1、暗い空の夜
性懲りも無くまたぼんやりと書き初めました。自分のペースでのんびりぼちぼち書いて行こうと思います。暖かい目で文章トレーニングにお付き合いいただけると幸いです。
1、
誰かと別れた日は必ずあいつを思い出す。あいつに初めて会った日も別れ話の後だった。
あの時はショックや悲しみもなく、ただその関係が何事も無く淡々と終わりを迎えた。今度も同じく電話でその終わりの合図を聞いた。
「別れよう」
先輩の声は、私の耳なや妙にはっきりと聞こえた。1人の部屋が不自然な静けさに包まれた。
同じ人に同じ季節に同じ言葉。不思議な感覚。先輩の「別れよう」その声が、当時の先輩の声と重なって聞こえた。
先輩と一度目に付き合った時は、中1の終わり頃。
当時はまだ付き合うとかよくわからなくて、ただ告白されたから言われるまま付き合った。
私が黙っていると、先輩は間を埋めるように言った。
「俺達、とっくに終わってたよ。それでも……けじめはつけないと……」
先輩は私が何か言いたい事があるんじゃないかという空気で私の返事を待っていた。
「そうですね……けじめをつけないと……」
それはお互いにと言うより『先輩が』けじめをつけないと前には進めない。
そんなのわかってる。
今思えばあの頃は流されてOKした。でも付き合い初めてすぐに親が離婚して、私は田舎に引っ越す事になった。実質、遠距離恋愛からのスタートだった。
「それに……美織も他にいるんだろ?」
「は?」
「何となく最初から本気じゃないのはわかってた」
本気じゃない?それはお互い様でしょ?
電話やメール、SNSがあれば中学生のちんけな遠距離恋愛なんてチョロい。でも、それも繋がればの話。
私達には片道四時間という距離よりも、電波が不安定という問題の方が深刻だった。私が引っ越した村は電波もろくに入らない超ド田舎。当時は引っ越したばかりでwi-f環境も整っていなくて、買い換えたばかりのスマホは何の役にも立たなかった。
そんな劣悪な状況下で曖昧な恋愛感情が冷めるのに時間はかからなかった。その終わりは必然的にあっという間だった。
それに比べ今はしっかりと電波があって、いくらでも繋がれる。それなのに……先輩とは何故か繋がらない。
先輩にかける言葉が見つからない。
私は前髪をあげると、ふとカーテンの開いた窓が目に入った。もう夜だ……後でカーテンを閉めよう。
窓の外にはすっかり葉桜になった桜の木が優しい風に揺れていた。あの日もこんな静かな夜だった。
あの時の先輩には少しも迷いは無かった。本当は「早々諦めるなら最初から告白なんかすんなよ!」と叫びたかったけど、突然引っ越したのはこっちのせいだし……何より先輩の温度は電話越しでも体感できた。
「わかりました」
あの時と同じ。私はそう一言だけ言って電話を切った。
電話を切ると、すぐにカーテンを閉めに行った。そのままベランダに出て風に当たった。暖かい風に頬をなでられると、あの田舎を思い出した。中学2年から2年間、幸せに暮らした場所。
目を閉じると次々と思い出す。通った学校や野山、あいつと遊んだ家……特に、あの日の事も。
あの日、先輩との電話を切った後も妙な静けさだった。静けさだけならまだしも、田舎の大きな一軒家はどこか不気味だった。梁の軋む音や窓からの隙間風、あの家の雰囲気に馴染めず感傷に浸る余裕は無かった。
姉妹でもいれば面白おかしく『まっくろくろすけ』でも探しに行けるけど、一人で肝試しをするほど陽気な気分じゃない。一応ついさっき別れ話をしたばかり。
1人で色々考えると息がつまりそうだった。
多分、先輩のせいじゃない。絶対、私のせいでもない。このまま自然消滅でも良かったのに……どうして別れ話なんかしたんだろう。
息がつまって涙が出そうになった。そんな気分を変えたくて私はそのまま玄関から外へ出た。
玄関の引き戸を引いて外に出ると……
暗っ!!
田舎の外は思ったよりかなり暗かった。思いきって外へ出たはいいけど……暗くて足元もろくに見えない。いくら彼氏と別れたからって、そんな夜道を平然と歩けるほど自暴自棄になってない。
あの時の私は……どこかへ行ってしまいたくてもどこへも行けず、ただ草の生い茂る庭に出て広い空を見上げた。
その空には月に照らされた雲がゆっくりと流れていた。その雲の隙間からわずかな星が見えた。
「星だ……!」
満点の星空じゃないのが悔やまれるけど……その時の私には十分すぎる星空だった。
今の私の見上げる夜空に1つでも星があれば……
そう思って、目を開いて空を見上げてみたけど……空は星1つ無い。そのまま夜風に当たって真っ暗な空を眺めると、さらに空気が重くなった。
ここは田舎と違って星は全然見えない。たくさんの家の灯りや街灯は見えても、空は狭くいつも暗い。
あれから6年……あの田舎から上京して4年。6年の歳月は光の速さかと思うほど速く過ぎていた。あっという間すぎて、この先も一人でひっそりと年を取るのかと思うと何だか落ち込んだ。
「そうだ!これは静ちゃんに報告だ!」
こうゆう時は持つべきものは友達。私は親友の静ちゃんに連絡しようと部屋の中へ戻った。
大学生活は悪く無い。悪く無いけど……知り合いは少なくてどこか寂しい。高校の時も誰も知り合いのいない全寮制に入学した。だから2年前に先輩と偶然再会した時は、ただ再会できた事だけで嬉しかった。
先輩にとってはきっと遊びだったんだろうけど……それがわかっていても別れられなかった。
そんな事を話したくても、スマホが見つからない。私は狭い部屋を見回した。洗濯物の下やプリントの束をどかしたけど見つからない。
「あれ?どこ置いたっけ?」
私は諦め半分にプリントをそのままテーブルに置いてベッドに寝転んだ。見慣れた天井を眺めると、先輩の事を思い出した。
半分の1年は惰性で付き合って、残り1年はほぼ他人だった。友達には「よくそこまで放置できるね」と言われたけど……先輩の事を知れば知るほど落胆し、その落胆した自分を責めた。
先輩といると、自分の心が腐っていく気がした。
それでも1人になりたくないという浅ましい気持ちで『彼女』としてしがみついた。
それが遂に先輩から「別れよう」という言葉が出た。今回はあの時より明確な理由があった。それは「他に好きな人ができた」つまりは他に好きな人ができたから私との関係を精算したい。そう言われたわけだ。
フラれて悲しみのどん底……という程でも無いけど、今までの楽しかった日々思い出して感傷に浸りたい気分だった。スマホの写真も全部消そう。そうしないと付き合った気も別れた気もしない。
「やっぱりスマホが必要だ。探そう」
そう決心して再びスマホを探し始めた。無心でスマホを探してていると……突然インターホンが鳴った。
こんな時間に荷物?壁掛け時計を見ると、夜の11時を少し過ぎていた。
違和感しかない突然の来客に、恐る恐るモニターを見た。
そこには…………見知らぬ男が立っていた。
ここまでくるとホラーかと思うかもしれないけど、その男は満面の笑顔でこっちに向かって手を振っていた。
「美織~!僕だよ~!開けて~!」
誰!?こんな顔の整った人知らない!!その人はモニター越しでもわかるほど綺麗な顔をしていた。
一応?人並みに?『いつか王子様が迎えに来るかも~』なんて夢見た幼少期はあったけど、今じゃそんなもの受け入れられるはずがない。
いや、マジであり得ない!
非現実的な展開にしっかりと身構えた。アポなしの訪問者は気味が悪い。いくら顔が良くてもこれはかなり警戒する。
「美織~!」
それでも私の名前を呼んでいるという事は、少なくとも向こうは私を知っている。このまま居留守を使おうかとも思ったけど、あまりにもしつこく何度もインターホンを鳴らすから……
覚悟を決めて応対する事にした。
「はい。どちら様ですか?」
これで人違いや部屋違いならそれでいい。むしろその方がいい。
「僕だよ!ロボ太!忘れてないよね?」
「は……?ロボ太?ロボ太って……あのロボ太!?」
頭の中でロボ太の記憶を再確認した。それでもどんなに都合よく脳内変換したとしてもこんなイケメンにはならない。どう頑張ってもこの人とロボ太は結び付かない。
え?何?ファンタジー?ファンタジーなの?今、目の前でとんでもない奇跡が起こっちゃってる?