第九話
結局・・・
「それではSO歴254年度の卒業査定の内容を発表する」
試験官たる、ユークリム先生が卒業試験を受ける俺達に向かってそう告げる。
30人のクラスが4つで、計120人もの生徒に緊張が走った。
先生は水晶玉のようなものを足元の台に設置する。すると空中にスクリーンのように魔法文字が羅列されていった。今回の試験は魔法を使用し演習場を丸ごと舞台とした大掛かりなものになるようだ。
試験の内容をまとめると、
・生徒一人につき、一つのサイン・ペンダントが渡される。
・制限時間まで自分のサインが破損しないように防衛しながら行動する。
・他人のサインを破壊した場合、1点が与えられる。
・5点を得た生徒が3人出るか、制限時間がきたら試験終了。
・サインが破壊された生徒は『ゾンビ』となるが、他のサインを破壊した場合、復活できる。
・ただし、自分のサインを破壊した相手のサインを破壊してはならない。
・復活した場合、0点に戻るが破壊した相手がポイントを持っていたなら、それも引き継げる。
と言ったところだろうか。
「要するに魔法でサバゲーをやるってことか」
サバゲーやったことないけど、多分そんな感じだろう。
「サバゲー?」
俺がふと口にした耳慣れない単語をヤーリンは首を傾げながら復唱した。ちょっと可愛い。しかし、そのせいで油断していたのか、不意に自分の名前が出てきて素っ頓狂な声を上げた。
「ただし、ヤーリン・ヤングウェイには特別なルールを課す」
「え?」
「皆も知っての通り、彼女の魔法レベルは他の生徒と比べて特出している。その為ハンディとしての措置を取ることになった」
先生がそう言うと、魔法文字が切り替わり新たなルールが表示された。これも要約してしまうと、
・ヤーリンのサインを破壊すると、一つで5点が与えられる。
・ヤーリンは何人倒しても点数を得ることがない。
という事だった。
けど、これだとヤーリンは遁走に徹底するだけで、寧ろ有利なのでは?
ルールの説明が終わったところで、再び生徒たちに緊張が走った。しかも試験の内容は、つまりは自分以外が全て敵となると言っても過言ではないので、それは一入だ。
いよいよ試験が始まるとなると、関心の薄い俺でも歯の隙間がもぞもぞ動くような、そんな感覚を味わっている。人並みに緊張くらいするんです。
「最後にルールと関係はないが補足説明をする。今日の試験は『ヤウェンチカ大学校』を除く他の九つのギルドの監査が入ることになっている」
その言葉に生徒たち全員が一気にざわついた。
俺はフェリゴを見る。すると、これでもかというドヤ顔を見せつけてきた。
「どういうことですか?」
「各ギルドへの入属を保証するものではないが、各々希望している進路への道を開くのに大きなチャンスとなる、ということだ。」
つまりアレか、頑張ってアピールすれば内申点が良くなるよって事ね。
これでヤーリンも自己アピールのために積極的に前に出てこざるを得ない。入りたいと熱望するギルドがある奴ほど躍起になるというシステムか。てことは、ほとんど全員が躍起になるってことじゃん。
しかし、各ギルドが仲良く手を取り合う姿がまるで想像できない。寧ろ、有益そうな生徒の取り合いになるんじゃないだろうか・・・。それとも他に何かがあるのだろうか。
まあ、そんな事を今、俺が考えたところでどうなるものではない。
今度こそ、試験についての説明は終了し、生徒たち一人一人にサイン・ペンダントが配られ始める。サインには魔法が施してあったようで、受け取った生徒から順に演習所のどこかにワープして行った。
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