一印象だった。


「……」


 ノアは最後に一度瞬きをして、こちらも貴公子然とした柔らかな笑みを浮かべた。


「ノアフォルトス-セレシルヴァです。これからよろしくお願いします」


 差し出されたその手を握り返すノアにベネディクトは満足げに頷いた。どこか嬉しそうな様子のベネディクトにノアが微かな疑問を抱いていると、2人の間に一歩引いた場所に立ってた女性が声をかけてくる。


「──それではオリド寮長、後はお願いします」


 どうやらここで役目を終えたらしい女性はノアとベネディクトへ軽く会釈すると部屋を後にした。扉が閉まるのを見届けてベネディクトは、今も目の前に立つノアから室内にある長椅子の方へ視線を向ける。


「……さて、まずはこの学院の寮について説明しようか。少し長くなるからそこの長椅子に腰をかけるといい」


 ノアがこくりと頷くとベネディクトは何故か小さく笑みをこぼした。ノアに続いてテーブルを挟んだ向かいの長椅子に腰をかけたベネディクトは、静かに口を開く。


「生徒は基本的に全員、配属された所属寮内で寝食をする事になっている。監督生の許可を得た時のみ別の寮や作業棟への外泊が可能だ。その場合はなるべく事前の相談が好ましい」


 ノアが静かに頷くとベネディクトも同じように頷く。


「この学院の寮は紅属(ディスカルト)寮、緑属(グリンレイズ)寮、金属(アウレセイヴ)寮、青属(クラウン)寮。そして僕と君が所属する紫属(ファウスト)寮。全部で5つある」


 ベネディクトは指折りしながら寮の名称を諳んじると、組んだ足の上で指を組みながら説明を続ける。


「寮の名前はこの学院の設立者、古代魔術師達の名から来ているから帝国出身の君にも馴染みはあるだろう。次に各寮の配属についてだが魔素の属性のことは、授業で詳しく習うだろうからここでは説明を省略するよ。──各寮の配属方法の傾向は主にこうだ。紅属(ディスカルト)寮なら紅属性(ディスカルター)緑属(グリンレイズ)寮なら緑属性(グリンレイズス)金属(アウレセイヴ)寮なら金属性(アウレセイバー)青属(クラウン)寮なら青属性(クラウリスト)。まぁ平たく言うとほとんどの生徒は自分の魔素属性に沿って各寮に配属されるってことだ」


 ここでベネディクトは一度話を区切り、足を組み直した。ノアの眼を真っ直ぐと見たままに彼の毅然とした態度はかなり様になっている。漂わせている気品からは彼が貴族出身と言われても、何ら違和感はない。ここに来る前に目を通していた本には魔術児の身分は問わず、国籍も問わずで多くの生徒が在籍していると記載されていた。帝国内中の魔術児が集められるこの学院内で各寮生を管轄する"監督生"となると、目の前に座るベネディクト–オリドと言う人物は学院内ではほぼ意味をなさないと言われる身分を差し引いても、学院内での実力や評価はかなり高い人物である可能性が高い。


 ──とここで、ノアの意識が削がれていることに気づいたらしいベネディクトが人差し指で軽く机をコンコンと鳴らす。音に気づいたノアが顔を上げると紅い目と視線が合う。しかし咎めるつもりはないらしく、ベネディクトは小さく笑みを浮かべると話を続ける。


「……しかし、他4つの寮と紫属寮は少し違う傾向にあってね。配属基準の大抵を占める紫属性(ファウストア)の魔素を持つ生徒の他にも、さっき君が受けた適性試験の結果から飛び抜けて能力値が高いと判断された生徒や稀に居る混合型の魔素属性を持つ生徒、他にも様々な"特別"と判断された生徒が配属されていて、うちの寮は他の寮以上に魔素属性にも出身にもバラつきがある。他寮は基本的に同郷出身者が多い上に属性も似通っているから寮の特色が顕著に出ているんだ。暇があれば、その辺も観察してみると楽しいかも知れないね」


 ここで何かしらの意味を含んだような視線を向けられたが、ノアは特に言葉を発するわけでもなく頷くだけに留めた。


「さて、これから君が所属する紫属寮について詳しく話そうか。って言っても特別、説明する事はあまりないんだ」


 ベネディクトはそう言って笑みをこぼしながら顎に手を置いて考える素振りを見せる。


「まぁ、大雑把な僕の感想にはなるけど他の寮に比べるとうちはある意味では"普通"だろうね?他の寮はなんて言うか……いろんな意味で曲者揃いって印象が強くて……。まぁ、その辺は実際に君の目で見た方が早いな。──よし、説明はこのくらいにしておこう。後は紫属寮に向かって寮内の案内と君の部屋の鍵を渡して終わりだ。早速寮へ行こうか、ノア君」


 ベネディクトはさっと話を切り上げ、その場に立ち上がる。ベネディクトに倣ってノアも席を立ち、足元に置いていたトランクを手にした。共に部屋を出て女性と共に来た時と同じルートを辿る。途中でベネディクトに連れられてノアを本館まで連れてきた女性のもとへ顔を出すと、女性はノアへ"これからの学院生活、貴方にとって縁の多からんことを"と激励の言葉を送った。依然として業務的ではあったものの、そこまで冷たい印象は抱かなかったのは、その目が微かに緩められていたからかもしれない。


 ベネディクトはよく本館に訪れているのか、度々すれ違う大人達に声をかけられる姿を一歩後ろからノアは静かに眺めていたが、相手に声をかけられた時は会釈だけを返した。そうしてたまにベネディクトの話を聞きながら、共に本館の外を出た頃には太陽は本館へ来た時よりも西へと傾いていた。

源創魔術師の黙示録を一読いただきありがとうございます。

世埜です。

今回はオリド寮長、初登場の回でした。

ノアとオリド寮長がこれからどんな関係性を築き上げていくのか楽しみにしててください。


毎月15日を目標に更新予定。※あくまで予定。


魔術児達が織り成す物語、目を通してくださる皆様にも楽しんで頂けますように。

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