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10、別の人


10、



ロボ太が刺されたと勘違いしたあの瞬間、とてつもない絶望感、喪失感に支配された。


『今ここでロボ太を失う』そう思うと自分が崩れ落ちそうになった。


「……本当の事?」

「ああ、俺はロボ太じゃない。あんたの会いたかった『ロボ太』とは全くの別人」


やっぱりと言うより、何故かロボ太の発した一言が信じられなかった。


「………………は?今、何て?」

「いや~まさかこの顔に惚れない女がいるなんて計算外。あんたどっか頭オカシイんじゃない?」


ロボ太じゃない……?じゃあ、目の前にいるのは誰?


「当初の計画では初恋のロボ太になりすまして父親の所へ連れて行くつもりだったんだけど……あんた全然言う事聞いてくれないから計画変更」


ロボ太じゃないと聞いて呆然とする私に、ロボ太……じゃない誰かは私にそっと耳打ちした。


「おとなしく協力してよ。じゃなきゃあんたの周りの人間がどうなるか……わかるよね?」

「なっ……!騙して家に上がり込んで今度は脅し!?信じられない!」


すると、ロボ太はすぐに私の口をふさいだ。


「あんたが悪いんだよ。あんなに優しい静ちゃんの忠告を無視して簡単に人を信じるから」


その言葉にゾッとして、塞がれた手を無理やり剥がしても上手く息ができない。


「静ちゃんの事……どうして……」

「あんたの事は粗方調べたから」


静ちゃんの言った通りだ。目の前の男は私を調べ尽くした変質者だった。


息が……苦しい。涙が止まらない。


「どうして?……ロボ太……ロボ太に謝って……また……近くなれると思ったのに……」


自分の心が崩れていくようで怖かった。


何故か喪失感に襲われた。ロボ太が刺されたと勘違いした時と同じ。決して安心感じゃなかった。


多分私は……思いの外目の前の男を『今のロボ太』として受け入れつつあった。


「………………」


目の前の『誰か』が黙って私の頭を自分の胸に引き寄せた。私は流されるまま、どこの誰かもわからない男の胸の中で泣いた。


どうして涙が止まらないの?こんなクズがロボ太じゃないってわかって良かったのに……悲しい事なんか何もないのに……


「どうして……?どうしてロボ太じゃないの?ずっとロボ太に……会いたかったのに……」


思わず自分からこぼれ出た言葉に気がついた。


私はきっと……ずっとロボ太に会いたかった。本当はロボ太が自分の元に訪ねて来た事が嬉しかった。黒歴史だなんて言って心に蓋をしていたけど……


ずっとずっと会いたかった。


その気持ちが胸に溢れて涙が止まらない。しばらくすると、黙っていた男が私に声をかけた。


「本当の藤丸諒太が今どうしているか知りたい?」


その言葉で急に冷静になった。私は突飛ばすように目の前の男から離れた。


「ロボ太を知ってるの?あなたは誰なの?何が目的?」

「俺の目的は変わらない。甲皮族を解明したい。ただそれだけ」


だだの興味?そんなわけが無い。ただの興味だけで私を騙してまで情報を得たがる理由にならない。


訊きたい事は山ほどあったけど、佐江子さんから声をかけられ部屋の中へ入った。中へ入ると、いつの間にか悠莉さんは消えていた。残された佐江子さんはすっかり帰り支度を終えていた。


「そろそろ帰るね~あ、私の連絡先、スマホに入れといたから」


え……?


「危ないからホーム画面にロックかけた方がいいよ?」

「ちょっと!最悪!それプライバシーの侵害!」

「え~だって声かけられなかったし~」


いやいや!全然声かけて良かったから!むしろあんな風に流される前に声をかけてよ!復縁を求める元彼女ならあの状況を阻止して!!そう思いつつ佐江子さんを見送った。


すると帰り際、佐江子さんは私の様子を見て言った。


「その感じだと……沼に足を踏み入れちゃった感じ?」

「沼……?」

「蓮は沼だよ」


沼……?ハマると抜け出せない?あの沼?


確かにそうかもしれない。この数日、ずっとロボ太の事を考えていた。あんなのロボ太じゃないと思いながら、どこかあの人の中にロボ太との共通点を探していた。


きっと……自分がロボ太の特別であると思いたいが為に冷静な判断を失っていた。


それなのに何より恐ろしいのは、今でも『あの人が本当はロボ太なんじゃないか』という考えを捨てきれない自分がいる事。ロボ太じゃないと言われたのに、ロボ太との感覚でその言葉に応じてしまう事。


後日、今度はしっかり父親にアポを取らされて、再びあの駅に向かった。


静ちゃんにはくれぐれも気を付けるように念を押し、警察へも行ってみた。だけど、まるで取り合ってもらえなかった。どうやら会いに行く相手が私の父親で、脅迫の内容も曖昧で事件性は無いと判断されたらしい……


ガチでリアルに脅されてるのに!


今回も以前と同じ時間に同じ場所での待ち合わせだった。ひとつ違うのは、事前に佐江子さんと悠莉さんの存在を知っている事。


駅に着くと、あの人があの時と同じように私を待っていた。結局私はロボ太のなりすまし野郎の本当の名前を知らない。だからあいつをどう呼べばいいのかわからなかった。


「美織!」


向こうだけが私の名前を知っている。私はあの人を何も知らない。


「美織だけだよね?」

「だけ?だと思うけど……」


男はキョロキョロと辺りを見回していた。


そりゃ警戒もするわな……前回の事があれば尚更の事。自分も一緒になって辺りを見回すのはどうかと思ったけど、私も二人の姿を探した。


一応、今日の事を二人に連絡しておいた。この人と二人きりで会うと伝えれば必ずここへ来ると思った。それなのに……


なんで今日は来ないの!?ここ絶対邪魔すべき所でしょ!?


そんなこんなで私の予想は大きく外れ、二人きりで事務所へ行く事になった。二人で並んで歩くと少し緊張した。


「あの……名前……本当の名前は?蓮なの?」

「いや?違うけど?」

「じゃあ……何?」


男はしばらく考えて、名案とばかりに口を開いた。


「藤丸諒太……リョウって呼んでよ」

「はぁ?!」


こいつまだ本名を教えないつもり!?


まぁ、別に名前なんかどうでもいいや。とにかく私はこの人を父親の事務所へ連れて行くだけでいい。それで全て終わる。


「あんたってロボ太とどうゆう関係?」

「あんた?違う。俺はリョウだって言ったんだけど?」


何故か男は頑なに自分をリョウと呼ぶ事にこだわった。


「そんなのどうでも良くない?」

「どうでも良くない」

「蓮はロボ太の友達?」


事務所の入っているビルが見えて来た頃、男は急に立ち止まった。


「蓮じゃない。リョウ。リョウって呼ばなきゃ質問に答えない」

「子供か!」


何をそんなにこだわってるんだろう?理解できない。


私は大きなため息をついた。そんな私の態度に、男は急に足を止めた。


「事務所の中に入る前に一つ確認したいんだけど、俺の事を父親にどう紹介するつもり?」

「え?………………友達?」

「それ今考えたよね?」


そうだ……父親にどう説明しよう。全然考えてなかった。このままただ普通に紹介したら……


「まぁ、彼氏として紹介するのが自然だよね」

「いやいやいや!全然自然じゃないよ!6年ぶりに会う父親に彼氏を紹介って……」


絶対ややこしくなる!!


「そのくらい関係が親密じゃないと心開いてもらえないんじゃないかな?」

「それ逆に心閉ざされるでしょ。彼氏は父親の敵じゃない?」

「そっか。でも……それって愛されてるって事だよね?」


愛されてる……?


「彼氏に取られたくないって気持ちは娘を愛してるからこその気持ちだよね」

「違うんじゃない?それは一般論であって私の父親がそうとは限らない」


結局ロボ太とどうゆう関係なのか聞けず、そのまま事務所の中へ入った。



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