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28、再会


28、



着信はあかりん先輩だった。


どうしたんだろう?珍しい。田渕さんと南さんはシフトを変わって欲しいとたまに連絡が来るけど、あかりん先輩はなかなかない。


「みおりん?お願いがあるんだけど、明日の遅番のシフト出られたりする?」


予想通りシフトの交代の連絡だった。


「明日ですか?遅番なら大丈夫だと思いますけど……どうしたんですか?」

「ちょっと友達とトラブっちゃって……」


一瞬の沈黙にプライベートな事はこれ以上言えないという空気が流れた。私は濡れた髪をタオルでごしごし拭いて快く承諾した。


「大丈夫ですよ!私もしばらくお休みしちゃってたし、今度はあかりん先輩の分まで働きます!」

「本当!?ありがと~!すっごい助かる~!」


あかりん先輩と早々に通話を切ると、早く服を着た。またぶり返して熱でも出したら代われるシフトも代われない。


お腹が空いたけど部屋にはご飯になるものは何も無くて、仕方なくポテトチップスの袋を開けた。


「あ~あ、南さんの唐揚げ食べたいなぁ……」


ポテチは喉が渇く。何か飲み物……と思い冷蔵庫に手を伸ばすと、インターホンが鳴った。


「誰だろ?」


インターホンの画面を見ると、見知らぬスーツ姿の女の人が立っていた。


「初めてお目にかかります。私、本戸製薬会社で秘書をやっております。今井と申します」

「えっと……あの~新聞とか宗教の勧誘は間に合ってます」

「勧誘などではございません。藤丸諒太さんについてお話したい事がございます。本日少々お時間いただけないでしょうか?」


え…………ロボ太?


正直、ロボ太に関しては安易に解錠しない方がいい。それはさすがに学習した。リョウにもきつく約束させられた。それは私の身の安全を考えての事……それはわかってる。ここは冷静に断ろう。


「すみません……今日は体調を崩しているので後日にお願いします」

「わかりました。突然お邪魔してしまい申し訳ありません。名刺をポストに入れさせていただきます。ご都合のつくお時間がありましたらご連絡ください。藤丸諒太さんも再会を楽しみにしております」


ロボ太が会いたがってる!?その言葉に一気に舞い上がった。


「あの、体調が戻ったら……こちらから会いに行ってもいいですか?」

「もちろんです。ご連絡お待ちしています。本日はこれで失礼させていただきます」


そう言ってスーツ姿の女の人は帰って行った。私はすぐにエントランスのポストへ急いだ。


名刺をポストから取り出すと、リョウに相談しようとポケットからスマホを取り出そうとすると声をかけられた。


「体調の方はいかがですか?」


すると帰ったはずの女の人がまだエントランスに残っていた。近くで見ると意外とオバサンだった。きっと南さんより年上だ。丸眼鏡がよく似合う人の良さそうな人だった。


「あの……実は本日お迎えにあがるつもりで色々準備しておりました。もしよろしければ藤丸諒太さんにお会いになりませんか?」

「え?今日!?これから!?」


いやいや、めちゃくちゃ急だし!


正直、今の自分の惨状を考えると快くイエスとは答えにくい。頭にはタオルを巻いたまま、部屋着は好きなアニメのキャラTシャツに下は高校指定ジャージ。おまけに手にはポテチ、足には履き古したラバーサンダル。


こんな普段着丸出しに3年ぶりの再会を促す?その心情が理解できないんだけど……


という顔に見えたのか、女の人は少し微笑んで言った。


「大丈夫です。全てこちらで準備しております。その身一つで来ていただいて構いません」

「いやいや、でもこんな格好だし……」

「ちょうど良いかと思います。全て承っております。さ、どうぞお車へ」


半ば強引に女の人に連れられしばらく車に乗ると、やっぱり車に乗った事に後悔しかなかった。


あれだけ警戒しろって言われてたのに……


そんな心配をしていたら、すぐに高級そうなサロンに着いた。


そこからはまるで魔法だった。魔法使い達が私をお姫様のように変身させてくれた。これって新手の詐欺か?


スーツの女の人、今井さんは驚くほど慣れた口調で、あちこちに指示していた。私にも次はヘアメイクへ次は試着室へと手早く促した。


鏡を見て出来上がった自分に驚愕した。自分が自分じゃなかった。自分の見たことの無い自分がいて、喜びより正直違和感の方が大きい。


深い青のドレスに、華やかにセットされた髪。爪の先からメイクも完璧だった。そして、最後に目の前に用意されたのはバキバキに尖ったピンヒール。少しラメが入っていて青みがかったグレーのハイヒールだった。


「シンデレラ……?」


思わずそう言いたくなるような、まるでガラスの靴だった。


「これって……夢……?こうゆう夢って見る時あるよね

「いいえ。現実です」

「これが!?ガチリアルって事ですか!?」


『ガチリアル』というワードに今井さんが苦笑いをした。


リアル…………?リアルってもっとこう……なんてゆうか……


その後、また車に乗せられた。車の中で今井さんに聞いてみた。


「あのう……この費用って後日請求ですか?」

「は?」

「そうゆう押し売り企画なんですよね?ドレスアップして再会しよう!みたいな」


助手席に座る今井さんの顔がバックミラー越しに一瞬イラッとしたのがわかった。


「これは全て藤丸諒太さんからのプレゼントです」


今井さんは呆れたようにそう言った。


「嘘……嘘、嘘!私こんなのもらう資格無い。恨まれる事はあっても、感謝される事なんて何一つしてない」


ロボ太からのプレゼント……?何かが違う気がする。


「自身の評価と他人の評価が異なるのは当然の事です。是非着飾った貴女様をお目にかかりたいという気持ちの現れです。快くお受け取りください」

「気持ち……?」


再会した友達はお金持ちになっていた。そんなあり得ないシンデレラストーリー誰が信じる?


「おかしな事は何もございませんよ。藤丸諒太さんは18歳ながら多くの才能を発揮し、わが社に貢献していただいております」


うすら寒くてなんだか怖い……早く帰りたい!!


しばらく車は走り進むと、郊外の研究所のような施設に着いた。車を降りるように言われ履き慣れない靴でその地に降り立つと、不安定でぐらぐらした。


ロボ太に会いたいとは思ったけど、自分から会いに来た訳じゃない。自分の選んだ服でもなければ自分の望んだ場所でもない。


何だか気持ちが追い付かない。気持ちが追い付いていないのに、当然のように施設の中に案内された。

施設の廊下をじろじろと見ていると、後ろから声をかけられた、


「美織!」


そこには白衣を着た体格のいい男の人がいた。


誰…………?


「僕だよ。あまりに変わってわからないかもしれないけど、諒太だよ。久しぶり……」


これが、ロボ太?


「………………」


言葉が出て来なかった。確かに全身整形をして目の前のロボ太のような人だったら納得がいく。ちょっと頭の形とか四角い感じとか、身長が高くて肩幅も広い感じとか、本人だとわからなくもない。


でも……正直ピンと来ない。


「ごめん……私、本人だって人に何度か騙されてるから、諒太だってすぐ信じる事はできないんだ」


敢えてロボ太とは呼ばなかった。


「それってもしかして……リョウとか言う人?」

「リョウを知ってるの?」

「美織を調べた時に一緒にいた人だよね?どうゆう関係なの?」


私が答えに迷っていると今井さんが「こんな所ではなんでしょうからこちらに」と言って応接室に案内してくれた。


応接室には大きな風景画と大ぶりなソファーがあった。そしてこそには1人の女の人が待っていた。艶々の黒髪の素敵な美人だった。


すると、ロボ太と名乗る人がその人の隣に座ると、彼女を紹介した。


「篠崎里英さん。彼女、僕の婚約者なんだ」


はぁ?婚約者?


彼女は『はじめまして』と深々とお辞儀をしてロボ太と名乗る人に微笑みかけた。その仲は間違いなく恋仲に見えた。


私は頭が真っ白になりながらもなんとか


「おめでとう」


と一言だけ言えた。


「あの村で仲良くしてくれた美織には感謝してるんだ。感謝の気持ちをどう形にしていいかわからなくて……その服はどうかな?できればそのドレスで僕達の結婚式に参列して欲しいな」


なんか……ロボ太ってそんな感じだったっけ?


「予定があえば……私、そろそろ帰るね。明日提出の課題残ってて……」

「そっか、美織は大学生だったよね」


そう、こっちも暇じゃない。そもそもあんたは本当に18なのか!?どう見てもオッサン……


そう、どう見てもおじさんに見える。


私が応接室を出ようとすると、自分のスマホが鳴った。すぐに画面を見ると、田渕さんからだった。


「みおりん助けてー!緊急事態!!」

「はぁ?緊急事態!?」


『緊急事態』という言葉を聞いて、私はロボ太やその彼女に別れ言葉すら交わさず、逃げるようにその部屋を出た。


その様子を見た今井さんは、すぐに帰りの車を手配してくれた。


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