第十八話
伸び悩み
教室へ着くと、卒業セレモニーの前に最後の出欠確認があった。
窓の外から見える景色には、校門をくぐり続々と保護者たちが集まってきている。
「先生。よろしいですか?」
いよいよ、最後のホームルームも終わるかと思ったところで、タックスが立ち上がり皆の視線を集める。
「どうした?」
「ヲルカ・ヲセットの試験の結果、どこのギルドからも勧誘がない件について色々な噂や不満を持っている者が多いのですが、実際のところどうなんですか? 彼の結果はあの発表通りなんでしょう?」
真っすぐに俺のことを指差し、侮蔑的な視線を送ってくる。しかし、先生の返事にすぐに間抜け顔になってしまう。
「ヲセットは勧誘がなかったわけではないぞ」
「え?」
そんな反応をしたのはタックスだけではない。フェリゴを除くクラス全員が、どういう事だかわからないという顔になった。あの掲示板には乗っていなかったのだから、それも仕方ない。
「本人から聞いていないのか? ヲセット、私から話して構わないのか?」
「あー・・・・・・はい」
そう聞かれたらダメとは言えないじゃないですか。言わなかったとしても、後で質問の嵐になるだろうし。
「ヲルカ・ヲセットの試験の結果を見て、ヱデンキアの全てのギルドからの勧誘通知が来ている。十あるギルド全てからの勧誘があると言うのは、この学園始まって以来の快挙だ」
先生がそう言うと、タックスの驚愕をきっかけにクラス中がにわかにざわめきだしてしまった。
「・・・はあ!?」
「ヲルカ、本当なの?」
「うん。まあ、全部断っちゃったけど」
「「はあ!?」」
大声と共にクラスの全員が俺に顔を向ける。なんかの漫画みたいだと思うと、ちょっとおかしかった。
「な、なんで?」
「いや、特に行きたいところがなかったから・・・」
俺の答えに今度は唖然と言ったような表情になる。コロコロと顔が変わるのが、やはり面白い。人間じゃない種族の顔の変化は多岐に渡るので、なおさらだった。
そして先生はクツクツと笑いながら続ける。
「ヲセットがそんな調子だったものだから、異例のギルド会議が開かれた。彼の獲得を巡ってギルド抗争に発展しかねないと判断されたんだろう」
「納得できない。ヲルカの何にそれほどの価値が」
「それは彼のウィアードを撃退した実績が大きく評価されたからだ」
「なんですって?」
「最近になってウィアードという新種の魔物がヱデンキア全土を騒がせているというのは皆も知っているとは思うが・・・」
ウィアードの出現とそれによってもたらされる被害を各ギルドは、俺の予想よりももっと大きく受け止めていたのである。ウィアードにどのように対処するのかは、全ギルドの中で最も重要かつ早急に解決すべき問題だと提起されていた。
そこで数百年ぶりに全てのギルドのギルドマスターがの署名のもとに停戦協定が定められて『ウィアード』専門の対策機関が創設されることになった。これは極めて異例の事だ。ギルド同士が同盟を結ぶと言う事実に、クラスの一同は驚きなど遥かにすっ飛ばした顔になり、言葉まで失っている。
「ヲルカ・ヲセットはその機関の創設メンバーになる」
「なんで教えてくれなかったの?」
「だってヤーリンとか他のみんなの試験の結果は今日にならないと分からないからさ。ひょっとしたら希望のギルドに通らなかった奴もいるかも知れないのに、大きな声でそんなこと言えないよ。ヤーリンだってそうだろ?」
「うん・・・まあね」
それから、しんっと静まり返ってしまった教室に、改めて先生の俺たちに当てた卒業の祝辞と激励とが響く。
「ともかくこの学校の歴代で最も優秀と謳われるような魔導士やギルドの垣根を超えるような機関の創設メンバーに選ばれるような生徒もいたりと、この学期を過ごした君たちは他の生徒に比べればとても刺激的な経験を多くできたと思う。これから先、道は違えど各々努力と研鑽を忘れずに励むことを祈っている」
かくして、俺の二度目の中等部生活は幕を閉じたのであった。
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