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妖怪マニアの転生ギルド生活  作者: 音喜多子平
第一章 魔法学校への入学から卒業までの生活
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第六話

今からでも幼馴染ができないかしら


 用を済ませ、教室に戻る。その時、不意に声を掛けられた。


「おい、ヲルカ」


 聞き覚えのある声に、つい足を止めた事を後悔した。もう見なくてもそこに誰がいるかは明白だった。俺はうんざりとした気分を隠すこともなく返事をする。


「なんだよ、タックス」


 振り返ると、想定通りの三人組がいた。


 吸血鬼のタックス。

 オーガのカーデン・ダム。

 ハーピィのザルシィ。


 カテゴリの上ではこいつらも俺の幼馴染となるのだが、ヤーリンとは大分扱いが違う。端的に言えばアレだ。いじめっ子というヤツだ。同じ地区に住んでいるので、嫌でも顔を合わせる機会が多い。そしていつものように俺に余計なちょっかいを出してくる。


 その理由は明白だ。


 というのも、タックスはヤーリンの事が好きらしい。


 お隣さん同士という理由でいつもヤーリンの傍にいる俺がどうにも気に食わない様だった。だから事ある毎に俺にいちゃもんをつけてくる。


 最初の方は子供の嫉妬だなあ、と俯瞰で見ていられたのだが、こうもしつこいと流石にうんざりしてくる。何よりこいつには子供らしさというか、可愛げがないのが致命的に悪い。


 左右にいるカーデン・ダムとザルシィは言ってしまえば腰巾着って奴で、ほとんど必ずと言っていいほど三人一組で固まっている。


 カーデン・ダムはオーガという種族で腕っぷしが強い。ザルシィは飛行能力を持つハーピィという鳥人間で身体は細いが悪知恵が働く。そしてタックスの家は金持ちだ。金持ちの小僧の取り巻きに小賢しいのと筋肉バカという実に分かり易いトリオだった。


 クラスが一緒なのは勿論気が付いていたが、登校してからは大人しかったので初等部に入学したのきっかけに少し大人になったのかと期待していたのだが、この様子だとどうやら猫を被っていただけだったようだ。


「気安く名前で呼ぶんじゃない」


 タックスは不機嫌そうに言った。


 いや、お前が俺を名前で呼び止めたんじゃないか、とは言わなかった。面倒くさいから。


「それで? なんか用?」


「カーデン・ダムとザルシィがお前に話があるんだよ」


 ・・・。


 ああ、はいはい。そういう事ね。


 二人に俺の足止めを頼んで、自分は教室にいるヤーリンと仲良くしてあわよくば一緒に帰りたいとか思っているんだろうなあ。それを正直に打ち明ければ可愛げがあるというものなのに、素直になるどころか暴力的な解決方法を選ぶのが関わっていて不愉快になる。いつだったか、同じ子供の俺相手にヤーリンに近づくなと、金を渡してきたこともあった。それほど悪い方向にませた悪ガキなのだ。きっと親のそういうところを見て育ったんだろうなぁ、と後になって同情した。


 魂胆は見え見えでも、断るには分が悪い。だってこいつら全員、人間よりも腕力が強いんだもの。


 というか、身体能力で考えれば「人間」はヱデンキアでも下から数えた方が早いくらいに貧弱な種族だ。その変わりに平均として魔法を使うのが上手かったり、手先が器用だったりと他の種族にはない特徴も勿論持っているが。


 とりわけオークのカーデン・ダムはまずい。成人男性でも単純な力比べには恐らく負ける。


 俺は大人しく従った。


 タックスはニヤッと笑みを浮かべるとすぐさま踵を返して教室の方へ帰っていった。


 ◇


 それを見届けると、俺は徐にカーデン・ダムとザルシィに近づいた。腕力でかなわないのなら、頭を使えばいい。それだけのことだ。俺は自分の特技を惜しみなく発揮することにする。


「なあ。この学校の怖い話はもう聞いた?」


「え?」


 大方俺の足止めをしてろと言われただけで、具体的に話をする内容などは考えていないのだ。俺が話を振ると、二人は簡単食い付いてきた。


 俺はネットに散見されるようなありきたりな学校のトイレの怪談を話し始めた。今日び小学生でも欠伸をするような内容だがヱデンキアの子供相手だったら効果は抜群だ。日本の怪談なんて聞きなれていないし、少数とはいえ本当に幽霊が存在している世界だ、真実味が違う。


 語りの中で自然に移動して、二人がトイレを背中に負うような位置まで持って行く。そしてここぞとばかりに二人の後ろを指差して叫んだ。


「うわあああ! うしろっっぉぉ!」


 聞くや否や二人は悲鳴を上げて走って行った。ここまで引っかかってくれると少し嬉しような気分になった。


 俺はすぐに教室へと戻って行った。



 足早に戻ると、ちょうど教室に入って行くタックスの姿が目に入った。


 移動時間と俺が足止めを食っていた時間の辻褄が合わないところを見ると、大方教室の外で躊躇していたのだろう。好きな女子に話しかけるのに緊張すると言うのはよく分かる。中々可愛らしいところもあるじゃないか。尤も、そのくらいで今更許すつもりはないが。


「ヤーリンお待たせ」


「な!?」


「あの二人だったら話が終わったから急いで帰ってたよ。僕らも帰ろうか、ヤーリン」


「そうだね。それじゃあタックス君、またね」


「ああ・・・うん。またね」


 その時、ついムキになってしまい、わざとタックスに見えるようにヤーリンの手を繋いだ。ヤーリンはキョトンとした顔をしていたが、去り際に一瞬だけ見えたタックスの顔は丸めたティッシュペーパーのように皺くちゃになっていた。


 少し大人げなかったか? いやでも、今は同い年なのだから大人げも何もないか。


読んでいただきありがとうございます。


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