48、違和感
48、
本当は、悠莉さんが『鍵を返した』と言った時点で気づいていた。でもどこかでその事実を信じたくなかった。
私の中では成海は親友で……
『私に鍵を渡して悠莉さんを使って殺そうとした』
なんて考えたくも無かった。それは成海に継いで欲しい親族とか、他の『誰か』であって欲しいと今でも願ってる。
「そんな事、信じたくない……」
「俺だって信じられなかった。だけど……栄蔵さんが無くなった葬式の夜、親父がこれを俺に渡して来た」
それは、私の胸にある鍵と同じような鍵だった。
「それ……」
「親父が俺に『20歳になったら具体的な方法を教える。この裏家業を継げ』と言って来たんだ」
信じられない……慎吾のお父さんは曲がった事が嫌いで、頑固で厳しいイメージだった。本当に人の表と裏を見た気がした。
ふと慎吾の鍵を見てどうにかこのレプリカと入れ替えられないかと考えた。
あの鍵にはこれとは別の情報が入っていて、その中にロボ太に関する手がかりがあるかもしれない。そう思った。
「先輩は……継ごうとは思わなかったんですか?」
「はぁ?そんなヤバい家業絶対やらねーよ!俺はバカだけど、この村にしがみつかなくても稼げる自信はある。金はあった方がいいけど金のために自由まで失いたくないからな」
「うわ意外……先輩ってもっと考え方が狭いと思ってました」
私の失礼な発言に慎吾は「お前もデリカシー無さすぎ」と突っ込んだ。ただ、私はよく言われないけどね!
「諒太だよ。あいつに感化されたんだよ」
『自分はいくら勉強してもこの村からは出られない。だけど俺なら勉強すればどこへでも好きに行ける。自分の未来を自分で自由決める事ができる』
慎吾はロボ太のその一言が忘れられなかったらしい。
「あいつ、本当に気持ち悪りぃ奴だわ」
それなのに慎吾はいつもロボ太を悪く言う。その悪口についつい私は反応してしまう。
「甲皮族はただの身体的特徴だって母が言ってましたよ。私の八重歯と同じだって」
「違う。容姿の話じゃねーよ!中身だ。あいつ、中身が別人みたい……みたいじゃない。中身が別人になってた」
別人……?
「それって、多重人格って事ですか?でも一緒にいた一年半、ロボ太が突然人が変わった~なんて事は無かったですよ?」
「そうゆう代わり方じゃない。うまく説明できねぇんだけど、諒太の兄貴が村を出た時と、美織が来る前と後、その二回別人になった気がする」
元々慎吾はロボ太と仲が良かった。だけどある日突然別人になっていた。その事に他の誰一人として気づく事はなかったらしく、その疎外感や別人という違和感、その時ロボ太に対して嫌悪感が生まれた。
だから慎吾の態度はロボ太に酷い態度を取っていたらしい。正直ずっと普通に元の性格の悪さだと思ってた。
「人間、状況や環境で性格って変わりますよね?ずっと同じ人なんています?」
親が離婚する前はきっと梨華も私も全くの別人の様だった。今では簡単に人は信じられないし、ロボ太と出会った事で考え方も変わった気がする。それが別の人格として見えても不思議じゃない。
「性格は変わっても事実は変わらねぇだろ。成海と約束しておいてあの態度は許せねぇ……成海を裏切ったクセに、成海の前で美織を構うあいつの神経もわからん」
ロボ太は本当に成海と村を出るつもりでいたんだ……
落ち着いて考えたら『あんたさえ来なければ』と言いたくなる成海の気持ちが少し理解できた。 でも、ロボ太が約束を平気で破るとは思えない。リョウならわかるけど……
「それがもし本当に別人だったとしたら……それは仕方のない事かもしれない」
「本当に別人だと思ってんのか?」
「だって私、ロボ太とロボ太のお父さんの区別全然つかなかったんです。一年半ずっとですよ?甲皮族の人ってみんな同じに見えるってゆうか……」
私でさえ別人だったとしても見抜ける自信が無い。リョウだって本当にロボ太なのか別人なのか判断がつかないでいる。この鍵だって…………
「先輩、その鍵貸してもらえませんか?」
私は自分の首にかかっていた鍵と先輩の持っていた鍵を見比べてみた。先輩の鍵には外れそうな接続部分は見当たらない。
「ありがとうございました」
私は慎吾から借りた鍵を返した。
やっぱり……
リョウが悠莉さんから取り返した鍵には少し違和感があった。私が成海から借りた鍵には接続部分なんて無かった気がする。この鍵自体が鍵として機能しそうな感じだった。
もしリョウが持っていた本物だと言っていた鍵が偽物だったとしたら……?私達を嵌めようとしているのは成海じゃないのかもしれない。
「先輩もうすぐ誕生日ですよね?この鍵の使い方がわかったら教えてもらえませんか?」
「はぁ?!」
「だって私、いずれ自供しなきゃいけないんですよね?この鍵を持っていただけじゃ濡れ衣は着れないんですよ?」
自ら濡れ衣を着る奇特な人間に、慎吾は困惑していた。
「お前……何企んでんだよ。その気持ち悪さ、諒太譲りだな」
「私は何も企んで無いですよ。企んでるのは多分、私を使って『この村の秘密を調べたい人』もしくは『この村の裏家業そのものを奪いたい人』です」
そうなれば私も腹を括らざるを得ない。
その後、慎吾に道案内してもらって引っ越し前の家までたどり着いた。そこで慎吾にスマホを借りて母に連絡した。
「どこ行ってたの!?梨華ちゃんも一緒?!」
「山でスマホ落としちゃって……梨華とは連絡取れてないんだけど、そっちにいないの?」
まさかの梨華が行方不明状態に血の気が引いた。
「嘘……」
「お母さん辺り探して来るから!そっちの家の電話がまだ使えるからそっちにいたら連絡して」
「わかった!こっちも探してみる」
どうしよう……梨華がもし遭難してたり誘拐されていたら……部外者だから回収係に連れて行かれたり……
「梨華……」
その様子を見ていた慎吾が、自分も探すと言ってくれた。やっぱり意外と頼もしい所ある。
「私一人じゃ明かりが無くて、バス停から神社辺りまでしか探せない。どうか力を貸してください!」
「じゃあ、お前このスマホ持ってろ。俺がお前のスマホ探して来るから、数分おきに自分のスマホにかけろよ」
この暗さなら着信の光で見つかりやすいと言って慎吾は山へ入って行った。私も電話をかけつつ、家の中やバス停付近を探し歩いた。
すると、慎吾のスマホに着信があった。
「もう見つかったの?」
「…………誰?」
あれ?慎吾じゃない?画面をよく見たら、着信は成海からだった。
どうしよう……慎吾のスマホで電話に出ちゃった……
私は誤魔化す為に、とっさに鼻をつまんで言い訳をした。
「えーっと、成海か~?ヘリウム吸ったら声高くなっちまったぜ~」
「美織だよね?」
全然誤魔化されなかった。
「ダムの管理棟でお友達と待ってる」
お友達って……まさか梨華!?
「あと、慎吾さすがにそんなにアホじゃないから」
そう言って成海は電話を切った。
そ、そうだよね!
私は急いでダムの方へ向かった。走るのはまだキツくて早歩きで歩き進めた。
その間にもう一度着信があった。
「待って!今向かってるから!だから……」
「お前!電話かけろって言ったよな?運良く見つかったけど、お前のスマホ踏む所だったんだぞ?」
「ありがとう!先輩!ダムの管理棟まで持ってきて!私も今向かってるから!」
ダムの管理棟はバス停の西側にある。村の西側は元々製材所などの自然あった場所。自分が住んでいた所とは反対側で私もあまり行った事が無い。
体が痺れて思うように動かない。走ると息苦しい。こうゆう時、めちゃくちゃ車と免許が欲しくなる。
バスもねぇ、タクシーもねぇ、電車はあるわけねぇ!ヒッチハイクをしようにも車通りが全くねぇ!!オラこんな村嫌だ!!