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18、マウント


18、


成海との待ち合わせ場所、大学の最寄り駅の周辺へ到着する頃には日が暮れそうだった。雲っていたせいか辺りは少し薄暗く、反対側の歩道のパチンコ屋のネオンが騒がしく煌めいていた。


「美織!」


ネオンに照らされた人影ににそう呼ばれた。するとちょうどパチンコ屋の自動ドアが開いてその雑音がオーディエンスのようにざわめいていた。


ざわ……ざわざわ……


「成海!」


ここで、成海に何て声をかければいいのかわからなかった。


お疲れ?久しぶり?どうしてここに?


「………………」


そのどの言葉もすぐそこまで出そうなのに出なかった。成海の顔を見て何故か何も口にできなかった。その妙な間に、静ちゃんが割って入ってくれた。


「さっき言ってた美織の友達?」

「あ、うん。紹介するね、中学時代の友達の成海。成海、前に言ってた静ちゃん」

「どうも、はじめまして」


静ちゃんと成海がお互いに自己紹介して、こんな所で立ち話もなんだからファミレスでも入らない?という話になり、近くのファミレスに三人で入った。


「お腹すいた~どうする?夕飯食べてく?」

「成海は?お腹すいてる?」

「まぁ、ほどほどに」


それから三人でメニュー表を眺めると、静ちゃんが「パスタセットに決めた!」と言ってメニュー表から顔を上げた。


それを聞いて私が「パスタセットにしようかな~」

と言うと、静ちゃんがニヤリと口角を上げてこう言った。


「あ、美織はお昼サラダサンド食べてたから絶対パスタ選ぶと思ってた~」

「サラダサンドって何?」

「大学のね、夏期限定メニューなの」


何故か私はどうでもいい学食のメニューを成海に詳しく説明するはめになった。成海も同じパスタセットに決めるとさっさと注文を済ませた。すると、静ちゃんのギアが一気に入った。


「美織は明日講義無いでしょ?バイト?」

「うんん。シフト入って無いよ」

「じゃ、一緒に買い物行こ!」


その後も静ちゃんはあからさまに私と二人だけの話をしたり、ウザイほど仲良しアピール発言をしてくる。その度にその話を聞いて成海が困惑していた。


静ちゃんがやりたい事。それは普段の生活では静ちゃんが周囲の人間に対して絶対にならない事。


ザ・マウント!マウントマウンティング!!


そこには女と女の戦いがあった!!マウントの取り合いという女の戦いが…………


とはならず、ただただ微妙な空気だけか流れていた。


「………………」


成海は静ちゃんの挑発に全くと言ってもいいほど乗って来ない。微妙な空気にとうとう静ちゃんも成海も黙り込んでしまった。


普段の静ちゃんならこんな発言絶対にしない。どうしちゃったんだろう?この状況…まるで元カノVS今カノ!私はさしずめその狭間で困るダメ男か!?


周囲のカチャカチャという食器とカラトリーがぶつかる音が妙に響いていた。


「あの……あのさ、静ちゃん?」


微妙な空気に私は静ちゃんに訳を聞こうと声をかけた。すると静ちゃんは私の顔を見るなり「ブーッ」と吹き出して笑い始めた。


「あはははははは!」

「え?」


その笑う姿に私と成海は顔を見合わせた。静ちゃんは軽く呼吸を整えて言った。


「あ、ごめんね。一度やってみたかったんだよね~マウントを取るってやつ。悪役令嬢的な?」

「はぁ?静ちゃん漫画の読みすぎ」

「ほら、この前このファミレスにいたでしょ?こう言う事言う人」


その話を聞いて思い出した。そういえばこの前、隣の席の会話が修羅場だった。元カノが未練ありまくりで『自分の方が彼を知っている』『いかに自分が彼と釣り合っているか』を無駄にアピールしていた。


「どう?元カノVS今カノに挟まれた男の気持ち」

「それドッキリがエグいから」


私達が困惑していると、お冷やとサラダが3つずつ運ばれて来た。成海が近くのカラトリーケースからフォークを出して静ちゃんに手渡した。


「で?初対面なのにマウント取って来るとか失礼な事をする理由は?美織をからかって楽しい?」

「うん、ごめんなさい。失礼しました。まぁ美織の反応はちょっと楽しかったけどね」


成海から受け取ったフォークを静ちゃんはそのまま私に差し出した。


「美織、あの事は多分美織の思い過ごしじゃない?」

「あの事って?」


私がすぐに何の事だかわからずにいると、静ちゃんは成海から差し出されたもう一本のフォークを受けとると「ありがとう」とお礼を言った。そしてフォークを持ったまま話を続けた。


「成海ちゃんは私のクレイジーで失礼な態度にずっと困惑してた。イラついたり逆にマウント取りに来たりてしない。それって友達として普通に適度な距離じゃない?」


確かに。成海は静ちゃんに対してあからさまに腹を立てる事も無く、大人げなくマウント返しもしなかった。それは私の静ちゃんについての話を信じてくれていて、さらには静ちゃんそのものを尊重しているように思えた。


「成海ちゃんは空気が読めないバカでもないし、マウント合戦になるような子供でも無いと思うんだよね」

「どうゆう事?」

「バカでも子供でも無い人だって、嫉妬すればバカにだって子供っぽくなったりだってするでしょ?」


成海が首を傾げる姿を見て、静ちゃんの言葉にハッとした。確かに成海はバカでもないし子供っぽくもない。でも私が好きなら押さえられないほど嫉妬するはず。元カノが今カノにしていたのは嫉妬。静ちゃんは成海の嫉妬心を試したらしい。


「え?何の話?」


私は成海の困惑する姿に申し訳なくなって、正直に謝った。そしてロボ太に言われた同性愛疑惑を説明した。


「はぁ!?あり得ないんだけど!しかも私今遠恋してる人いるし」

「そうだよね、ごめんね……って遠恋!?え?聞いて無い!」

「うん、言って無い」


成海はさらっとそう言うと、ごまかすようにサラダのレタスをフォークでグサグサと刺し始めた。


私はその遠距離恋愛について詳しく聞きたかった。それなのに先に成海に質問された。


「美織いつの間にロボ太と仲直りしたの?」

「仲直りって言うか……突然家に来て……」

「家に来てってあの姿で?」


確かにあの村にいた頃の姿で訪ねて来たら確実に通報されてるはず。


私は成海にロボ太の全身整形の事、騙されて父親に会いに行った事、一緒に成海の祖父の病院へ行った事を伝えた。


「ちょっと待って?あれがロボ太って言った!?そんなのあり得ないでしょ!」


先に事情を知る静ちゃんが苦笑いで「そうだよね~あり得ないよね」と言っていた。


二人は次々にフォークにサラダを刺しながら話し始めた。


「全身整形で久しぶりに再会って無理があるでしょ」

「同感。姿も違って中身も変わってたら他人だし」「いやそんなの普通に奴胡散臭くない?」


悲しい事に女子という生き物は、共通の敵……いや共通の話題があるとその距離が一気に縮む。


「しかも美織そいつにキスされたらしいよ」

「え!?手ぇ出すの早くない!?」


なんだ……やっぱり成海がロボ太に嫉妬とか全然無い。ロボ太の思い過ごしか!


なんだよ!!だったらあんなに悩まなくて良かったのに!!あの時間を返せーーーーー!!


「イケメンだからって何でも許されると思ったら大間違いだよ!キスも立派な傷害罪。美織、あいつ訴えられるからね?」

「いやいや、成海。あれは事故だから」

「事故ねぇ……聞いた感じ故意な気がするけどね~」


結局、ロボ太が何をどうしたいのかがはっきりしない。結果ロボ太は二人には胡散臭いクズメンとして認定された。


「それって関わらない方が良くない?」


それが満場一致の意見だった。意見がまとまった頃にはメインのパスタが運ばれて来た。成海が大量のタバスコをかけているのを見て静ちゃんがドン引きしながら言った。


「まぁ……でもそうは言っても理屈じゃないんだろうね」

「わかる。そんなにタバスコかけるのやめろって言いたい気持ちもわかる。けど……」

「成海は好きなんだもんね、辛いの」


冷静に考えれば非常識。その非常に何を思うかは個人の自由。そんな気持ちだけは二人の友達は理解してくれた。


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