表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海底(うなぞこ)の三角帽 ランプ売りの青年外伝2  作者: ふん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/25

第十一話

 イサリビィ海賊団の隠れがある島の入り江には、ボーン・ドレス号とコーラル・リーフ号が仲良く並んで停泊していたが、海賊同士まで仲良くとはいかず、さっそくアリスがセイリンの部屋に乗り込んだ。

「頭ァ!! なんだって、あんな奴をアタシらのアジトに招待したんだよ!!」

 アリスはティナがどれだけ嫌な人物かをまくし立てた。弁に熱が入り、落ちているものを手当り次第に触手で掴んで撒き散らすので、元々片付いていないセイリンの部屋は更に汚れてしまった。

「アリス……よく考えたらわかることだろ。ティナより頭が悪くないならな」

 セイリンに含みのある言い方をされたせいで、アリスはピタッと動きを止め、真剣な表情になり、なぜティナがイサリビィ海賊団のアジトに来たのか考え始めた。ティナに負けたくない一心で発揮されたその集中力は、ティナが部屋に入ってくるのにも気付かないほどだ。

 ティナは緊張した面持ちで一歩前に出ると、なんとか落ち着こうとして、肩を大きく揺らすほどの深呼吸を繰り返した。

 そうしてなんとか切り出した「本日はお日柄もよく――」というティナ言葉を、セイリンは振り払うように片手を上げるだけで乱暴に制した。

「堅苦しい形式張った挨拶なんかいらん。なぜここへ招いたかわかるか?」

 セイリンが鋭く睨んで言ったので、ティナは思わず怯んでしまったが、言葉を飲みきってしまう前に、なんとか口から出した。

「……ア、アリスとのことですよね?」

「そうだ。喧嘩をするのは構わない。私には関係のないことだからな。だが、長く続きすぎだ。いつまで小突き合いをやってるつもりだ?」

「それは……アリスが……」

 ティナはまるで叱られた子供のようにしゅんと小さくなっていた。

「アリスに聞けばティナが――、ティナに聞けば案の定アリスが――だ。アリスのバカが考えなしに船を出すせいで、関係のなかった私まで被害を被ることになっている。国に目を付けられるくらいなら今まで通りだが、目の敵にされるとたまったものじゃない。私はこの海が気に入っているんだ。これは大きな問題だ。わかるか?」

 ティナは「わかります……」と頷いたが、「――ですが!」と食い下がった。

 このまま引き下がることは出来ないからだ。仮にも海賊の船長が、今まで闘ってきた相手に簡単に頭を下げるなんてあってはならない。それも相手は副船長のアリスだ。憧れであるセイリンの提案でも、ティナはプライドにかけて譲らなかった。

 そんなことは、セイリンも十分承知しているので、ここからが重要な話だと立ったままのティナを座らせた。

「経緯も個人的な感情も邪魔になるだけだ。話を単純にしよう。要はどっちが偉いかという些細なことで争っているんだろう?」

 セイリンに些細なことと断言され、ティナはしゅんと頭を垂れて「はい……」と返事をすると、更に深く頭を垂れて頷いた。

「なら簡単だ。二人が今、何で争っているかも聞いているからな。ユレインの三角帽を手に入れろ。それも、うちの海賊とそっちの海賊で協力してな」

 ティナは考える間もなく「無理です!!」と声を大きくした。「あんなのと協力なんて出来ません!!」と、考えすぎて思考が止まってぼーっとしているアリスを勢いよく指した。

「協力と言っても、仲良く同じ船に乗って、酒を飲んで、ベッドを共にしろと言っているわけではない。共に行動をすれば、感じるものが変わり、目に映る景色も変わってくるというものだ。その働きを見て、どっちが優秀か決める。それでいいだろう。判断は私ではない者に委ねる。私だと不公平と言われても仕方ないからな」

「私は思いませんけど……それなら誰が?」

「丁度いいのがいるだろう。同じくこの件に絡みたがっている第三勢力が……。アイツなら公平に不平等だ。何の問題もないだろ?」セイリンは言ってから「アイツはどこだ?」と、こじらせる原因を作ったリットの姿を探した。



 その頃、リットはマグダホンと一緒に砂浜で穴を掘って貝を探していた。

「絶対に貝が惚れるスコップとか作れねぇのか? ドワーフだろ」

 掘っても掘っても貝殻しか出ないので、リットは嫌気が差していた。それでも掘るのを止めない理由は、酒のツマミがないからだ。イサリビィ海賊団のアジトに来ているので酒はいつでも飲めるが、リットは今までコーラル海賊団と行動を共にしていたので、他の船を襲撃して取引をすることがなかった。ツマミを手に入れる機会がなかったのだ。

「作れるわけないだろう」とマグダホンは立ち上がって、痛む腰を叩いた。「今の家は荒野の穴ぼこだぞ。海の貝をとる道具を作れなどという依頼は入ってこない」

「なんでオレと一緒に行動するドワーフは、どいつもこいつも無能ばっかりなんだよ」

「それは聞き捨てならんな。私とノーラのどっちがどいつで、どっちがこいつかハッキリしてもらおうか」

「そういうところが無能だって言ってんだよ」

「ジョークの一つも通じんか」マグダホンは「まったく……」とため息を付いた。「私に農具を作らせてみろ、右に出る者はいないぞ。左にはいるがな」

「そりゃまた……左にいる数のほうが多そうだ」

「なら、後ろ向けばいいだけだ。そうすれば私の勝ちだ。さらに横を向いてみろ。右も左もいなくなって、私の独走態勢だ」

「そうやってクルクル回ってるから、頭がふらふらになって、まともなことを考えられなくなってんだよ」

「私は真面目に考えているぞ。今も真面目だ。貝がとれたら焼いて食べるか、煮て食べるか……。ノーラの話ではどちらも美味しいらしいからな。川の貝とは一味違っていいんだと」

 マグダホンは顎ヒゲについた砂を手で払いながら、味を想像してツバを飲み込んだ。今はすっかり船のことなど、頭から抜け落ちてしまっていた。

「おい……マグダホン。ここには貝を食いに寄ったわけじゃねぇんだぞ。船に乗って、すっかり満足しちまったのか?」

「なにをなにを、船で過ごすうちに思いは一層強く募るばかりだ。ただ焦っても仕方ないだろう? 人生というのは待つことも重要なのだ。静かに待ち、待って、待って、待って、待つことが大物を釣り上げるコツだ」

「そっちが海賊船で釣りの腕前を上げてる間に、こっちはあれこれと動いてんだぞ……」

「なら、一緒に待てばいい。のんびり貝を焼いて、酒でも飲んで、波の音に癒やされようではないか。そのためにはどうするか。今は動く時だ。さぁ、掘るぞ」

 マグダホンは休憩は終わりだと最後に体を大きく伸ばす。そして、またしゃがんで貝を探し始めた。



 しばらく貝探しは続いていたが、そのうちマグダホンは飽きてしまい、砂で砦を作り出していた。

 完成間近で、リットに「国旗の代わりはないか?」と聞いていると、腑に落ちない表情のアリスが二人を迎えにやってきた。

「頭がお呼びだ。文句言わずについてきてもらうぜ」

「文句はねぇけどよ。なにをぶーたれてんだよ」

 リットに聞かれたアリスだが、「アタシが知るかよ」と首を傾げた。

「知るかって、自分のことだろ」

「だから知らねぇんだよ、アタシが何に怒ってるのか」

「世を嘆き憂いて怒ってるわけじゃねぇのは確かだな」

「なにを当たり前のことを……いいから来いよ。おっさんもだ、一緒に来てもらうぜ」

 アリスは触手の先で二人を手招くと、背を向けて歩き出した。

「はて……なにかしたか?」呼び出される覚えがないと、マグダホンは首を傾げた。

「なにもしてねぇから呼び出されたんだろうよ。大方船の話だろ。ティナもいることだし、なんか話がまとまったって考えるのが普通だ」

「そうだ!」と声を張り上げたのはマグダホンではなくアリスだった。「あのアマが来てるんだ!! それで怒ってたんだアタシは!」

「そう怒ることではないだろう。友が来たなら、歓迎をするべきだ」

 マグダホンはなだめるようにアリスの背中を叩いたが、すぐに触手によって振り払われた。

「おっさん……ティナは友じゃない――敵だ。敵が隠れ家にやってくるのはおかしいだろ?」

「いやいや、おかしいことはないぞ。友より敵のほうがやってくるものだ。そうじゃないと、どうやって侵略するんだ。攻撃こそ最大の防御だぞ。先制攻撃は大事だ! と、どこぞの国の兵士が言っていた」

 マグダホンの話を最後まで聞かずに、アリスは「侵略だ!!」と騒ぎちらして走っていった。

「なにやってんだよ……」とリットは呆れるが、マグダホンも同じ表情をしていた。

「私は思ったことを言っただけだぞ。アリスが勝手に解釈して飛んでいくとは誰も思わん。そんなのはアホのすることだぞ」

「そういうのは本人の前で言ってやれよ。アホは言われないと気付かねぇからアホなんだ」



 二人がセイリンの部屋につくと、アリスは伸びて倒れていた。

「気にするな。一人でうるさいからしばいただけだ」

 セイリンは対面に座れとジェスチャーするが、マグダホンはまずアリスに近寄り、耳元で「アホのすることだぞ」と一言残してから、セイリンの前に座った。

 リットは「ティナはどうしたんだよ」と部屋を見回した。アリスが騒いでいたので、セイリンの部屋にいると思っていたので「船の話じゃねぇのか?」と聞いた。

「ティナは自分の海賊団に説明をしにいっている」

「その説明ってのはオレにもしてくれんだろうな」

「そのために呼んだからな。これからしばらくは、イサリビィ海賊団とコーラル海賊団は協力関係を結ぶこととなった。その舵取り役がリット、オマエだ」

 リットは自分に向けられたセイリンの指に手を重ね合わせると、ゆっくり下ろさせた。

「意味はわかったけど、理由がわかんねぇよ……」

「簡単なことだ。二つの海賊団が協力して、ユレインの三角帽を探す。その間、役に立ったほうが縄張り争いの勝者だ。その勝者を決めるのがリットということだ。誰にでも三角帽を好きに渡せ」

 縄張り争いの問題が解決すればアリスもおとなしくなるので、イサリビィ海賊団が海軍の目の敵にされて、追いかけ回されるようなこともない。勝とうが負けようが、一度勝敗が付けばアリスもティナも納得する。

 それに三角帽が見つかれば、マグダホンは船を手に入れられるし、その分早く陸に戻ることが出来る。そのためには、リットも真面目に取り組み、二つの海賊団と行動を共にする必要があるということだ。

 これが最善策だと、セイリンは意地悪く笑ってみせた。

「マグダホン……船をもらった時の練習に、自分で舵を取れよ」

「私はドワーフだぞ。するのは鍛冶だ。どうしてもと言うのならかまわんが……私が舵を取れば、出向する前から暗礁に乗り上げる自信があるぞ。乗りかかった船だろ? リットが自分で舵を取ったほうがいいと思うがな」

 リットは少し考えてから「これってオレに報酬はあるのか?」と聞いた。

「私には関係のないことだからな。報酬も罰則もそっちで勝手に決めるがいい」

 セイリンは話は終わったから、もう出て行けと手を払った。伸びているアリスも連れて行けと言われたので、マグダホンはアリスを肩に担いで部屋を出た。

 甲板に出たところで、マグダホンが「報酬か……いるものか?」と、首を傾げてつぶやいた。

「大事になってきたからな。ドワーフの酒とかねぇのか?」

「そんないいものがあったら、私が先に飲んでいるに決まっているだろう。だいたいバーロホールで、私が土に隠していた酒を盗んで飲んだのはリットだろう。私は忘れてないぞ」

「オレは忘れた」

「なんて男だ……」

「人の仕事場を乗っ取ろうとした男が言えることかよ……」

「まったく……わがままな……」マグダホンは考えたから「そうだ!!」と手を叩いて鳴らした。「しばらく住み着いて仕事を手伝うというのはどうだ? ドワーフのランプ屋。きっと有名になるぞ」

「正式に乗っ取りに来てんじゃねぇかよ。店を乗っ取られそうだから、海まで出てきたやったのに、戻って手伝わせたら意味ねぇだろ」

「なら、店は返してやるから、私が船を手に入れるのを手伝う。それでいいだろう。今まで通り。なにも変わらずだ」

「ずいぶん海賊に染まったじゃねぇかよ……」

「海の男の素質十分だな。私は船に乗る準備は出来ているぞ!! ……ところで、この海の女はどうすればいいんだ?」

 マグダホンは肩に担いだアリスを揺らした。

「餌にして吊るせば、でかい魚が釣れるぞ」というリットの言葉を鵜呑みにして、マグダホンはアリスをロープで縛って海面に垂らした。

 すると、「無様ねー」とティナを筆頭にコーラル海賊団が、アリスの周りに集まって醜態を眺めていた。

 目が覚めたアリスは、目の前で嘲笑うティナでもなく、自分を吊るしているマグダホンでもなく、絶対にリットのせいだという確信を持って、真っ先に殴りに向かった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ