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51、手紙


51、



桑の木の根元を無我夢中で掘り返した。これでもし何もなかったら、ちゃんと諦めよう。


根元に生えていた雑草を引き抜いて、スコップでザクザクと掘り進めた。


さすがに自分でもこんなに諦めが悪いとは思わなかった。だけど、これが本当に最後。最後だと決心してここに賭けてみた。


「やっぱり何も無いんじゃない?木の根元全部掘るつもり?」


何も無かった……私が諦めて手を止めると、手離したスコップで今度は梨華が掘り進めた。


「どうせならこの木が倒れるくらい掘れば?そうすれば気も済むでしょ」

「もう……いいよ。この桑の木の実、すっごく美味しいんだよ。木をダメにするのは勿体ないよ」


梨華は今度は別の所を掘り始めた。


「ねぇ、ちょっと思ったんだけどさ、こっちら辺って草少なくない?」

「日陰だからでしょ?」

「土もちょっと柔らか気がする」


そんなに都合良く見つかるわけないよね。こうゆうのってわかりやすい所に無かったら無いもんだし。まぁ、これで私もやっと諦めがつく……


「あったーーーー!!」

「えぇえええ!?嘘でしょ!!」

「なんか、ビニール袋みたいなの出てきた!」


え……まさかまた白紙の日記?もうあんな思いするの嫌なんだけど……


「あ、塊出てきた!もうちょい!」


私は慌てて梨華を手伝った。梨華がスコップで掘って、私が穴から土を出した。もう汗だくの両手は泥だらけ。


これでまた白紙だったら絶対許さない!ロボ太の事一生恨んでやる!!


そう思っていたら……何重にもビニール袋に覆われた一冊の本が出てきた。


「あった!!あったよーーーーー!!本当に出てきた!!なんか出てきたよ!!梨華!ありがとう!!」


私の大喜びに、梨華は手で顔にかかる太陽の光を遮って言った。


「わかったわかった!あーもう暑い!見つけたんだから早く帰りたい」

「とりあえず元実家に行って手を洗おう」


私達は掘った穴を軽く埋めて、元実家まで戻る事にした。私はビニール袋にくるまれた本の土を落としながら庭の水道の所まで来て手を洗った。


家の中のはどうかわからないけど、外の水道はまだ使えた。というのもロボ太の家は今でも役場の資料の保管場所として管理されていて、電気も水道もちゃんと通っていた。


元実家の鍵を開けて中に入ると、玄関は昼でも薄暗く冷房もないのにひんやりとしていた。私は玄関にロボ太の本を一旦置いて水道に戻った。


「うわ~水冷たい。気持ちいい~」


戻ると梨華はタオルを水で濡らすと、顔にかけて涼を取っていた。夏でも冷たいのはきっと井戸水だからかもしれない。


私も熱くなった頭を冷たい水をかけて冷やすと少し冷静になれた。タオルで頭を丁寧に拭いて、玄関の土間にある段差に座って、1枚ずつ丁寧にビニール袋を剥がした。


本のタイトルは最初からうっすら見えていた。


『銀河鉄道の夜』


多分ロボ太の部屋にあった本。その表紙に少し見覚えがある。でもよく考えたら本って事は日記とは違うよね?本に何か書いてあるって事?


6枚のビニール袋を外してやっと本が出てきた。表紙をめくると、綺麗な見返しと遊び紙が出てきた。そこには何も書かれていない。後ろかな?と本をひっくり返すと、本の後ろの見返しから封筒が落ちて来た。


「あ……これ……手紙?」


慌てて本を横に置いて、土間に落ちた手紙を拾った。手紙についた土を払って封を開けた。


その封筒にはちゃんと『美織へ』と書かれていて、飛び上がるほど嬉しかった。文字も懐かしいド下手なロボ太の字だった。ロボ太があの手で一生懸命書いてくれた手紙に泣きそうになった。


嬉しかったのに、手紙の冒頭で絶望した。


『美織へ


君がこの手紙を読んでいる頃には、僕はこの村にはいないと思う』


絶望した次の瞬間からは複雑な気持ちになった。


『村にいないだけで変な意味じゃない。こうゆう出だしの手紙を一度書いてみたかっただけなんだ』


なんかちょっとムカついて来た。


私は水筒の麦茶を飲んでいる梨華に「私にもちょうだい」と言って紙コップに麦茶を注いでもらった。冷たい麦茶を飲み干して、本の隣に置いた。そしてまた手紙に戻った。


『どのような理由で君がこの村に連れて来られたのかは僕は知らない。だけど、君が僕達の癒しと希望になった事は間違い無い』


「僕達……?」


その時は単純にロボ太とロボ太の両手の事なのかなと思った。


「癒しと希望……」


思わず自分の顔が弛んでいた事にも気がつかずふと顔をあげると、梨華が麦茶を飲みながらニヤニヤしてこっちを見ていた。


「何?愛の言葉でも書いてあった~?」

「そ、そんなんじゃないよ!」


『癒しと希望』だなんて言われて舞い上がってる自分が恥ずかしい。手紙に集中しよう。


『この手紙を見つけたという事は今頃きっと君は僕を探しているという事だと思う。だけど、今すぐに止めて欲しい。これ以上、この村に関わらない方がいい』


ロボ太のお母さんも同じ事を言っていた。それは多分、この村の秘密のせいだ。運悪く秘密を知って命を狙われる危険性がある事を教えてくれていたんだと思う。


でも……ハッキリと探すのを止めろと言われると少し胸が痛い。


『これから僕に起こった事実を全てここに書く。だから美織、この村は危険だ。今すぐ村を出て欲しい』


そこで1枚目が終わった。2枚目を開く手が何故か止まってしまった。私は手紙を一度膝に置くと、梨華に麦茶のお代わりをもらった。梨華は麦茶を紙コップに注ぐと手紙の内容を訊いて来た。


「なんて?どこにいるって?」

「まだ……1枚目しか読んでないから……」


どんな内容かはわからない。だけど読む前にもう、ロボ太とは会えない事が決まっていた。それならこれ以上読む意味があるのかと疑問にすら思ってしまう。


「どことは書いて無くても手がかりくらいはあるでしょ?この村にいないのは確実だろうけど」

「そうだよね。やっと掴んだ手がかりだもんね!」


『美織がこの村に来る前、藤丸諒太は三人いた。一人はこの村に8年も前からここにいる見知らぬ奴で、もう一人は一緒に山で遭難したモデルのRYO。三人全員が同じ甲皮症で、同じ藤丸諒太と呼ばれていた』


嘘……慎吾が言ってた通り……諒太は二回人格が変わってる。やっぱり本当に別人だったんだ!!


『最前者の藤丸諒太は成海を使って村から逃げ出した。村を出てどうなったのかは僕達は誰も知らない。僕達二人には警告や戒めの意味で、兄が金を持ち逃げしたというペナルティが課せられた。後で知った事だが、それはペナルティではなく村全体に逃げ出した者がいるという暗黙の伝令だったらしい』


三人のうち、成海と約束して騙したのは最初の人……成海がロボ太と約束したのはある意味真実だったんだ。


『成海や慎吾、そして村全体に嫌われ、僕達はしばらくは二人で藤丸諒太を入れ替わって過ごした。そして、そこへ何も知らない君がやって来た』


じゃあ……モデルのRYOとロボ太、二人とも藤丸諒太だったって事?二人で一人?全然気がつかなかった。今まで私はロボ太の何を見ていたんだろう?


『君との日々は幸せだった。その幸せが、両親役の見張り番の気持ちをも動かしてくれた』


両親役……?あれはロボ太の本当の両親じゃなかったんだ……見張り番?それじゃまるでロボ太が罪人みたいに聞こえる。


『見張り番は僕達が何故この村に拘束されているのか理由を教えてくれた。そして、秘密を守る約束でどちらか一人を先に解放してもいい。そう言われた』


先に村を出たのは誰?RYO?ロボ太?それとも私?時系列がよくわからない。でも確か、慎吾が言っていたタイミングは兄が出て行った時と、私が来た時、


『僕達は当然モデルのRYOの解放を望んだ。行方不明の報道が話題を呼んで、これからの仕事が増えそうだったからだ』


先に村を出たのはモデルのRYO……?じゃあ、成海が約束した元々の藤丸諒太から、モデルのRYOに変わって、その次がロボ太?


だけどそれじゃ『リョウ』がモデルのRYOなのかロボ太なのかは判断がつかないし、ロボ太が今どこにいるのかもわからない。



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