表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/57

47、助けたい

47、



落ちた瞬間、ドンッという衝撃が胸に伝わって一瞬息ができなかった。


その後、高い所から落ちた衝撃の痛みと驚きで頭がパニックに襲われた。頭が混乱しているせいかうまく呼吸が出来なかった。


痛い!!胸が痛い!!苦しい!!


しばらく動けずにいると、少し離れた所にロボ太の日記帳が降ってきた。


投げたのは……成海?どうして?


成海が投げたのであればあの日記は成海にとっては面白くない内容だったのかもしれない。


「……な……るみ……」


まだ成海が上にいるかもしれない。そう思って声にならない声で成海を呼んだ。


だけど………………


聞こえるのはドクドクという自分の心臓の音だけだった。静かな山の中で、自分の心臓の音だけが響き続けた。


その心臓の音が静まるのを待っていたらあっという間に日が暮れた。辺りはどんどん暗くなっていき、やがて完全に真っ暗な状態になった。


しばらく仰向けで寝ていると、心臓の音が少しずつ静かになってきた。次第に風が草木を揺らす音も聞こえて来るようになった。


そうなると体も少しずつ動けるようになってきた。私は何とか寝返りを打つと膝と手をついて起き上がろうとした。


でもやっぱり急に起き上がるのは辛い。だけど今動かなければ確実にロボ太の日記を見失う。それだけは絶対に嫌だ!!


私は正座をしたまま蹲って息を整えた。


大丈夫。大丈夫、大丈夫。落ち着け、落ち着け私。少しびっくりしただけ。ちゃんと生きてる。生きてるし、どこも痛い所はない。人間簡単に死んだりしないし、頑丈に産んでくれた母に感謝しないと。


少しずつ少しずつ動いて、地面を這いつくばってロボ太の日記帳の落ちた場所までやっとの事で移動した。土や枝、石を触りながら視界がまだなんとなく見えるうちにロボ太の日記にたどり着いた。


ロボ太の日記をゲットしたけど中身が読めるほど光という光は無い。それにスマホもどこかに落としたみたいでポケットに見当たらない。


最悪…………


私は土の壁を背に膝を抱えて座り込んで途方に暮れた。この暗さで迷わずに帰れる自信なんて無い。


どうしてこうなったんだろう?夕暮れまではあんなに楽しかったのに……


梨華を待つ間しばらく少し成海と思い出話もした。成海と笑い合った日々は何だったんだろう?それは私の一方的な思い込み?独りよがりの自己満足だった?


私が落ちる瞬間を見ていた成海のその顔は、怒りも悲しみも無く、ただ重いドアを手で押すような

……そんな感覚の顔をしていた。


人の胸を押すような人って……もっと絶望的に悪い顔をしてるのかと思ってた。


リョウには慎重に行動するように言われて、自分なりに慎重に行動したつもりだったんだけど……


私の神様は耳がついていないのか、いつだってお願いを聞いてくれない。


少し体が痺れる感じがするけど動けなくは無い。少し移動してみる事にした。少し体を動かして自分の落ちた上の方を見ると、一筋の光が見えた。その光の筋は左右に揺れたりしていた。


きっと懐中電灯の明かりだ!誰かが探しに来てくれたのかも!


嬉しくなって思わず声をあげようとしたら、タイミング悪く咳き込んでしまった。


「ゲホッゴホッ!ゴホッ!」


するとその咳き込みに気がついた誰かがこっちに向かって強い光を向けて来た。


「そこに誰かいるのか!?」

「ロボ太!?ゲホッゲホッ!」


咳き込みながら光の差す方を見ると、そこには……


「やっと見つけた。手間取らせやがって」


そこには懐中電灯を持った慎吾がいた。


なんで慎吾がここに?


「自分で歩けるか?」


私は無言で頷いたけど、立ち上がって歩いてみると少しふらついた。慎吾の近くに寄ろうと進むと小さな段差でつまづいた。


その様子を見た慎吾が背中に乗るように目の前でしゃがんだ。


え?おんぶ?慎吾が?気色悪……


そう思いつつも首を横に振った。


「早くしろよ。お前の遅い足じゃ夜が明けるだろ」


やっぱり慎吾だ。言い方にイチイチ腹が立つ。


腹が立ったら重いとか恥ずかしいとかバカらしくなって素直にその背中に乗った。


「重っ!思ってた以上に重いわ」


余計な一言に、思わず持っていたロボ太の日記で慎吾の頭を叩いていた。


「お前恩人にそれはないわ」


私も自分を救助してる人にこんな事言いたくないけど……


「……デリカシー無さすぎ」

「それ女によく言われるんだよな~」


よく言われるなら少しは自覚しろ!!


重いと言う割には慎吾は私を背負って山道をしっかりと歩いていた。その姿に頼もしさすら感じた。


どこをどう歩いたのか私にはさっぱりわからないけど、慎吾が向かった先は私の家ではなく、小さな山小屋だった。慎吾は中に入ると、一段高くなった板張りの床に私を座らせて懐中電灯を置いた。そして慣れた手つきでランタンに火をつけた。


「ここは……?」

「登山道を少し外れた山小屋。ここなら限られた人間しか知らない」


え……?ここに私を連れて来てどうするつもり?


山小屋の中には小型の斧やノコギリが壁にかかっていた。


「勘違いすんな。俺は違う」

「俺は?俺はってどうゆう意味?」


慎吾は何かを知っている。少なくとも私より多くこの村で過ごし、家族は皆この村人だ。


私のその問いに慎吾は答えなかった。


「お前、俺が先に見つけたから命拾いしたけどもし回収係に見つかってたら……」


見つかってたら?


「回収されてたって?誰に?何を?」


今度の質問は、さも当然の事のように慎吾は答えた。


「何をって……お前をだよ」


その衝撃的な答えに耳を疑った。


「え……?は?ちょっと待って?何の冗談?」

「まさか冗談でその鍵を首から下げてたわけじゃないんだろ?」

「それは……」


あの後、父からあの名簿について連絡があった。


あの名簿にある人は全て行方不明者の名前だった。その中の何人かは若い女性で、悠莉さんの部屋にあった写真の中の女性達と何人か一致したらしい。すぐに東京に戻るように言われたけど、ここには何も知らない母がいる。母を守るためには私は少しでも情報を得なきゃ。


「この村が遺体処理場だって知ってて来てるんだろ?」

「な……」


それを聞いて私は思わず言葉を失った。


「じゃあ、もしあのままあそこで動けなくなってたら……」

「確実に病院じゃなくて棺行きだろうな」

「じゃあ、どうして私を助けてくれたの?」


私はそんな事も知らずに慎吾の頭を日記で叩いていた。……そういえばロボ太の日記……


私は慎吾の答えを聞く前にロボ太の日記をめくり始めた。すると、慎吾の意外な答えにその手を止めた。


「成海を救いたい」


成海を救いたい?私にはすぐにその意味がわからなかった。すると慎吾が説明してくれた。


「お前、いや正確には『お前達』か、このままだと嵌められるぞ」

「嵌められる?」


慎吾が言うには、証拠となる鍵の中の依頼書と名簿は父親が隠し持ち、鍵の持ち主は私だと街で見せびらかしてしまった事で表面上、犯人は私の父親だと仕立てあげる事ができる。ある意味そのために私はここまで生かされたらしい


「信じられない……」

「問題はその後だ。主犯核が逮捕されればここはまた平穏な村に戻ったように見える。そうすればまたあの裏家業が続けられる」

「でももう村は無いんでしょ?」


『村が無い』その事にも意味があるらしい。村が無ければ組織的犯罪だとは思われにくい。少なくとも物理的に人と人とが離れていれば調べにくい。


そして、慎吾の口からその家業を成海が継ごうとしているという事が語られた。


「嘘……そんなの信じられない!どうして成海が?」


それは成海自身の意志なのか……それとも単に鍵を受け継いだだけなのか。どちらにしてもそんなの絶対に阻止しなきゃいけない。


「俺は……村の真実を知って、今まで信じて来たものが全て崩れ去った気がした。こんなの間違ってる。今の時代そんな裏家業いずれ破綻する。SNSですぐに情報が拡散されるし、真実が明るみに出れば多くの関係の無い人間まで巻き込まれる」


そして慎吾は肩を落として言った。


「それに何より……成海にそんな事をして欲しくない」


そこは私も同じ気持ちだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ