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24、幻想


24、



ロボ太だと言って訪ねて来た人は、思い出のロボ太より外見も声もずっと綺麗なのに……


ロボ太より全然綺麗に見えない。


結局この二、三日家中を探したけど鍵は見つからなかった。一応最寄り駅やカフェ、交番にも行ったけど……誰も拾っていないし、見かけてもない。完全に手がかり無しだった。


残りの手がかりはやっぱり悠莉さんだけ。


「この短時間で無くすとか……お前マジで使えないな」


これが鍵を無くした私にリョウが投げかけた言葉だった。


「使えないとか……」


鍵を無くして落ち込む私にかける言葉がそれなの?最っ低!!


「誰のせいで取られたと思ってんの!?きっと悠莉さんは鍵がネックレスに見えたんだよ。鍵をあんたからの贈り物だと勘違いして奪ったんだよ!」

「はぁ?俺が原因か?責任転嫁すんな!」

「あんたから悠莉さんに説得して!ちゃんとプレゼントでも何でもないから返してって話して!」


それでも悠莉さんが素直に返してくれるかどうかはわからない。


「もう……最悪……!!もし捨てられてたらどうしよう……」


鍵が無くなった日から毎日、しつこいくらい悠莉さんを説得した。だけど悠莉さんは一貫して「知らない」と言い続けている。


もしかして本当に知らないとか?それなら鍵はどこ?


するとリョウがこんな事を言い出した。


「悠莉か……厄介だな」

「厄介?どうしてよ?あんたなら楽勝でしょ?」

「そりそうだろうな~でも取られたのは俺じゃないしな~お願いされたら考えなくも無いけど」


まさか……こいつもグルなの?


「だったらいい。協力してくれないなら1人で取り返すから」

「え?いや、そこはお願いしますの一言くらい……」

「お願い!!」


何故か私の一言にリョウはホッとした顔をした。


「お願いだから……これ以上私を落胆させないで!」


私は逃げたくてベランダに出た。そしてしばらく頭を抱えた。


夢から覚めたらひどい現実にがっかりした。思い出との違いがあまりに大きくて、その落差に余計に気持ちが落ちる気がした。


垂れた頭をふと上げると、ちょうど雲間から薄い三日月が見えた。あの時とは全然違って今日の月はまるで貧相な月だった。


「やっぱり月なんか大っ嫌い!」


そのうち月を眺める余裕も無くなってまた下を向いた。


「月が綺麗ですね」


突然後ろから声をかけられて驚いた。その声が一瞬、あの頃のロボ太に聞こえた。


すぐに後ろを振り返ると、そこにいたのは当然ロボ太じゃなかった。ロボ太じゃないロボ太を知る誰か。


「知ってた?どっかのオッサンがIlove youをそう訳したんだってよ。いや遠回しすぎんだろ」


そうだよね……そんな訳ないよね……


「だったらあんたはなんて訳すワケ?」

「すげー好きー!マジ好きー!」

「かっるっ!チャラ!」


これをロボ太だと思う自分がどうかしてる。もういいや。なんか肌寒いからさっさと中に入ろ。


「寒っ~!身も心も寒いわ……中入ろ」

「ちょ、待て待て!冗談!冗談だって!」


ロマンの欠片もない冗談に完全に気持ちが冷めた。


「一回、地獄?落ちて来た方がいいよ?」


私が中に入ろうとすると、リョウは慌てながらも落ち着いた声でやり直した。


「ずっと……綺麗だと思ってた。あの庭で……泣きながら月を見上げていた時からずっと……」


ずっとって……?


「……は?最初?庭?ねぇ、それどうゆう意味?」


その意味深な一言を境に戸惑っていると、リョウは急に真顔で畳み掛けてきた。


「意味は無い。俺が悠莉から取り戻す。だからお前は二度と悠莉には近づくな」

「いやでも……」

「次からは絶対に誰も部屋に入れるな。絶対だぞ?」


リョウはそう言い残してすぐに部屋から出て行ってしまった。


「ちょ、ちょっと待って?」


呼び止めようと声をかけると、すぐにバタン……と玄関のドアが閉まる音が聞こえた。


帰るの早…………いやいや、ちょっと待って?今の何?


混乱した頭を冷やすためにシャワーを浴びた。少し落ち着いて冷静になってみよう。


全然落ち着かない。部屋が綺麗すぎて落ち着かない。月が綺麗ですねというよりこの部屋綺麗ですねって感じ。


綺麗な部屋は妙に風通しが良くて何だか肌寒い。


だからチェストの中の長袖を探していると、携帯が鳴った。慌てて着信画面を見ると、成海からだった。成海には鍵を無くした事は何度も謝った。


「成海~!!」

「どした?」


私は成海にリョウのモラハラ発言について説明……というか愚痴った。


「ロボ太だったら絶対そんな事言わないのに!」

「そう?私はそんな印象無いけど。ロボ太って実際そんな事言う奴でしょ。美織が美化しすぎなだけじゃない?」

「えぇ!?そうだっけ!?」


他の人に対してロボ太がどう接していたのかはよく覚えて無くて、少し揺らいだ。


「それにさ、そんなに好きならなんで離れたの?」

「だってあの村に高校なんかないし」

「そうじゃなくて」


成海が言いたいのは『ロボ太が好きなのにどうして先輩と付き合ったのか』という話らしい。


「それは……」

「今まで聞くのはどうかなと思ってたけど……美織の言うロボ太って美織の作り出した幻想に思えて来るんだよね」


幻想……


「鍵の事はさ、いいきっかけだと思って忘れたら?ロボ太の事」

「………………」

「あんなのどうでもいいから。美織はちゃんと自分に時間を使いなよ」


成海にそう言われて、言葉が出て来なかった。ここで肯定したら、全てが崩れ落ちるような気がして怖かった。


そうだ……私、逃げたからなんだ。


「今度は……今度ロボ太に会えたら、ちゃんと立ち向かう!!」

「はぁ!?」

「ロボ太を忘れられないのは好きとかじゃないんだと思う。あの時逃げたから……逃げたままだから納得してないんだと思う」


自分の中のぼんやりとした迷いのもやが少し消えて、何かが見えてきた。


「やっぱり鍵、絶対見つける!」

「いや、だからあんなのいいって!」


成海は驚いて私を宥めようとしていた。


「逃げたっていいじゃん。その先で頑張ってれば、それは逃げじゃなくて方向転換。方向転換した方が良くない?」

「でもそれじゃ先輩みたいに誰かを傷つけちゃう。どうせフラレるなら傷つくのは自分だけでいいと思う……」


大丈夫。今は自分を見失って無い。傷つくってわかっていても覚悟していれば怖くない。


「もう一度ロボ太に会って、ちゃんと拒否されたら気が済む気がするんだよね。あ、ロボ太だけじゃなくてちゃんと鍵も探すね」

「はぁーーーーーーーーー」


成海はそれは深い深いため息をついて「わかった」と言って電話を切った。


友達の忠告を無視するのはバカだとは思ってる。だけど静ちゃんは逆の事を言っていた。


『後悔するならその気が済むまでもがいてみたら?それは時間無駄じゃないと思うよ。遠回りに思えても、どうしても必要な遠回りってあると思う』


静ちゃんも成海も私の事を想って言ってくれた。無駄かもしれないけど遠回りかもしれないけど、

今これが自分のやりたい事。


「ハクシュン!」


それにしても今日は何だか寒い。キャミソール1枚で電話をしていたら鼻水が出て来た。風邪なんか引いてられない。見つけたパーカーを羽織ってチャックを閉めて気合いを入れ直した。


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