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33、カミングアウト


33、



身代わりになるには何か事情があるはず。その理由を聞くまでは帰れない。


男は私を『おかしい子』と言った。だけど一度会っただけの他人におかしいと言われるほど非常識じゃない。おかしいのはどっち?


「あなたの言う『上』とやらにどう言われたか知りませんが、身代わりなんておかしい事しといておかしい子扱いは失礼じゃないですか?」


例え本当におかしい子だったとしても、本人の耳に入るほどの近さにいて『おかしい子』だなんて言う!?


「いや、でも……初恋の相手が死んだのに、その事実を受け入れられない可哀想な子だって……」


だからわざわざドレスアップさせて婚約者を紹介する空気の読めない最低野郎になったわけだ。


「ロボ太は……藤丸諒太は死んだなんて聞いてません。行方不明だって聞いてます」

「そんなの知らないって。こっちは可哀想な子に上手く嫌われて欲しいって依頼だったんだ」


この人に何を聞いても無駄な気がして来た。多分、本当にロボ太の詳細を知っていたらこんな雑な仕事はしない。


「もういい。帰ろう静ちゃん」

「いいの?誰に依頼されたとか、本物のロボ太の居場所とか聞かなくて」

「この人に訊いたとしてもちゃんとした答えが返ってくる気がしないよ」


私は外に出て車のある方に向かって歩き始めた。


「あ!ちょ、ちょっと待ってくれ!」


すると男は私を追いかけて私の目の前に回り込んで立ちはだかった。そして両手を合わせて頼み込んできた。


「頼む!!騙されたフリでいいんだ。藤丸諒太を忘れてくれ!!」


騙されたフリ?ロボ太を忘れろ!?この人何を言ってんの?騙した事の罪悪感は微塵も無くて、自分の失敗を他人に尻拭いさせるつもり!?


「今回の仕事が失敗したら今度こそ確実にクビになる。なぁ、頼むよ!!」


この人……リョウとは別のクズだ。


「帰ります。そこを退いてください」


そんな最低な仕事、クビになろうが私に関係ない。


私がその男を避けて歩き続けると、突然男は私の腕を掴んだ。


「おい!待てって!!人が物を頼んでいるのにその態度は何だ!?」

「はぁ?それが物を頼む態度!?」


そう言うと、男はその握っていた手にぐっと力を込めた。


「痛いっ!!離して!!」


離してと言っても無理やり引っ張っても、その手はびくともしなかった。


どうしよう!!


そう思った瞬間、静ちゃんが男の腕を掴んで素早くねじり背中に押し付けた。


「痛たたたたた……ギブ!ギブギブ!」


あまりの素早い身のこなしに呆然としていると、腕をねじられた男が痛そうに顔を歪めていた。


「ちょ、ちょっと静ちゃん……」

「美織に手ぇ出したね?この腕を離して欲しかったら知ってる事を全部吐きなさい」


え……えぇえええええ!?


「話す!話すから!先に腕を……」


それを聞いた静ちゃんはすぐに男の腕を離した。


「クソッ!よくも!!」


腕を離された男は話より先に静ちゃんに襲い掛かって行った。


静ちゃん!!


しかし静ちゃんは男の振り上げた腕を掴み、そのまま素早く振り返りその背に男を乗せて投げ飛ばした。その流れる動きに一切の無駄は無かった。


見事な背負い投げに思わず拍手をした。


そして静ちゃんは、今度は両腕をねじりあげ後ろの腰の位置につけ、その上から膝で乗って体重で固定した。


「話すの?話さないの?どっち?」


っ!!静ちゃん強っーーーーー!!


静ちゃんのあまりの手際の良さに若干に引くレベルだった。


ちょっと待って!?これは何でもできるというレベルを越えてない?静ちゃんって何者!?


「静ちゃん……強いんだね……」

「あぁ!これ?浪人時代護身術も習ってたんだよね」


浪人生って……免許取ったり護身術習ったりするの?普通予備校とか行くんじゃないの?そもそも護身術で背負い投げってするもん?


私がモヤモヤしていると、腕を外そうともがいていた男が諦めたように言った。


「話す!今度こそ全部話す!」

「下手な事してみな?何度でも投げ飛ばしてやるから」


男は乱れた着衣を整えると話始めた。


「モデルのリョウって知ってるか?数年前行方不明になって話題になっただろ?」

「リョウ……モデル……」


その時、中学の時にみんなで見た写真集を思い出した。あのモデルの名前が確か……RYO?じゃなかったっけ?


「その行方不明のモデルを多くの人間が探している」

「そりゃモデルさんならファンがいたりするし、もう一度会いたい人だって沢山いるはず」

「そのファンを諦めさせる目的だとは聞いたんだが……」


そんなものに意味は無い。そんな事をしても誰も得をしない。それに……


「それなら死んだ。って公表すればいいじゃないですか」

「それをしないのは恐らく……」


そこで黙って聞いていた静ちゃんが言った。


「本人を誘き寄せたい」

「そう!俺もそうだと考えた」


この人の仕事が雑なのは、できないんじゃなくて……意味が無いと思っているかららしい。


「それに気づいて仕事を軽んじてるあなた、多分この仕事が上手くいってもクビでしょうね」

「えぇえええ!?せっかく痛い目見て追ったのに!?」

「トカゲの尻尾切り。こうゆうのは詳細は知らされず言われた通りやったとだけ言わせて解雇するでしょうね。気づかれて恨まれるのはあなただけ」


そう静ちゃんの話を聞いて男は落胆するわけでもなく鼻で笑って言った。


「多分気づいたのはあんた達だけだ。もう一度戻って来たのはあんた達だけなんだよ。普通の人間ならアイツ最低~もう二度と会わないっ!ってなるだろ?」


アイツ最低!とはなるけど、ずっと会いたかった人に二度と会わない!なんて簡単になったりしない。


「女を甘く見すぎ。私達なんかより全然執念深い人なんてごまんといるんだから」


佐江子さんと悠莉さんを思い出した。彼女達ならリョウが結婚すると言ってもつきまといそうだ。


「まぁ、オッサン無職になったらここに連絡してみたら?人手不足で困ってるらしいから。弱いのはちょっと欠点だけど推薦しといてあげる」


静ちゃんはそう言って男に1枚の名刺を渡していた。


「え?静ちゃんどこに推薦するの?」


そもそも静ちゃんどこかに勤めてる?


「あ、えっと……えっと……警備会社?かな」


警備会社!?もしかして……ボディーガードとか?どうりで強いわけだ!!


「待って?じゃあ静ちゃんいつも大学サボるのってもしかして同人活動じゃなくて仕事!?」

「えぇっと、まぁ、そうゆう時もあるかなぁ……」


私はこの際はっきり聞いてみようと思った。


「静ちゃん……本当に22歳?」

「え?えぇえええええ!?」


と、驚いたのは男の方だった。


「いや、30だ……」


そう言う前にみぞおちに静ちゃんの足が埋まっていた。男は膝から崩れ落ちていった。その姿を見下ろす静ちゃんが真面目な顔でカミングアウトした。


「ごめん……美織、本当は私……30……31、32なの」


やっぱり!でもなんで最後刻んだ?でも、静ちゃんにちゃんと伝えとこう!


「ごめん……静ちゃん……実は私、薄々静ちゃんが22じゃないとは思ってた……」


ズドォン!!!!


その瞬間、ジョ○ョのような効果音が鳴った気がした。そんな衝撃を受けて静ちゃんはショックで立ち直れない様子だった。


「ま、まぁ、実際22じゃないよ?でも大学くらいなら見えるかと……見えて無かったって事!?私大学生に見えて無かったってことぉおおおおおお!?」

「そ、そんな事無いよ!大学生には見えてたんだけど……普通の大学生のバイタリティーじゃないなーって思って」

「バイタリティーだよね?見た目じゃないよね?シワとかシミとかじゃないよね?」


静ちゃん……美人だから見た目全然気にしてないと思ってたけど実はめっちゃ気にしてたんだね、なんかごめん……


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