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吸血鬼ハンター  作者: けーすけ
2/2

古城の主




 狼男に首筋を噛まれ、気を失った僕が再び目覚めると、目の前には病室の天井が広がっていた。


「おぉ!!気がついたか坊主、取り敢えず命が助かってよかったなぁ…!、」


 声のする方を向くと先程の黒コートの男が満面の笑みでこちらを見つめていた。


「そうだ!自己紹介がまだだったよな。

俺の名はエリック・ヴァン・ヘルシング、吸血鬼ハンター(ヴァンパイア・ハンター)さ。坊主、名前は?」


「ルカ・グレイです。昨日は助けていただいてありがとうございました!」


「へへ、堅苦しい挨拶はいいぜ。お前まだ子供だろ?」


 彼、いやヘルシングさんは懐から名刺入れを出すと僕に名刺を渡してきた。


「吸血鬼狩りが専門なんだが、副業で害獣駆除もやってんだ。家にネズミとかが住み着いてたら、遠離なくここの電話番号までコールしてくれ。」


「吸血鬼?」


「ああ、まぁうちの家系の話になるんだけどなぁ…。」


 ヘルシングさんは少し長い話になる、と前置きをした上で話し始めた。それによると、彼は先祖代々吸血鬼ハンターを生業とした一族の出身で、幼い頃から世界中を旅して怪物退治に明け暮れていたらしい。


「そして俺は、この街にある吸血鬼が潜んでいると聞いてやってきた。だがそいつは唯の吸血鬼じゃねぇ。何せ、一族の歴代の当主が倒せなかった相手だからな…。」


 昨日までの僕なら何を頭の可笑しいことを言っているんだと一笑に付しただろう、けれど実際に怪物に襲われた身となると話は別だ。今改めて、自分の中の常識や目の前の現実が塗り替わっていくのを実感した…。


「まあ、考えたって仕方ねぇ。この街のどこに潜んでいるのか…、それさえも分かんねぇんだ。今は探索にして準備のときだ。坊主も、余り遅い時間に出歩かないようにな。」


 彼は気さくな笑顔で別れを告げて病室から出ていった。その後、入れ替わりに医者が入り、僕は今日中に退院できることを話した。再度看護師さんの手当てを受け、荷物の準備も終わって病院を出たのは、その日の夕方だった。


 早く帰らないと…、そう思いながら僕は繁華街の通りを歩いていた。人通りの多い場所なら目立つから、怪物に襲われるリスクも低い…、はずだよな?


「お〜い!ルカくーん!」

「あ、アリスさん。」


不意に頭上から名を呼ばれて振り返ると、陸橋の上からアリスさんが僕に声を掛けていた。彼女は僕を見つけるなり、階段を降りて近くによってくる。


「君がこんなところに来るなんて珍しいね…、その首の包帯、どうしたの?」

「あ、え〜っと、野犬に噛まれちゃて…。えへへ…。」


 首に巻き付けられた包帯が目を引いたのか、アリスさんは出会うなり首の怪我について聞いてきた。狼男に噛まれた…、なんて言っても信じてもらえないだろうから、野犬に襲われたことにしよう。

 それからはいつも通り、二人並んで帰宅することになった。


「野犬!?大丈夫なの…?狂犬病とか移されてない?」

「お医者さんに見てもらったけど、問題ないって言ってました。」


 そう…、とアリスさんは呟いたが、その後はまたいつもの明るい調子で話し始めた。今日は習い事のバイオリン教室の帰だったようで、今日のレッスンで今の実力ならコンクールで優勝することも夢じゃないと先生から評価されたらしい。生まれ持った彼女の才能なのか、はたまた周囲の環境に恵まれたのか…。

 そんなことを考えながら歩いていると、路地裏の方から大声が聞こえてきた。男女の争う声だ。


「何か揉め事…、ですか?」

「困っている人は放って置けないわ、ルカ君、怪我してるとこ悪いけどお巡りさん呼んできてくれる?」


 内心、面倒事には関わりたくないと思ったが、彼女の強気な姿勢には逆らえない…。僕は急いで交番に駆けつけた。


「ヘヘッ、姉ちゃんかわいい服着てんなぁ…、メイド服ってやつか?」

「今どきそんな服着てるやつなんて、コスプレ喫茶の店員くらいだぜ、まあ、あんたみたいにキレイな顔だと本格的に見えるがな…。」

「待ちなさい!あんた達、何やってんの?」


 私がルカ君に警察を呼ばせた後に路地裏に入ると、そこには二人の若い男が一人の女性に絡んでいる場面に遭遇した。男の一方はガタイの良い長身で、もう一方は、ヒゲの生やしたニット帽の男だ。どちらも人相は悪く、できればお近づきになりたくないタイプだ。長身の男は女性の両腕を掴んで拘束している。


「…!離してください、仕事の途中なんです。」


 押さえつけられているのは使用人の女性のようだ。黒をベースに白いフリルがあしらわれた、割とオシャレなメイド服を着ている。年齢は私と同年代に見えるけど、キレイな顔立ちと鋭い目つきで大人っぽい雰囲気が出ている。

 それに反して、ウェーブの掛かった紫色のセミロングヘアーを縦ロールにしてまとめていて乙女っぽさを演出している…。これも一つの見せ方なのか、勉強になるなぁ…、なんて感心している場合じゃない!


「っと、とにかくその人は嫌がっているじゃないですか!これ以上しつこく絡むなら通報しますよ!」

「なんだぁこのガキはよぉ、俺とやろうってのか?」


 長身の男が使用人の手を離し、手をポキポキと鳴らしながら私に迫ってくる。勇気を出して啖呵を切ってみたけど…、ぶっちゃけ敵いそうにもない…。

緊張して筋肉が強張り、変な汗も出てきた…。


「お巡りさん、こっちです!」

「君たち、そこで何をしている!」


 やった、ルカ君が警察を連れて現場にやってきた。これで時間は稼ぐそとができた。男達は、捨て台詞を吐きながら、青い顔をして去っていく。


「っチ、良いところでサツが来やがって…!逃げるぞ!」

「おい、俺を置いてくなよぉ!!」


 逃げる男達の跡を追い、警察官は走って行った。その場には私とルカ君と、メイドさんの三人が残された。私とルカ君は、余計な体力を使い、緊張していたせいでもうヘトヘトだ…。


「助けて頂きまして、ありがとうございます。これで、旦那様の元へ戻れます。」


 メイドさんはお礼を告げると深くお辞儀をして去っていった。私は息切れした状態で、どういたしましてと返すのに精一杯だった。それにしてももう気力と体力の限界だ。ルカ君と一緒に近くのカフェで休憩してから帰ろう…。


(それにしても…、あのメイドさん、不良に絡まれてる時でも妙に落ち着いているというか、さっき別れるときと顔色一つ変わってないというか…、無表情だからああ見えるのかしら?)



 旦那様の頼み事で、久しぶりに街へ出た。目当ての品は手に入れることができたが、帰り道にゴロツキ二人に絡まれた。このメイド服が珍しいというが…、この地方ではメイド服を着用する使用人というのは珍しくもない。それを知らないなんて、見た目通り常識も知性もないように見える。


(まあ、あの学生と子供が助けを呼

んでくれて事なきを得たのだから良しとしましょう。つまらないことで力を使っても目立つだけでしょうから。)


 空を見るともう日が落ちて星が輝いている。あの方が起きる時間だ…、急いで戻らなければ…。私は橋の袂に身を隠し、周囲に人がいないことを確認して目をつむり、呪文を唱えた。


 ……、呪文を唱えて目を開けると城の礼拝堂に移動していた。外から差し込む月明かりがステンドグラスを照らし、そこに描かれた宗教画が極彩色の光を放つ。いつもの光景だ。

 祭壇の下には旦那様の棺桶が設置されているが、蓋が開いている。


(もう起きていらっしゃったのね…。書斎の方へ行ってみましょう。)


「失礼します。」


 私は書斎の扉の前に立ち、3度ノックをして部屋に入った。返事はない…。探してみると、旦那様は背を向けた状態で革張りの椅子に座り、読書をしている。本の内容に夢中で気付かなかったのだろう。


「旦那様、お目当ての品を購入することができました。こちらです。」

「……、あぁシオン、君か。お使いを頼まれてくれてありがとう。」


旦那様は優しい声をかけながら椅子を回転させ、私の方へ向いた。

輝くような銀髪と燃えるような赤い瞳、彫刻のようなお顔は美しく、黒い夜会服とマントを羽織るそのお姿はまさに貴公子…、女子ならば一度は夢想する、「白馬の王子様」その人ですわ。


「包を開けさせてもらうよ…、おぉ、やはり美しいな、このガレオン船の模型は…、大航海時代を思い出すなぁ、後で組み立てるとしよう…。中々のレア物だからね、探すのに苦労しただろう。」

「一日中街を回りましたが、何とか手に入れることができました。以前から旦那様が目を付けられていた模型店ですが、品揃えは豊富な上に、流通量の少ない年代物も取り扱っており、旦那様の目に狂いは無かったかと…。」


 そりゃ良かった、と旦那様は笑い、いつの間にか手元に取り寄せていたボトルから「赤い酒」をグラスへ注いだ。


「君も飲むかい?新鮮な血とアルコールが良い塩梅に混ざって癖になる味なんだ。」 

「遠慮しておきますわ。」

「冗談さ、君は吸血鬼じゃないからね。」


 旦那様はグラスの血を一気に飲み干し、一息つくと真剣な面持ちで切り出しました。


「私の命を狙う者がこのワラキアの街に来ている…。昨晩、遣いのコウモリから聞いた情報だ。」

「その者とは…、以前仰られていた【ヘルシング】の血族の者ですか?」

「私の命を狙う程の手練れであれば…、十中八九そうだろうね。」


 ヘルシング…、吸血鬼狩りを生業とする一族で、旦那様の一族とは古くから戦いを続けていた、謂わば「宿命の相手」…。


「今までは運良く、戦いから生き延びることができたが…、今度もそうなるとは限らない…。まだ、【ゴエティア】を見つけていない現状では、直接戦うのは避けたいね。」

「では…、配下の者を向かわせますか?」


 私が尋ねると、旦那様は神妙な顔でこう答えました。


「そうだな…、この件に関しては君に任せよう。私は【ゴエティア】の捜索に専念する。あれを手に入れられれば…、この【クリストファー・L・アルカード】の名の下に、魔族が世界の頂点に立つ時代が訪れる。」

「承知しました。ヘルシングの抹殺に関しては、私めにお任せ下さい。腕に覚えがある者を刺客として向かわせます。」


 私は軽く会釈をした後に部屋を出て城門へ向かった。目指すは沼地、そこに住む【悪霊】の力を借りることにしよう。



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