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海底(うなぞこ)の三角帽 ランプ売りの青年外伝2  作者: ふん


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第十八話

 数日後。シッポウ村に迎えに来た二隻の海賊船は、東の国から離れることなく停泊したままだった。

 リットが海底洞窟の話をすると、アリスとティナの二人が競って探索を始めたからだ。それによって、現在シッポウ村の海岸では人魚達が占拠するように泳いでいるので、それをひと目見ようと村中の人が海岸に集まって海を眺めていた。

 リットとマグダホンは海に潜っても足手まといになるだけなので、船と村を行ったり来たりしていた。

「急に物事が動き出した気がしてきたな」

 マグダホンはコーラル・リーフ号の上から、海の中を自由自在に泳ぐ人魚の影を見ながら、ソワソワと落ち着かない様子だった。

「なに言ってんだ。物事ってのは、ここから急激に動かなくなるってのが世の常だ。下手すりゃ、数十日もずっとこうやって眺めているだけになるぞ。まだ、鯉の池を見てたほうがマシってもんだ。餌をやりゃ暇つぶしになるからな」

「なんだ……つまらん。こういう時は、もっとワッと盛り上がるものだと思っていたぞ」

「たかが洞窟探しだぞ。テンションが上がるのは、砂の中から犬の糞を掘り出す時のガキくらいのもんだ。他にそんな奴いるかよ」

 マグダホンは言葉で答える代わりに、海面に向かって指を下ろした。

「へへーんだ! どうだ? 指を咥えて見てる気分はよ!!」

 アリスは触手をうねうね動かして船に向かって煽っていた。リットとマグダホンではなく、化粧が崩れるのを嫌がって海に潜らないコーラル海賊団。それも主にティナに向かってだ。

「リット! なんで海の中に洞窟があるなんて言ったのよ! そのせいで、こっちの船からはバゴダスしか探索に行かせられないじゃない!」

 ティナに胸ぐらをつかまれたリットは「しょうがねぇな……」と空を指差した。「実は入り口には雲の中にもある。オレに遠慮すんな。空を飛んで探せよ」

「あのねぇ……そんなので騙されるわけないでしょう。本当は陸に入り口があるとかはないの?」

「気になるなら自分で探せよ。今のところ、二人共役に立ってねぇんだからよ」

 マグダホンは「まったくだ……」と、憤慨を押し込んだような渋い表情で言った。

「間違えた……三人共だ。いいか、オレになんでも聞くな。答えが欲しけりゃ神父に聞け。そしたら神父は神の代わりに答えてくれる」

「男なら、最後まで女に付き合うものよ。料理だって作るだけじゃない。食器を片付けるまでがセットでしょ」

「店で金を払って食えば必要はねぇよ」

「わかった、言い換えるわよ。ベッドは朝に一緒に食事を食べるまでがセットなの。これと同じことよ」ティナは「おわかり?」と肩をすくめた。

「今言ったばかりだろ」とリットも肩をすくめ返した。「店で金を払って食えば必要はねぇよ」

「ようし! 盛り上がってきたぞ!」

 マグダホンは二人の間に立って、あからさまにワクワクした表情で目を輝かせていた。

「盛り上がり終わった後の話をしてんだよ」

 リットが呆れると、ティナは更に呆れてため息をついた。

「セイリン船長と約束したんだから、それを守りなさいって言ってるのよ。ユレイン船長の三角帽は私のもの、そしたら船はリットのものよ」

 ティナは自分の胸を指した後に、リットの胸元をつついたが、その指はマグダホンにつままれて別方向を指すことになった。

「船は私のものだぞ。勘違いしてもらっては困る。私は妻のものだ。そこも勘違いしてもらっては困る」

「マグダホンの胸に興味なんかないわよ」ティナは指を離すと、その指をすぐさま海にいるアリスに向けた。「今興味があるのは、どうやったらあのムカつくアリスに一泡吹かせられるかよ!」

「簡単だ、今すぐ海に飛び込んで沈めてやれよ。ぶくぶくと海面に泡が浮かぶだろうよ」

「あなたねぇ……海賊をなんだと思ってるのよ」

「安心しろ。ちゃんとろくなもんじゃねぇとは思ってるからよ」

「ここって……怒ったほうがいいところ?」

「好きにしろよ。怒ろうが喜ぼうが、どっちにしたってオレは話を聞かねぇんだからな」

 リットはイサリビィ海賊団の面々に話を聞こうと、コーラル・リーフ号から小舟へ乗り換えて、砂浜へと向かった。

 その影が見えたアリスはリットを追いかけ、小舟が砂浜に到着するなり大声で呼び止めた。

「おい! 本当に洞窟の入り口は海にあるのか? 地上にあるのを隠してるんじゃないだろうな!!」 

「さっきティナにも同じことを言われたばかりだ」

「やっぱりか!! 裏切りやがって!!」

 アリスはリットの胸ぐらに掴みかかると、憤りをぶつけるように盛大に揺さぶった。

「落ち着けよ……酒も飲んでねぇし、船から降りたっていうのに酔うじゃねぇか……」

「なら吐きやがれ! 入り口はどこだ!」

「地上に入り口があったら、コーラル海賊団は船長を筆頭に今頃そこに向かってるだろ。いい加減揺らすのをやめねぇと、別のもんを吐くぞ……」

 リットの顔色が悪くなるのを見ると、アリスは素早く手を離した。

「情けねぇ奴だな。まったく……これだけ海の中を探したってのに、どこの穴も行き止まりばかりだぜ」

「行き止まりの先を確認したのか? 崩れて先が埋まってるだけかも知れねぇぞ」

「そんなのがあったら掘り進めて、憂さ晴らしにこの国を沈めてるぜ……」

 アリスはもう一度地図を見せろと、リットからひったくると、地面に置いて親の仇を見るような目で眺めだした。

 イサリビィ海賊団は余すことなく地図にある海の洞窟を確認したはずだった。人間や獣人なら、探索に何十日、何百日かけても見つけられないかも知れないが、探しているのは海を棲家とする人魚だ。見逃すということはありえないし、一日もあれば近くの海底洞窟など見つけられるはずだった。

 だが、どの洞窟も人魚が少し泳げば行き止まるようなものばかり。アリスは地図そのものに疑いを持ち始めていた。

 もう既に、太陽が海を煮込むようにな色で落ちてきているせいで海の中も暗くなり、探索は困難になってくる。だが、このまま続けても、仕切り直して明日また再開したとしても、今日と同じく成果なしということになりそうだった。

 頼るものがこの地図しかないこの状況では、アリスとティナの気持ちは焦るばかりだった。

 なんとか地図に隠された情報はないかと躍起になって探している。

 そんなアリスを尻目に、リットは地図を見るのは無駄だと諦めていた。この地図を書いたのがユレイン船長本人だと言うなら可能性はあるが、書いたのはシッポウ村の漁師の妖怪だ。ダストホールの底まで続く道を知っているはずもない。



 いつの間にかリットは眠りにつき、地図を残してアリスの姿は消えていた。

 二つの月が空と海に浮かび、角笛岬が小さく鳴いている。呑まれた深い闇を照らす灯台は、リット達が事件が解決したことにより、もうその役目を終えていた。代わりにロウソクのように、優しくだが確かに明かりを灯し、船に存在を知らせていた。

 夜になり、昼とは様変わりした浜辺で、リットは大きくあくびをした。

 ぐっと強く目を閉じて、こぼれた涙を指で拭いて目を開けると、そこにはリットにダストホールの存在を教えた、服をミイラのように着込んだ人魚がいた。

「まったく……もう……なにやってるの」

 人魚は心底がっかりしたとため息をついた。

「なんもやってねぇよ。寝てたんだ。なんかやるのはそっちの仕事だろ」

「だからやってるでしょ。今こうやって出てきてあげたんだから」

 人魚が偉そうに腰に手を当ててふんぞり返ると、月明かりに照らされたボロ布の影が不気味に浜に伸びた。

「そりゃ頼もしい限りだな」

 リットは皮肉たっぷりに言った。

 月の位置から見て、夜は更けている。昼に探索をしていた人魚が、こんな夜中まで起きているわけがないと思ったからだ。一日中泳いでいたイサリビィ海賊団はもちろん。コーラル海賊団も砂浜を行ったり来たり、岩陰や茂みに洞窟がないかと探したり、アリス達が出し抜いたりしないかと監視したり、無駄に忙しく過ごしてたので疲れている。

 その証拠に砂浜は人魚が尾びれを引きずった跡だらけで、見るも無残な光景になっていた。

 なので、この時間に活動している人魚は、昼間にサボっていた役立たずしかいないということだ。

 そんな人魚に話を聞くだけ無駄だとリットは思っていたのだ。

 蔑みの視線の意味を理解した人魚は、この時間に起きているリットに「お互い様だと思うけどなぁ……」と納得できないでいた。

「お互い様ってことは、お互い成果なしってことだろ。言っとくけどな。長い夜の暇つぶしに付き合うきはねぇぞ」

「人間と一緒にしないでよね。こっちは海の酸いも甘いも知り尽くした人魚だよ」

「じゃあ、オレのほうが海を知ってる。海ってのはしょっぺぇんだ。それに人魚なら、身近にごまんといるからな。今更どうこう講釈を聞く気もねぇよ」

「一緒にしないでしないでほしいよね……。私はそんじゃそこらの人魚とは違うんだから」

 リットは「わかったわかった」と適当にあしらうと、流木を集めて火をつけようとした。

「あぁ! ダメダメ! ダメだって!! 火なんか起こしたら乾燥しちゃうでしょ」

「オマエは知らないかもしれねぇけどな。目の前に広がってるのが海だ。甘くも酸っぱくもない――しょっぱいほうのな」

「いいから来てよ。火なんかつけてると置いてくよ」と、人魚が闇に消えていきそうになったので、仕方なくリットは後をついていった。

「どこまで行くんだよ」

「さぁ……ちょうどいい貝が見付かるまでかなぁ」

 人魚は月明かりだけが頼りの暗い地面をキョロキョロと見ながら答えた。

 あてのない旅に、リットは「帰る」と一言、踵を返した。

「せっかちだね。すぐだって、ほら見つけた」

 そう言って人魚が拾ったのは二つの貝殻だ。色も形も大きさも違う。そもそも種類が違っていた。一つは巻き貝、もう一つは二枚貝の片割れ。

 それを渡されたリットは「どうせなら中身の入ってる貝を寄越せよ」と渋々受け取った。

「まぁまぁ、いいからその二つの貝殻をぴたりと合わせてみなよ」

「……知ってる。これはシッポウ村のガキがやる遊びだろ。まさか昼にサボってる間にガキから教わった遊びを自慢しに来たのか?」

 文句を言いながらもリットは言われたとおりに貝殻を二枚合わせてみた。

 当然二つの貝が合うわけがなく、二枚貝を皿のように巻き貝が乗っているだけだ。

 だが、人魚は「ほら合わないでしょ」と満足気にしていた。

「んなの、ひと目見ただけでわかるだろう。巻き貝と二枚貝だぞ。不可能だ。ありえねぇ」

「そうだね。ありえない。それが大事なことだよ」と、人魚は二枚貝のほうを捨てると「じゃあ、その渦巻き貝と同じものを探せるって話だよ。まぁ……結論から言っちゃうと無理だけどね」

「あったぞ」とリットは足元にあった似たような巻き貝を投げ渡した。

「うそぉ……あったら困るんだけど。見付けられないように、火をつけるなって言ったのに意味ないよ……」

 人魚は話しにくくなったとうなだれた。

「次に結論を話さねぇと、もう話を聞かねぇぞ」

 人魚は投げやり気味に「はいはい……」と返事すると、「その見付からない巻き貝を探すのがあなたの役目ってこと。なぜならそこに入口があるから」

「この下にってことか?」

 リットが足元を踏み鳴らすと、人魚はリットから巻き貝を奪い取って海に投げ捨てた。

「あんなのここらじゃどこにでもある巻き貝だよ! 見付からない巻き貝を探せって言ってるの! わかった? あれしかセリフを用意してなかったんだから、いちいち茶々をいれないの!」

 人魚の迫力に気圧されたリットはそれ以上なにも言う気にならなかったが、そもそも言っている意味がわからなかった。

「ここらじゃ見付からない巻き貝ってなんだよ。港で仕入れろっていうのか?」

「海の底から浜まで。海も陸も移動できる不思議な貝があるのを知らないの? ヤドカリって言うんだけど」

 人魚の皮肉に、リットは「なるほど」と頷いた。皮肉ではなく感心していた。

 そして、月が浮かぶ沖に目を向けた。「魚は無理だけど、ヤドカリは海底から洞窟を通って移動して来れるってわけか……。つまりここにいるはずのない貝殻を背負ったヤドカリがいれば、そこがダストホールの入口ってことか?」

 リットが振り返ると、人魚の姿はなくなっていた。






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