舞島 早苗の考察その2
遅くなりました!
その男の名前は御門 雄一。例の政治家の息子だ。たしか如月さんの事件にかかわっていた。ハイオークをやりすぎたことで怖がって大人しくしている思ったのに。今頃なぜ?
生徒会グループは解放した。証拠が既にあるのでいつでも問い詰めることはできる。それよりは、御門というやつについて早々に考える必要が出てきた。
今回の出来事は生徒会グループだけで計画されたものだ。ただ事件の後、光圀くんが絡んでいるということで、彼がでてきたのだとしたら?
まだ事件ははじまりにすぎないのでは……。
彼の停学も異常なほど早く決まったそうだ。それはいつも光圀くんをサッカーボールキックで足蹴にして、悦に入る変態女教師がいってた。
となると教師の中にもやつの協力者がいると言うことになる。
あの変態女教師を抱き込んで、探らせてみるのがよいかもしれない。
「最近光圀がいないから、足が寂しくてなぁ」
「この変た――先生は光圀くんのこと、好きですよね」
「むろんだ。わらえるほどブッサイクだし、愛嬌もある。それに紳士だ。そしてキモくて蹴りやすいし、蹴った時のあの腹の弾力が癖になる」
途中から完全に自分の趣味だ。
この先生も山根くんに通づるところがあるようで、話がそれまくる。
「今回のわたしの事件で、彼がターゲットになったかもしれません」
「……やはり……か」
「変た――先生は何かご存知なんですか?」
「おい……もう変態って言いっているのは気が付いているからな?」
「空耳ですよ。それより処分の時の様子など聞かせてもらえませんか?」
処分の時は、少し反論がでていた。光圀くんがそのような高度な薬品をつかう意味がわからないということだ。それはそうだ。ハイオークが怯えさせてメガトンプレスをすれば、女の子なんて簡単に動けなくなってしまう。
それに使われた薬品は、一般には出回っていないものだそうだ。劇薬と言ってもいい。これを生徒会だけでも入手は難しい。となればやはりかなり早い計画段階で御門が関わっていたことになる。
それはさておき、その疑問を覆したのが教頭先生と校長先生だ。彼らはとにかくハイオーク推しだったそうだ。
”ハイオークなのだから当然!”
”モンスターは死あるのみ!”
そうごり押しした。これはもうそれが真実なのだろう。つまり圧力だ。
前回の出来事から、政治家は息子がまた仕出かす事を読んでいた。その噴きこぼれる蓋を、すぐさま閉じろと、命じられていたとすればしっくりくる。
「ことが大きくなり始めている。あのバカ息子は、暴れるのをやめない。政治家は隠蔽する」
「どうにもなりませんか?」
「わたしの、一介の教師ではなぁ」
「出来ることは、対処療法だけだ」
「対処療法?」
「その場で起きた、今回のような事件を未然に防ぐか、起きても最小限に抑えるか」
彼に四六時中ついているわけにはいかない。でもクラスの協力を得られないだろうか?交代で見守り、何か起きそうであればメッセグループで連携。
念のため先生を巻き込むことにしていたから、先生とはその場でID交換をした。
「変態女――いや大黒先生。ありがとうございました。やれるだけやってみます」
「変態ではないっ!……すこし蹴るのが好きな、ピチピチおねえぇさんだ」
「……」
わたしは無言で立ち去ることにした。あの教師は多少あてになるかもしれない。それから急いでまわりにグループに入ってもらうことにした。
そして一人一人丁寧に説得した。あの二人が賛同したのが大きい。
彼と幼馴染の如月美月。
「うん!あたし賛成!たくみの為に出来ることをしたい!」
そしてもう一人。
現役アイドルの相川美紅。
「あ、あたしがたくみの為になること、やらないわけがないよ!」
ふたりはかなり光圀くんに好意的だ。むしろ大好きなのでは?と疑いたくなる親密度だ。下の名前で呼んでいるし……その時わたしはすこしチクリと胸が痛んだ。
これはブサイクなハイオークに急に人が集まりだしているのを嫉妬したのかもしれない。わたしはそんなことも寛容になれないほど小さい人間なのだと、少し落ち込んだ。
でも落ち込んでいる暇はないのだ。なんとなくでは困る。彼が確実に誰かの目に留まっている状態を作りたい。
そういうと、なんと停学中は相川さんの家に住み込み、レッスンの見学をしていると言うではないか。まさか同棲?そんな疑いはすぐに吹き飛ぶ。如月さんが毎日、光圀くんの様子を見に行っている。そしてレッスン以外の時間はほぼ相川さんと会えない状態という。
確かにこれなら安心だ。
……わたしはなにを心配した?
わたしは頭を振って、気持ちをきりかえる。
それなら停学が明けても相川さんのうちでしばらく預かってもらえばよいだろう。なんだかもやもやするけれど、彼の安全が第一だ。
それから彼はもともとアパートで独り暮らしだそうだから、宿泊は問題ないと言う。それは問題ないけど、一人暮らしという環境が少し気になった。
高校生で独り暮らしなんて、よほどの事情がない限り許されるものでもない。如月さんに聞けばわかるかもしれない。
登下校は事情が事情なので、送迎が可能だそうだ。これは心強い。
聞いてはいたけれど、相川さんのお宅は本当に裕福な家庭のようだ。
あとは学校だけだ。
彼がひとりにならないよう、男子の協力が必要だったが、これになんといつもサッカーボールキックをしている陣内君が名乗りを上げてくれた。
「へっ。おれの右足がさみくしてしかたねぇ……おれがまもってやるさ!」
カッコいいようにみえて、全然カッコよくない。自分が蹴りたいって言ってるだけだ。でも理由は何でもいい。男子しか行けない場所には彼の協力が得られそうだ。
こうして光圀くんを守るための準備が着々と進んでいくのであった。
わたしは知っている。彼が意外にも人望があることを。
わたしは知っている。ブサメンが紳士であることを。
わたしは知っている。ハイオークはやさしい魔物であること。
わたしたちが作ったグループは――
『ハイオークを保護する会』
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