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55/57

55、大丈夫


55、



次の日、朝目が覚めたら顔に直射日光が当たって眩しかった。


「眩しっ!」


辺りを見回すとそこは脱衣場で、梨華が手鏡で光を反射させて私に当てていた。


「ちょっと何やってんのよ!」

「洗濯機の前に寝られたら洗濯機かけられないんですけど?」

「あ…………そっか、ごめん」


気がつくと洗濯機の前で手紙を持ったまま寝ていた。


そういえば手紙……


「しょうもない内容の手紙」

「え!?まさか読んだの!?」


勝手に人の手紙読むとかあり得ないんだけど?


「別に読まなくてもあんたの様子見ればわかるでしょ。マトモな事書いてあったらこんな所でアンタを起こさなくて済んだ」


確かに……結果的にはしょうもない内容だったのかもしれない。手紙を最後まで読んだところで、現状が何か変わるわけでもない。


それに誰のどんな事情や理由を知った所で、自分が納得いくかどうかは別の話。何も情報が無いよりはマシだけど『別の人と幸せになって欲しい』なんて内容……気分は最悪……


「まぁ、予想とは違っただけで……しょうもないと言えばしょうもないかも……ははははは……」


何だか笑えた。あんなに地面を必死に掘り返して、成海と奪い合ったりもしたのに……結局ロボ太に会いたいという願いは叶わない。


「ちょっと……もう折れそうなんだよね……」

「折れてもいいんじゃない?要は自分の気が済むかどうかじゃない?」


気が済むかどうか……


「でも、空腹だとロクな事考えないからまずは腹を満たしなよ」


その後梨華と母の用意しておいてくれた朝食を食べた。焼き鮭、卵焼き、きゅうりの糠漬け、味噌汁という和食だった。テーブルの朝食を見たら急にお腹が空いてきた。


席について「いただきます」と言って朝食を食べ始めると、梨華が急に「卵、どう?」と訊いて来た。


「え?普通に美味しいけど?」

「それと味噌汁、私が作った」

「嘘!?」


どうやら梨華は私の母から料理を教わり、その料理の腕をあげていた。梨華はどや顔で言った。


「まだまだだけど、簡単なものならできるようになってきたんだよね」

「そうなんだ!凄い!」

「だからそろそろ東京帰ろうかと思ってるんだけど、アンタはいつ帰るの?」


そうか……村の事業も廃止になったし、母の引っ越しも終わったし、ロボ太が生きている事だけはわかった。もう東京に帰ってもいいのかもしれない。


「今週いっぱいまではいようかな。来週からバイトのシフト入ってるから」

「あ~あの唐揚げ屋?」

「居酒屋だから。唐揚げ推しではあるけど」


梨華の中であの店は唐揚げ屋という認識だった事に少し笑えた。


「あそこの唐揚げたま~に絶妙に美味しいんだよね」

「ああ、たまにのせいはね、揚げる人が違うからなの。南さんの唐揚げは絶品なの~!」


私も急に南さんの唐揚げが恋しくなった。静ちゃんにも会いたい。


なんか……梨華がいてくれて良かった。


「じゃあ、今度唐揚げおまけする!」

「やったラッキー!絶対だからね?あ、絶対べちゃべちゃしてないやつね」

「うん、絶対。梨華……来てくれてありがとうね」


梨華は何だか照れくさそうに口にご飯を詰め込んで言った。


「バカじゃない?別にあんたの為についてきたわけじゃないし!私が料理習いに来ただけ!」

「でも別に私の母じゃなくても習えるでしょ?」

「あんたの母がいいの!あのお弁当が目標なんだから!」


あのお弁当?


「小学生の時にあんたがよく持ってきた茶色い地味な弁当。あれがいいの」


私が嫌いだった地味な野菜ばかりの彩りの悪いお弁当。梨華はあれが目標らしい。


「今だから言うけど、当時はあのお弁当が羨ましかった。自分の母親はお弁当なんて作った事無いし、お手伝いさんのお弁当は彩りはいいけど味はイマイチだった」

「そうなんだ……」

「あの頃はいくら願っても叶わなかった。でも時間が経って諦めた頃に叶うチャンスが来た。自分が作れるようになればいいんだって気がついた。願いって願った時に必ず叶うもんじゃないのかも」


そうだよね。私の願いはきっと簡単に叶う願いじゃない。


「まぁ、生きてりゃあんたの願いもババアになった頃叶うんじゃない?」

「ババア!?ババアまであと何年よ!?」

「いいんじゃない?ババアまでのカウントダウンが、願いが叶うまでのカウントダウンだなんてお得じゃん」


確かにそうすれば歳を取るのは憂鬱じゃない。あかりん先輩や南さんの年を感じた時の憂鬱感を見て、歳を取る事に不安を覚えていた。二人には私もその年になればわかると言われたけど……


ロボ太に会える時まで待つ時間だと思えばいいんだ。


朝食を食べ終わって洗濯や部屋の片付けをしていると、リョウから電話が来た。


「もしもし?俺、死にそうなんだけど?」

「命に別状は無いって聞いたけど?」


お見舞いに来て欲しいなら素直にそう言えばいいのに……


「それに、配偶者がいるんだから奥様に世話してもらえるでしょ?じゃあね!」


私は買い物リストに食器用洗剤と書き足しながらリョウとの電話を切ろうとした。すると、リョウは慌てて「待て待て!」と言って電話を切るのを止めた。


「婚姻届出したところで受理されてないはず。俺、婚姻届不受理届け出してるから」

「はぁ?」


ああ、そうだった。そういえばこの人、過去にそうゆう事があって対応済みなんだっけ。じゃあ成海は?騙されたって事?


「だからって成海を騙す様な真似する?」

「でもな、本人はそれでも構わないんだってよ!要は気持ちの持ちようだろ?俺に出す分には戸籍にバツもつかないし書類も偽装じゃない。成海にはちょうどいいと思ったんだよ」

「ああ、そう。何を企んでるのか知らないけど、私達そろそろ東京に帰るから」


もうここにいる意味も無い。きっとリョウも自分の仕事を終えたはず。栄造さんの遺言である事業の廃止宣言も無事にできた。


「俺はまだ帰れない……」

「そうなの?」

「何も聞いて無いのか?ニュースを見てみろ」


ニュース?最近テレビもつけてないし、スマホのニュースも見て無かったかも。


居間に行ってテレビをつけるとちょうどニュースがやっていた。


『居中村大火災、体育館全焼、大多数の元村民が逃げ遅れ』


嘘……何これ……


「誰かが口封じに殺したんだろうな……美織も気を付けて東京に帰れよ?」

「待って?リョウが帰らないのは……もしかして犯人を見つけようと思ってる?」

「あの体育館に残った村人は廃止に賛成だった。でも飲まずに体育館を出た奴もいる。反対する奴がまだいるって事なんだろうよ」


ニュースでは放火でなければ、いくら酔っていてもあんなにも中に人が残される事は無いと報道してた。見覚えのある体育館が見るも無残な姿になっていた。その燃えた跡の映像は凄惨でかなりショックだった。


「………………」


私が言葉を失っていると、リョウが「大丈夫か?」

と訊いてくれた。


「大丈夫」


そう答えるしか無かったけど、怖くてたまらなかった。


「大丈夫……大丈夫……」


自分にいいきかせるように大丈夫と何度も何度も繰り返した。テレビはあっという間に次のニュースになった。私がその場に崩れ落ちるようにテレビの前に座ると、お昼の番組の軽快な音楽が流れ始めた。


信じられない……


私がスマホを耳に当てたままテレビの前で呆然していると、梨華がお昼について相談を始めた。


「お昼どうする?作りおきあるけど」


そして、すぐに異常な状態の私に気がついた。


「……どうした?」


この時、改めて梨華がいてくれて本当に良かったと思った。こんなにも自分がショックを受けるとは思わなかった。



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