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妖怪マニアの転生ギルド生活  作者: 音喜多子平
第三章 個人事務所設立からの生活
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第四十三話

 俺が朧車を追って駆け出すとワドワーレも当然の顔をしてついている。従ってワドワーレを追って暴徒と化した店の客たちがこっちに迫ってくるので、まるで俺が一軍団を率いているかのような構図になってしまった。


 朧車が逃げられるくらい広い公道なのだが、当然人の往来や露天商など多くのエデンキア人が通りにいるため、暴徒たちは次々にそれにぶつかり津波のように全てを飲み込んで進んでくる。流石と思ったのは騒動にいち早く気が付いた俺の前方にいる商人はすぐさま店を畳み、路地へ避難し始めたことだ。通行人たちも同様にすぐに建物の中に避難したばかりか、待ってましたと言わんばかりに窓や屋根から暴走する『ワドルドーベ家』を見物している。


 火事と喧嘩は江戸の華という言葉と同じく、ヱデンキア人は各ギルドのせいで暴動や爆発には耐性があるのだ。その上、ヱデンキア人は多くが魔法を使う為、暴徒の質が比べ物にならないくらいに悪い。


 思うが儘に風を起こしたり、花火を飛ばしたりと好き放題だった。


 ところで、いま進んでいる通りを横切る形で商隊が荷物を運んでいた。荷馬車や商人の服に施されたシンボルを見る限り、あれは十のギルドの一つ、『アネルマ連』の一団だ。朧車はその内の一つの馬車を吹き飛ばしてお構いなしに進んでいく。俺とワドルドーベもその合間を縫って進めたのでぶつかることはなかったが、後ろから迫る暴徒たちにそんな器用な真似ができるとは思えない。


 案の定、道の幅よりも内側にいた『アネルマ連』のギルド員と荷車は悉く吹き飛ばされてしまった。


「とんでもないことになってんぞ!」


 大規模な衝突となったせいで、暴徒たちの流れが少し緩まった。けど、俺まで足を止める訳にはいかない。この通りは長い直線なので見失ってこそいないが、朧車との距離は広がるばかりなのだ。


 その時である。


 俺達に敵意を抱いた二つの視線を感じたのだ。


 一つは背中から。


 そしてもう一つは上からだ。


 二つの視線の主は物凄いスピードでこちらに近づいてくるのがわかった。背筋が寒くなり、俺は思わず振り返ってその視線の主を見定めようとした。だが、その前に俺達の前に巨大な二つの影が立ち塞がった。


「止まれ! 貴様らが暴動の首謀者か!?」

「止まりなさい! 弁償してもらうわよ!」


 そこにいたのは家一軒はあろうかという巨大な狼とドラゴンだった。狼の毛並みは白く、ドラゴンの鱗は黒々としており、図らずもコントラストなっている。月明かりと街の灯の暖色とで両者の身体の色合いが余計に映えて見えた。


が、表情はいかりそのものだ。二匹はお互いが喉を喉を鳴らして、今にも噛みつかんと言わんばかりに鋭い牙を覗かせている。


「あちゃ~。ちょっと面倒くさいのが来ちゃったわね・・・いえ、この場合はラッキーなのかしら」


 ワドワーレは顔見知りのようだった。だが今はこいつらの素性はどうでもいい。


「どいてくれ。今、危険なウィアードを追ってるんだ」

「ウィアードだと?」

「そうだ。それにあの暴徒と俺は関係ない。率いているのはこっちだ」

「! 貴様は『ワドルドーベ家』の・・・」


 やはり顔見知りなのは間違いなさそうだ。しかもこの反応はどう転んでも円満に解決しそうなそれではない。


「丁度良かった。あなたたち、手伝ってよ」

「ふざけるな!」

「そうよ。品物をぐちゃぐちゃにしておいて」


 ワドワーレの飄々とした口調に二匹は怒髪天を衝かんばかりになった。狼に至っては本当に毛が逆立っている。怖い。


 しかしワドワーレは飽くまで態度を変えず、人を舐めたように笑う。そして指を出し二人の視線を不意に集めるとそのまま俺を指差して言った。


「この子、ヲルカ・ヲセットよ?」


 その暴露に二匹は目を丸くして答えた。


「え!?」

「それは本当か?」

「ええ。ホラ市民証」

「あ、いつの間に」


 またしても気付かぬうちにすられた市民証を取り返す。しかし、俺がヲルカ・ヲセットであるという動かぬ証拠を突き付けられたことで二匹は怒りを沈め、半ば放心状態となった。


 俺がヲルカ・ヲセットだと気が付いたからと言ってそれが何だというのか?


「逃げるウィアードを追ってるんだけど、足が早くて追いつかないのよ。当然、助けてくれるわよね? 新しいギルドの仲間なんですもの」

「仲間?」

「そういえば初対面なの? 『ナゴルデム団』のナグワーと『アネルマ連』のアルル。どちらも坊やのギルドのメンバーよ」


 え? ということは、未だ顔も名前も分からなかったメンバーが偶然にもここで揃ったという事か。男がいるとかいないとか以前に人間ですらないのが若干二匹いるんですが、それは・・・。


 だがそれは今考えることじゃない。この二匹が俺に協力してくれる立場だというのなら、その事実だけで十分だ。


「お願います、助けてください。人を殺しかねない程、危険な奴らなんです」


 ドラゴンと狼は一瞬、どうしたらいいのか戸惑った表情を浮かべたが、すぐに獣特有の獲物を狙い定めた時の鋭い眼になり、それと同じくらいに鋭い声を出してきた。


「自分はどうすればいいのですか?」

「とにかく、奴の前に出てください。それができれば、俺が止められる」

「・・・了解」


 言うが早いか、ドラゴンは俺の襟首を咥えると自分の背中に乗せてくれた。鱗を掴むように指示されると、次の瞬間には俺は大空を舞っていたのだった。


読んでいただきありがとうございます。


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