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14、病院

14、


そんなかけがえのない人に、私がした事といえば……ロボ太にした数々の悪行に頭を抱えた。


中学生と言えば、思春期。青春真っ盛り!な、はずもなく。だってこの村の人の少なさと言ったら……恋バナに花が咲くわけもなく……


暇を持て余した私達は、誰もいない役場に入り込んではパソコンを拝借していた。中3になるとロボ太とは別の教室になって、帰る時間も違う。だから自然とロボ太より成海と遊ぶようになっていた。


そんなある日の放課後、私と成海はいつものように役場に立ち寄った。そこには深雪と秋穂が先に来ていた。


「あ~あ、うちもネット回線引いてもらえればなぁ……」


深雪がパソコンの画面を見てため息をついていた。一緒に画面を見ていた秋穂が頷きながらマウスをクリックすると、突然画面を指差した。


「これ……見て見て!このモデルめっちゃイケメン!」

「どれ?」

「何?何?」


イケメンと言われ、私はすぐに荷物をそこら辺に置き去りにしてパソコンの画面に向かった。


そこには白黒写真の男の人の写真があった。


「うわ~ホントだ~!めちゃくちゃカッコいい!」


グラビア写真というよりは、アート作品に見えた。二人に賛同するように写真を見ていると、成海が冷静に訊いてきた。


「美織、こうゆうのタイプ?」

「え?ふつーに?一般的にかっこよくない?」


こうゆう時の成海はいつもドライだった。俳優やアイドルといったイケメン、成海はこうゆうのにまるで興味が無かった。そのせいで、先輩と付き合うまでは『実は成海は枯れ専なのでは?』という噂があった。


「ねぇ、この人の名前は?」

「さぁ?」


モデルの名前を知らない?名前を知らないのにどうやってこの画像が出て来たんだろう?


「どうやってこの画像出したの?」

「えっとね、これ。検索履歴から。誰かが『RYO モデル』って検索してたからもう一度検索かけただけ。てっきり女のグラビアかと思ってたから、ちょっと意外だったよね」

「そうなんだ!誰が検索したんだろうね」


この役場は基本的に誰でも自由に出入りができた。農業のやり方から人生相談、村民が様々事を調べるために色々な人がこのパソコンを使っていた。


そのパソコンのメイン画面には『世にも珍しい甲皮族の村居中村』と書かれていた。役場には甲皮族を隠すつもりなど毛頭無い雰囲気だった。むしろ町お越しにでもするつもりのように、観光整備が進められていた。


それが……どうして消える事になってしまったんだろう?


ロボ太と遊んだ川原も一緒に果物を収穫した森も通った学校も、全て水の中に消えてしまった。


「おい、起きろ!」

「……あれ?寝てた?」

「人が痛みに耐えて運転してるのによく隣で寝れたな」


ぼんやりと車内ランプに照らされたロボ太を見ると、あの時のモデルの写真が重なった。


「RYO!!」

「はぁ?寝ぼけてんのか?最初に言ったよな?リョウだって」

「違う違う違う!あの、写真の!モデル!役場のパソコンで見た……」


ロボ太は私の様子を見て首を傾げていた。


「はぁ?」


あれ?そっか……他人の空似か。よくよく考えたらあんまり似て無いかも。


「どうでもいいけど病院、ついたぞ」


気がつくと、そこは病院の駐車場だった。そこそこ大きな病院。ここからたった一人の老人をどうやって探せばいいんだろう?


元研究員の名前は藤丸栄造。御年89。話を聞けるチャンスがあったとしても、その年で昔の事なんか覚えてるのかな?そんな不安を抱きつつ、ロボ太と病院の夜間診療入口へ入った。


ロボ太が診療を受けている最中、私は誰もいない暗いロビーで一人で待機する事になった。しばらくすると、ロビーに突然女の人が駆け込んで来た。


その駆け込んで来た人を見て驚いた。


「成海?」

「美織!どうしてここに?」


いや、むしろそっちが何故ここに?


「友達が怪我しちゃって……その付き添い?成海は?どうしたの?」

「うん……祖父がね、危篤だって聞いて……」


成海はどこか浮かない顔だった。そして、少し迷って帰ろうとした。


「やっぱり帰ろうかな」

「なんでよ!お祖父ちゃん危篤なんでしょ!?」


成海は私の隣に座ると、その胸の内を話してくれた。


「昔から、祖父が好きじゃないの」

「え……?」


嘘……成海は老人の言葉が理解できるから、てっきりおじいちゃんおばあちゃん子なんだと思ってた。


「あの村の老人はみんな好きじゃない。老人なんか大嫌い!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ。どうしたの?何かあったの?」


いつも大人しい成海がここまで強い事を言ったの初めてだった。


「この前……お祖父ちゃんがお母さんに、金丸の彼氏なんか連れて来るなって言ってたの!そんなのいつの話?こんな時まで金丸の悪口……」


こんな時までしっかりと言葉が聞こえてしまう。成海は老人の言葉が理解できる。それは私達にとって大きなメリットだった。でも成海とっては……メリットだけじゃなかった。時には聞きたくない事だって聞かされる。その事に初めて気がついた。


「口を開けば金丸の悪口ばっかり、金丸の人は藤丸を馬鹿にして……もううんざり!」


この藤丸・金丸問題はよそ者の私でもわかるほど、あからさまに村を分断していた。ロボ太も藤丸だからという理由で慎吾にイジメられていた。

だから成海と先輩は正に『現代のロミオとジュリエット』状態。


ここまで成海が追い詰められていたなんて知らなかった。その時、電話で成海に言われた『結局、美織が興味があるのはロボ太だけなんだよね』という言葉が胸に刺さった。


「でも……気持ちはわかるけど、死んだら二度と会えないんだし……」

「二度と会いたくなんか無い。あんな人……」


今更私ができる事って何?成海の気持ちが納まるまで隣にいる事?今はそれしか思い付かなかった。


そう思っていると、静かなロビーに診察を終えたロボ太が戻って来た。ロボ太は看護師から今後の説明を受けて支払いをした後、私達を見て空気を読まず声をかけてきた。


「もしかして、成海?」

「誰……?」

「俺だよ、ロ……」


ロボ太がロボ太だと名乗る前に「ロボ太の友達」と紹介した。


「どうして私の名前……」

「私がいつも成海の事話してたから!」


私は取り繕うように成海にロボ太を紹介した。


「どうゆう関係?もしかして……」

「全然!全然そうゆうんじゃないから!」


ロボ太との関係を全力で否定していると、ちょうどそこへ成海のお母さんがエレベーターから降りてやって来た。成海のお母さんは私達の姿が目に入ると、成海に声をかけた。


「成海、来てたなら連絡してよ……」


成海のお母さんは『どうしてここに?』という顔で私を見て驚いていた。


「えぇと美織ちゃん?」

「こんばんは」

「美織の友達のリョウでーす」


ロボ太についてはスルーした成海のお母さんは、成海にお祖父ちゃんの容態について説明した。


「今日明日が山場だろうって……成海も最後にしっかりとお祖父ちゃんとお別れして来なさい。お母さん一旦家に戻るから」


そう言ってお母さんは病院を出て行ってしまった。


成海のお母さんの残した言葉で、急に重苦しい雰囲気になった。それでも、成海の足は一向に病室へ向く気配は無かった。


成海が会いたくないなら仕方がない。だけど……後悔だけはして欲しくない。私はロボ太とちゃんとしたお別れができなかった。その事は今でも胸の隅で影を落としている。


「成海、病室まで私も一緒に行くから。成海は何も話さなくても何も聞かなくていいから、病室少し覗いて成海の元気な顔だけ見せて帰ろうよ」


お節介かもしれない。でも、もしかしたらお祖父ちゃんの顔を見たら考えが変わるかもしれない。できる限りハードルを下げて成海の反応を待った。


「美織が……一緒に行ってくれるなら……」


私は大きく頷いて、手を差し出した。


「行こう。この年で手を繋ぐのは変かもしれないけど……」


成海は首を横に降って、私の手を取った。


こんな風にあの時私も素直にロボ太の手を取っていれば良かった。あの頃は……恥ずかしくて情けなくて、少しも素直になれなかった。


ロボ太のくれた『おめでとう』も『良かった』も素直に受け止められなかった。


私はいつも……後悔ばかり。その後悔はどうしたら消えるんだろう?



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