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16、そんなまさか

16、



その後、成海に「決して嫌じゃないから」と念押しされたけど……お祖父さんから聞いた内容は後日話そうという事になった。そして、病院から帰るように勧められた。


それが何だか急に追い返された様に感じたけど……非常識で失礼なのは私の方だし、押し掛けた私の話をちゃんと聞いてくれた。それだけで優しい。そう思って病院の外に出た。


病院を出ると、その暗さに途方に暮れた。


そうだ……この病院は駅から遠いし、こんな時間じゃバスも運行はとっくに終わってる。諦めてタクシーを呼ぼうとポケットのスマホに手を伸ばそうとすると、目の前に突然車が止まった。


それはロボ太の車だった。その車の窓が開くと、ロボ太劇場が始まった。


「彼女~暇~?」

「暇に見える?」

「暇ならどっか行こ~よ」


何だかその茶番にイライラした。


もういいや。さっさとタクシーを呼ぼう。タクシーで最寄り駅まで行って、路線調べて……


そこまで考えて再びポケットからスマホを取り出そうとすると、ロボ太が急に真顔になって言った。


「早く乗らないと……気づかれるぞ?」


ロボ太は真顔でそう言った。


「え?誰に?」


私が周りを見回していると、ロボ太は私を素早く助手席に引き込んだ。そして乱暴にアクセルを踏むと、逃げるように病院を後にした。


しばらく車を走らせていると、ロボ太が前を向いたまま呟いた。


「あれはなかなかワケありだな~」

「あれ?あれって……栄造さん?」

「違う。成海」


成海!?


「はぁ?成海?ワケありってどうゆう意味?」

「やっぱり気がついて無いか……あいつ、俺を見る目が尋常じゃなく厳しかった」

「それ……それはあんたがどう見ても怪しいからでしょ?」


きっと成海は心配だったんだ。昔からそう。成海は心配性でいつも私を心配してた。


「だいたいの女は俺を好意的に見る。ただ怪しいだけであそこまで睨まれるはずが無い」

「呆れた!顔がいいのはわかるけど、そのナルシストはちょっと……」

「いやいや、そうゆう話をしてる訳じゃないんだよ」


じゃあ何の話?


私は慌てて締めたシートベルトのヨレに気がついて、ロックを一度外して整えた。


「じゃあ何?成海が何なの?」

「どうせ聞き出すから今日は帰れって言われたんだろう?」

「そうだけど?」


1度外したシートベルトがなかなかはまらなかった。早く締め直さなきゃいけないのに……


「成海はあの村の何かを知っているかもしれない」

「はぁ?何かって?」


焦れば焦るほどはまらない。


「落とすは……まずはあの女からだ」


ロボ太がそう言うと突然ブレーキを踏んだ。すると車は急停車して、私はシートベルトを持ったまま体勢を崩した。崩れた体を支えようと手を伸ばすと、とっさにロボ太の腕を捕んだ。


「あっぶな!」


良かった!どこも痛く無い!


そう安心していたら、つかんだ腕を引かれ自分の唇にロボ太の唇が触れた。


!?はぁあああああ!?


「今……な……何で!?」


呆然としていると、思わず持っていたシートベルトから手を離した。シートベルトはゆるゆる力無く戻っていった。我に返った私は咄嗟にロボ太の腕を振り払った。


すると、ロボ太は意地悪な顔をして言った。


「成海を落とすって聞いて……嫉妬した?」

「してない!!」


嫉妬したらキスってどうゆう事!?理解できない!!何なの?ナルシストって常軌を逸するもんなの!?


「なーんだ。ロボ太を超えられたと思ったんだけどな~残念~」

「残念じゃないでしょ!?」


きっとこれは腹が立ったから。ムカついたせい。


顔が熱くて、全身に鳴り響く心臓の音が妙にうるさい。


「全然……全然ロボ太……」


でも……どうして隣にいるのがロボ太じゃないんだろう?


そう思うと急に気分が下がって、心臓の音が段々と収まって来た。


「そんなにロボ太がいいか?だったら俺の事をロボ太だと思えば?」

「はぁ?」

「多少見た目も性格も変わったとしても、3年ぶりに会ったロボ太ならあり得る事だろ?ロボ太とか変なあだ名は嫌だけど、美織がそれで俺を好きになるならそれでもいい」


ちょっと待って?それって、自分の事を好きになれって言ってる?いやいや、それはいくらなんでも直球すぎるでしょ!


いやいや、少し冷静になって考えてみよう。ロボ太は『成海を落とす』と言っていた。それは『使える女として利用したい』という風に聞こえる。


女子は誰だって好きになれば、相手に振り向いて欲しくて何だってする。ロボ太はその気持ちを利用して自分の目的を果たそうとしている。最低だ。


『ロボ太だと思えばいいんじゃない?』というロボ太の言葉に、私は塩を振り撒いた。


「そっか。友達でいてくれるんだ。ありがとう」

「え…………えぇ?」


意外な言葉に、ロボ太は変な声を出していた。


「ロボ太は友達!ロボ太は友達!ロボ太は友達!」

「うわぁ!呪いの呪文!」


耳を塞ぐロボ太に、嫌味のように仮定の話をした。


「まぁ、私がリョウとして好きになれば?必然的に協力的になるよね?そうすれば成海とも近くなるし?成海が何か知ってれば必ず教えてくれるよね?」


そうすれば、全てロボ太の思うがまま。


「いや、それは違う。いくら俺が好きだからって真実を教えるとは限らない」

「どうして?好きな人には正直でいたい。普通そうじゃない?」

「そうか?多くの人間が正直になんて生きられない。話したく無い事や知られたくない事だらけだ」


そうかもしれないけど……その時ふと酔っ払った佐江子さんと悠莉さんを思い出した。あの二人もロボ太が好き。だけど……ロボ太に秘密を持っていたりするのかな?


「別に嘘をついている訳じゃないかもしれない、ただ訊かれなければ言わないだけ。普通と言うならそっちが普通だろ」


すると、ロボ太は私のポケットからスマホを出して成海にかけるように言った。


「でも話は後日って……」

「そうじゃない。俺が実はロボ太で、無理やりキスされたって話をしてみろ」

「えぇ!?今!?ここで!?」


本人を目の前にそんな話できないよ!!


「じゃあ、帰ってからでいい。必ず成海の方から美織に会いたがるはずだ」

「私に?ロボ太じゃないの?意味がわからない。成海を落とすんじゃないの?私との関係をちらつかせて何がしたい訳?」


成海を嫉妬させるには、まず成海がロボ太に好意を持たなければ話にならない。成海はイケメンに興味が無い。実際ロボ太の事も睨んでいたみたいだし……今は全然脈なしじゃん!


ロボ太は再び車のエンジンをかけ、出発しようとしていた。


「わかんないかな~?俺がロボ太だと知って、美織の近くにいる。それを知った成海はさぞ嫉妬でたまらないだろうよ」

「えぇ!?それって……じゃあ……成海もロボ太が好きって事!?」


その言葉にロボ太は何故かガックリ肩を落とした。


「どこまで鈍感だよ……成海はお前が好きなんだよ」

「はぁ?成海が?」


成海が?私を?そりゃ好きでしょうよ。友達だもの。


「友達としてではなく、恋人として好きなんだろうよ」

「えぇ!?そっち!?いやでも成海は女の子だよ?え?あ!じゃあ、あの村は成長すると性別変わるとか?」

「そんなワケあるかい!」


そんなの信じられない!信じられないけど……


成海が『その先が無いって辛いね』と言った言葉の意味が……私せいなのかと考えてしまう。


「思い当たる節があるか?そりゃそうだろうな。あれは多分相当色々やってるぞ」

「相当?色々?」


その後ロボ太に成海に恋の相談したかどうか訊かれた。もちろん中2の時からずっと親友だったから、成海には何でも話して来た。今思えば……先輩と距離を置く事を一番最初に提案してくれたのも成海だった。いやいや、まさか!そんなまさか!


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