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57、覚悟の無いまま


57、



帰宅して着替えていると、台所にいた梨華が「何?帰るの早くない?」と言いながら2階にやって来た。


「慎吾に送ってもらった!」

「慎吾?ああ、車の中で吉育三聞いてたあの男?」


実際は私が聞いてたんだけど……まぁ、今はそうゆう事にしておこう。


「これから慎吾の車でどっか行くんだけど、梨華も行かない?」

「あんた……野暮な事言わないでよ。慎吾はあんたを誘ったんでしょ?私が行くわけないじゃん」

「いやいや、慎吾とはそんなんじゃないし」


梨華は何を勘違いしてるんだろう。そんなのあり得ないし。


「自分はそうかもしれないけど、向こうはそうじゃないかもしれないでしょ?」

「えぇ!?」

「勝負下着つけた?着替えは持った?メイク落としと化粧水、あとメイク道具……」


梨華はそう言いながら足元に置いてあった私の鞄に勝手に物を色々入れ始めた。


「ちょ、ちょっと待って梨華!」


梨華は「何?」と言ってやっとその手を止めた。その行動はもはやお節介というレベルの話じゃない。


「言ってる事と入れてる物が矛盾してるんだけど」

「え?だから?」


梨華が鞄にいれたのは、防犯ブザー、催涙スプレー、スタンガン……


スタンガン!?


「だから?じゃないよ!勝負下着つけろって言ったクセに護身グッズって何なの?」

「大丈夫。そのスタンガンそんなに威力ないから」

「そうゆう問題じゃないって!」


私が恐る恐るスタンガンを持って鞄から排除して梨華に返すと、梨華はそのスタンガンをそのままエプロンのポケットにしまった。


「だったらそうなる覚悟で行きなよ?」

「いや……さすがにそこまでの覚悟は無いよ~」

「だったら必要でしょ?」


ふと梨華の出してきた防犯グッズの中に大ぶりのキーホルダーが目についた。


「あの……じゃあ、これ、このキーホルダー!キーホルダーをお守りに借りてく!」


そのキーホルダーは背中に交通安全と書かれた不細工なカエルだった。でもよく見ればなんとも言えず可愛いかもしれない。私はそのキーホルダーを鞄につけた。


梨華にそう言われると急に行くのが嫌になってしまった。でもあの状況でキッパリと断れるほど私も非情じゃないし……


慎吾とは正直これ以上どうなりたいとは思わない。それは過去の事がどうと言うより、地元の人と付き合えばこの土地に縛られるようで気乗りしなかった。それを言うとロボ太も同じなんだけど……


ロボ太はここの人達とはどこか違う気がする。


私は迷いに迷って、結局オーバーサイズのTシャツにボーイフレンドデニムに着替えた。誰が見ても全然デートっぽくない格好。


「どこ行くの?山?」


梨華にそう突っ込まれても返す言葉も無い。


それでいい。そんな浮かれた雰囲気、微塵も無い事を全身でアピールして行かないと。


「まぁ、確かに?その格好なら誘わないかも」

「お母さんにはテキトーに言っておいて」

「りょーかい」


結局何の覚悟も無いまま梨華に見送られ、家の目の前に停まっていた慎吾の車に再び乗った。


「お待たせしました!どこ行きますか?」


車内はさっきよりエアコンが効いていてヒンヤリしていた。


「とりあえず高速乗るか」

「高速!?意外と遠出するんですね」


まぁ、こんなド田舎で近場って何もないのはわかってるけど……


遠出が嫌なわけじゃない。多分……梨華の『そうなる覚悟で行けば』という言葉のせいでここを離れるのが少し不安になっていた。


「別に遠出が嫌なわけじゃないんですけど……なんか……多分体育館の事がショックで……」

「だからパーっとどこか行こうぜ!って誘ったんだろ?!」


だからってすぐにテンションが上がったりはしない。


「もうすぐお盆ですよね?海は連れて行かれそうで嫌です」

「あれ?お前そうゆうの信じるタイプ?じゃあ心霊スポットだな」

「絶っ対嫌!バチには当たりたくないし」


目に見えない物を完全に信じ込むほど子供じゃないけど、心霊スポットはそうゆうバカにした気持ちで行きたくはない。


「まぁ、俺達は親族の裏家業のせいでバチが当たってもおかしくないだろうからな」

「きっと村の事業が公に出れば多くの恨みを買うでしょうね」


すると、慎吾が小声で「放火されても文句言える立場じゃねぇだろうしな」と言ったのがはっきりと聞こえた。


……放火?


その一言にどこかモヤっとした。でもどこがモヤっとしたのか明確じゃない、だからその話から一旦距離を置くために話を反らした。


「そもそも心霊スポットってだいたい不法侵入ですよね?」

「許可取って行ったら冷めんだろ。どこぞのユーチューバーじゃねぇんだから」

「私、もっとウェルカムな所に行きたいんですけど」


テーマパークは遠すぎて到着する頃には閉園している。


じゃあ……どこ?


ふと外を見ると、隣の家のシャッターに去年の花火大会のポスターがそのまま張られていた。


「花火大会とか……」


すると、慎吾はスマホで検索して県外のイベントを見せて来た。それは湖での花火大会だった。


「渋滞にハマらなきゃギリ間に合うな、よし、行くか!」


慎吾はスマホを乱雑にドアポケットに放り込むと車の運転を始めた。とりあえず北方面の県外へ向かうらしい。


高速に乗るとお盆休みのせいかすぐに渋滞にはまった。


「ナビでは渋滞大丈夫っぽかったんだけどな~」


無数の赤いブレーキランプを眺めながら二人でため息をついた。


しばらくの間沈黙の時間が流れていると、自分のスマホが鳴り出した。


発信番号の名前はリョウだった。


どうしよう……今は出たくない。


繰り返される着信音に痺れを切らした慎吾が「出ないのか?」と訊いてきた。


正直……外に出られない今の現状で電話に出たくはない。それでもリョウからの電話は何度も何度もしつこくかかって来る。着信音を消しても、何度も何度もスマホが震えた。


「着信、取らなくて大丈夫なのか?急ぎの用とかじゃねぇの?俺は気にしなくていいから出ろよ」


確かに。ここまで何度もかかって来るのは緊急なのかもしれない。そう思い始めていると……


『今どこにいる?』


というメッセージが来た。返信をしようとすると、すぐに着信画面に切り替わり、思わず着信を受けてしまった。


「すみません、ちょっと電話させてください」


狭い車の中でリョウの声が響き渡るのがわかった。


「やっとつかながった!美織!お前今どこにいるんだよ」


あまりリョウとの会話を慎吾に聞かれたく無い。だから小声でリョウにはっきりと伝えた。


「もしもし?あの……ちょっと声の大きさ落としてくれない?」

「何だ?静かにしなきゃいけない所にでもいるのか?」


少し声の大きさは変わったけど、通話の音が確実に聞こえる。


「今、先輩の車で出かけてる所。邪魔しないで」


本当はそんな挑発したくはなかったけど、電話を切る対処法がこれしか浮かばなかった。


「はぁ?お前……先輩ってまさか……金丸慎吾じゃないだろうな?」

「そうだけど?それがリョウに関係ある?もういい?切るよ?」

「待て!切るな!」


それからは少しリョウの対応が変わった気がした。どこか会話を聞かれている前提の空気感。


「……今後の事を話し合いたい。大事な話だ。これから直接会ってだ」

「でも慎吾と行くって約束……」

「今すぐ車を降りろ。今からそこに迎えに行く」


ちょっと待って?リョウが迎えに来る?


「何言ってるの?まだ退院できる状態じゃないでしょ?」


リョウが無理をしてでも迎えに来る理由がわからない。もしそれが梨華の心配した理由だとしたら……


それってリョウの嫉妬?そんなまさか!


するとしばらく黙っていた慎吾が口を開いた。


「こっちも今後について美織と大事な話し合いがしたいんだわ。迎えに来れるなら来てみろよ」


はぁ!?


いつの間にか渋滞は緩和していて、何台かの車が横を通りすぎて行った。慎吾は車線を変えると急に車のスピードを上げた。



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