第十七話
テレビを見ながら執筆してはいけない
学校へたどり着くと、査定結果が掲載された掲示板の前は黒山の人だかりとなっていた。まあ黒髪じゃない奴がほとんどなんだけど。
教室に行くにはどの道そこの前を通らなければならないで、自然と近づく形になる。遠目にはヤーリンとフェリゴの姿も見えた。他にもクラスメイトも何人かいたのだが、俺の事が目に入ると全員が、挨拶もそこそこに言葉に詰まったり、気まずそうに顔を逸らしてしまった。ところが一人だけ顔を逸らすどころか、わざわざ前に出てきた奴がいる。他ならぬタックスだ。
「ようやく憐れな男のお出ましか」
タックスは一週間前に見た夢よりも更に品の悪い笑みを浮かべては、クククっと堪えた笑いを俺に向けてきた。
その理由はすぐに分かった。
掲示されている結果表には各クラス毎の生徒の氏名が載っており、その隣にはどこのギルドからの勧誘があったのかが記されていた。どの生徒にも最低一つのギルドの名称が書かれており、二つ以上の勧誘のある生徒もチラホラいる。ヤーリンに至っては八つのギルドからの勧誘があったようで、その中に『ヤウェンチカ大学校』と書かれていた事に俺はほっと胸をなで下ろした。
良かった。ヤーリンは自分の希望通りの進路に進めそうだ。
ところが。
俺の名前の隣にはギルドの名前は一つも書かれていなかった。
空白では可哀相だと思ったのか、代わりに「なし」とだけ書かれており、かえって侘しさを醸し出している。
「ヲルカ・・・」
俺が来たことに気が付いたヤーリンは、スルスルと近づいては潤んだ瞳を真っすぐに向けてきた。そう言えば査定以来、妖怪の事にかまけていたので、会うのも一週間ぶりだった。
「こんなのっておかしいよ。あの『ウィアード』を倒したのはヲルカなのに・・・」
「評価は正当にされたんだよ、ヤーリン。こいつの実力を欲するギルドはなかった、それだけのことだ」
「けど・・・」
「なにもそんなに必死にならなくたっていいだろう。またイレブンの魔法学校にでも通いながら研鑽を積んで、次の機会を伺えばいい。まあ、その頃にはキャリアも実力も天と地ほどの差ができているだろうけどね」
ここまで晴れ晴れとしたタックスの顔見たのは初めてかも知れない。大体は鬱屈な皺のよった悔し顔か、怪談の挿絵にできそうな不気味な笑い顔だったので、卒業のいい記念と思っておくことにする。
しかし、そんな暢気な事を考えて俺がうんともすんとも言わずにいるので、タックスだけでなく、ヤーリンも他のクラスメイトもどうしていいか分からない風になった。
「ヲルカ?」
「え? どうしたの?」
「悔しくないの?」
「・・・正直な事を言うと、別に」
「な、なんで?」
「だって元々入りたいギルドはあってなかったようなもんだし、ヤーリンは希望通りに推薦を貰っているし、あの『ウィアード』の騒ぎは収まってるし・・・誰も困ってないじゃん」
ま、実を言うと他にも理由があるんだけど、ここで言う必要もない。無事ヤーリンが希望通りの進路に進めることが分かったから、後でこっそりと教えよう。
「けど・・・」
「負け惜しみにしてはいい言い訳だな、ヲルカ。学年で唯一どこからも勧誘がなかったが、みんなが幸せならそれでいいっていう事か?」
「実際問題そうだしな」
「っく」
タックスは俺がよく知っている、いつも通りの顔に戻った。やっぱりお前はそっちの顔の方がしっくりくるな。
「でも、やっぱり・・・キチンと評価されないのは納得いかないよ。私、抗議してくる」
「ち、ちょっと、ヤーリン」
義憤に燃えるヤーリンは暴走気味に教務員室に向かおうとした。が、すぐさまフェリゴが前に躍りだしてそれを止める。
「待った待った」
「フェリゴ君」
「落ち着きなよ、ヤーリン。ヲルカはきちんと評価されてるからさ」
「は?」
という声を出したのはヤーリンではなく、タックスだ。
タックスはフェリゴの発言を笑い飛ばすと、掲示板を強く指差して罵った。
「おい、フェリゴ。妖精の目にはこの結果発表が見えないのか? どのギルドからも勧誘が来ていないじゃないか」
「それに書いてあるのは飽くまで『ギルドからの勧誘』なんだろ?」
肩を竦めてそれだけ告げると、フェリゴは俺の顔を見て、
「だよな? ヲルカ」
と言った。
本当にどこまで耳が早いんだ、コイツは。俺はその呆れっぷりを苦笑いで返してやった。
「どういう事だ?」
「ま、今日の卒業式終わりにでも分かるよ。さ、遅れる前に行こうぜ」
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