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20、汚部屋


20、



え?私が悪いの?悪いのは私なの?


ロボ太は私との話の途中で先にカフェを出て行ってしまった。その後を慌てて追ったけれど、結局途中で見失ってしまった。その後何度電話をしても出ないし、メッセージの返信も無かった。


無視かよ!!


実は今回の話にはまだ続きがあって、成海は話の最後に「お爺ちゃんが美織に渡してだって」と言って成海が私に古い鍵を手渡してくれた。


「私に?成海にじゃなくて?」

「これが必要なのは美織だって」

「お祖父さんの形見をもらうのはなんか悪いから……借りるね」


私はその鍵を預かるという形で成海から受け取った。嫌いなお祖父さんでも成海にとっては家族の遺品。大事にしよう。そう決心した。


それは私の手ひらの長さとちょうど同じで、表面は錆び付いてぼこぼこしていた。


「これ、こんなに錆びてて鍵開くのかな?」

「さぁ?錆びを削ったりしないと無理かもね」


成海はこの鍵を私の好きにしていいと言ってくれた。


「これ、もしかしたらロボ太を探すのに何か手がかりになるかもよ?」


成海は栄造さんの葬儀に来ていたロボ太の両親にロボ太の近況を聞いてくれていた。両親が成海に話した話ではやったけどロボ太は3年前から行方不明だったらしい。3年前って言ったら、私があの村を出た頃だ。私はそれを聞いてすぐにロボ太のお母さんに電話をかけようとした。


「だったらロボ太と名乗る人が家に来た事、おばさんに教えてあげなきゃ!」

「待って!」


それは何故か成海に止められた。


「多分……それを知ってあの両親は喜ばない」

「はぁ?でも、だってロボ太は行方不明で、みんなロボ太を探してるんでしょ?」


成海は黙って首を振った。


「あの人達、何か隠してる。ロボ太を探してるって言うより……むしろロボ太がいなくなった事を隠してる感じ」


ロボ太の両親を不審に思った成海は、ロボ太の家まで行ってみたらしい。家に行ったものの留守で、家の中には入れなかったらしい。


「外からは何もわからなくて……家の外観も庭も特に変わった所は無かったんだよね」

「そこまでしてくれたんだ……成海、ありがとう!」


その事をもう一度ちゃんとあいつと話しがしたかったのに……それなのにあいつ……


そう思って苛立った気持ちで一人で部屋の片付けをしていると、インターホンが鳴った。


もしかしてロボ太!!


私はゴミ袋に入れようとしていた紙ごみからすぐに手を離してインターホンに向かった。


慌ててインターホンの画面を見ると……意外な人が立っていた。


「久しぶり~覚えてる~?」

「えっと……確か……悠莉さん?の方だった気がする」

「当たり~!」


悠莉さんはロボ太の元カノ。の、一人。この部屋にはたまにロボ太に会いにここに来る。そもそも私の部屋なのにロボ太に会いに来るっておかしくない?そんな社会の常識は彼女達には全く通用しない。


「残念ながらロボ太はいませんよ?」

「やだー!信じられない!ちゃんと中に入れて確認させて!」


そう言われて私はめんどくさくなって悠莉さんを片付け途中の汚部屋に入れた。


「汚い部屋でごめんね~」

「それ私の台詞ですよ」

「あははは~」


悠莉さんは私の部屋を見渡すと「ホントにいないの?」と言って勝手にソファーの物をどけて座った。


「いるように見えますか?」

「あれ?美織ちゃんが本命じゃないの?」


本命じゃない?知らねぇよ!付き合った記憶無いですけど?そもそも本命だったら普通こんな扱いされないし!


「もうロボ太はもううちに来ないと思いますよ?」

「何?ケンカでもした?」


私は悠莉さんに成海の話を除いてざっくりと経緯を説明した。


「どうせカフェで晒し者にされたのが嫌だった~とか、友達が隠れて見ていた事に気がついて不快だったとか、そんな所だと思うんですよ。小さい男」

「カフェねぇ……」


悠莉さんはロボ太がいないとわかった後もその姿を探し続けていた。


「だからって急に帰ったりします?」


私は自宅に訪ねて来た悠莉さんに事情を説明した。


「蓮はそうゆうの特に嫌がるからね~女同士が結託する感じ?昔色々あったらしいよ~」


つまりは女に囲まれすぎた結果、女が信じられなくなっためんどくさい男になった。という事らしい。


悠莉さんはガサ入れのように私の部屋をあちこち捜索しはじめた。


ちょっと!タンスの中になんかいるわけないでしょ!?


私は悠莉さんがあちこち開けるのを阻止しようとついて回った。見られて困る物なんかないけど、さすがにタンスの中身は恥ずかしい。


「付き合った女が人妻って黙ってて、友達の身分で偽って結婚しようとしたとか……」

「そんな無茶……」

「実際あったらしいよ?友達だと思ってた女が友達と結託して勝手に婚姻届け出されそうになったとか」


何がなんでも結婚したいんだな……怖……


「でもそれって自業自得ですよね?」


不倫とか浮気とか正直もうウンザリ。


そう、あれは小5の終わり。父親の仕事がバレていじめにあった。同級生の親が父親に浮気調査を依頼して、その結果離婚した。今となっては、その事実がどこでどう情報が漏れたのかはわからない。だけど12歳ともなれば、不倫や離婚の意味はほとんど理解できる。


今思えば逆恨みだったとは思えるけど、当時の私は本当に自分自身も悪いと思ってその子に謝罪した。


謝って事が済むなら…………本気でそう思っていた。


理解の無い上部だけの謝罪ほど他人を苛立たせる事を知らなかった。不倫や離婚、差別やいじめ、言葉の意味は理解できても、他人の気持ちは理解できない。私は今よりずっと子供だった。


それはひとのきもちをふみにじるわるいこと。


子供頃にはわからなかった事が今になって理解できる。それなのに……今でもわからない事はなくなったりはしない。


ロボ太の気持ち。そして、ロボ太の所在。


「本当に宛がないの?」

「全然、全く無いです」

「ここに来てないとはねぇ……てっきりよろしくやってるかと思ったんだけど……」


よろしくって……


「そうだ!今ここで連絡取ってくれない?悠莉が来てるってメッセージ送って」

「どうせ既読になっても返信ないですよ?」


そもそも殺人未遂の女がいると伝えてノコノコ来るほどロボもバカじゃない。


「いいからいいから!」


そう言われ、一応メッセージを送っておいた。


「じゃ、返信があるまでここで待たせてもらうね~」


そう言って悠莉さんは私の部屋に居座った。


「そろそろコーヒーでも飲む?」

「それ私が言う台詞」

「それにしても……汚い部屋でごめんね~」

「それも!また言う!」


悠莉さんは何の悪気なく笑っていた。図々しい所も屈託の無い笑顔に何故か悠莉さんを許してしまう。


「待ってる間手伝おっか」

「いいですいいです!悠莉さんはコーヒーでも飲んでて待ってくださいよ」


私はインスタントコーヒーを入れて悠莉さんの目の前に出した。そして、片付けを再開した。


しばらくすると悠莉さんが「お砂糖とミルクも~」と言うから「冷蔵庫に入ってるんで自分で出してもらえます~?」と言った。


「お砂糖も冷蔵庫?」

「砂糖は上の棚で冷蔵庫は牛乳……あ、賞味期限ヤバいかも」

「いいよ!いいよ!きゃははは!」


悠莉さんはそう笑って冷蔵庫の牛乳をコーヒーに入れていた。すると、何かを思い出して鞄の中から小さな箱を出して来た。


「忘れてた!これ!蓮にカップケーキ作ったの!」

「え……カップケーキ?」


箱の中には不穏な空気のするカップケーキがあった。外観はちゃんとカップケーキには見える。ただ……悠莉さんが作ったと思うと正直不安。


「美織ちゃん食べてみてよ!」


そう勧められて一口食べてみると…………


その不安が確信に変わるというか…………


「どう?どうかな?意外と見た目は上手くできてるでしょ?」

「味が…………」

「味が?」


無い!!まんま小麦!!小麦の味しかしない!!パン?いやパンより硬い。まずい!まずいけどまずいとは言いづらい……


「自然の甘味を……感じます……」


ぶっちゃけうっすら苦味も感じる。焦げて無いのにこの苦味……何なんだろう?


「だよね~砂糖忘れちゃった~」

「砂糖!?お菓子に最重要な砂糖無し!?」


口の中の焼いた小麦粉の塊を無理やり麦茶を流し込むと、急に眠くなって来た。


「先輩が男の胃袋をつかめ!なんて物騒な事言うから格闘技習い始めたんだけどさ~」

「いやいやそうゆう事じゃ……」

「そうなの!胃袋掴むって手料理の事なんだね~!だから私……美織ちゃん?」


異様な眠気と戦いながら悠莉さんの話を聞いた。朦朧とした意識の中で悠莉さんの顔が変わったのがわかった。


悠莉さんなのに、悠莉さんとは思えない。怖い顔だった。


「もういいよ。あんたも悠莉ももう用済みだから。そのままお休み」


薄れゆく意識の中油断と自分の浅はかさに後悔した。


用済み?私も?悠莉さんも?どうゆう意味?







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