第十一話
著しい体力低下
無事に川沿いに辿り着くことは出来たのだが、少し愕然とした。森から少し離れてしまっているので、遮るものが何一つない。森に身を潜めつつ、川から付かず離れずの位置を保って移動しようかとも思ったが、それは止めておいた。
なぜなら森も危険なのだ。身を隠せると言えば聞こえがいいが、相手にも同じことが言える。その上にエルフ、ドリアード、マタンゴ、アルラウネ、フォレスト・スプライトなど、緑魔法に精通して森を自分の身体の一部のように掌握できる種族だっている。自然が絶滅したヱデンキアにおいても本能は身体に残っているのだ、油断はできない。
身を守る、ということなら白魔法が最も適しているが、生憎俺は青と緑の魔法以外の成績は中の中と言ったところ。戦力として換算するには心もとない。
ならば、自分の得手を最大限に活かせるように動くのが得策のはず。それに時間を稼げばヤーリンの影響で戦況が動くかもしれない。
「この川は確か、頂上の池が水源だったはず」
他の青魔法が得意な奴らとかち合う可能性は増すが、やはり川沿いに水源を目指そう。
そう思った時、対岸から川を飛び越えて淡く光る何かが俺の方へ向かってくるのが分かった。アレは・・・
「よう、ヲルカ」
「フェリゴ・・・」
ヤーリンを除けば俺が一番戦いたくない相手と遭遇してしまった。友情というのもそうだが、悪戯や人をからかうのが上手いフェリゴは戦術が読みにくい。それにコイツはこいつで青と黒の魔法が得意であり、その黒の呪文が厄介だ。
俺は川に向かって手を伸ばし、魔力を込め始めた。しかし、両手を上げて自分に戦意がない事をアピールしてきた。
「待て待て。闘うつもりはないさ」
「じゃあなんで」
「ヤーリンのところに行くんだろ? お前とヤーリンの傍に付かず離れずでいるのが、一番おこぼれにありつけそうだと思ったからさ」
なるほど。ちゃっかりしている。それでも敵対しないのであれば、精神衛生上非常に助かる。
フェリゴと道連れになって気が付いたが、ルール上全員が敵になるとは言え、やはりチームを組もうとするのは自然の流れなのだろう。普段からの仲の良い者同士なら連携も容易いだろうし、サインを破壊できる確率も上がる。
ともすればヤーリンもすでに誰かと組んでいるかも知れない。でもヤーリンには誰かと手を組むメリットがないのか・・・いやでも優しいヤーリンの事だから、仲のいい友達とかは助けようとするかも。もしかしたら俺と組もうと思って探してくれているかも知れない
そんな皮算用に耽っていると、もう一つ肝心な見落としをしていたことを思い知る。左右の森と川は目を光らせて警戒していたのに、遮るもののない上を全く以って忘れていた。
それに気が付いたのは、タックスの取り巻きの一人であるハーピィのザルシィの警笛が鳴り響いたからだった。見れば、上空でザルシィがこちらを指差し、何かを叫んでいる。十中八九、俺達を見つけた事をタックスに知らせているんだろう。
だが、知らせ方がアホ過ぎる。あれでは自分とその仲間の位置を他の生徒にも教えてしまう。案の定、報告に気を取られ過ぎているザルシィに、隣のクラスの天使やドラゴンや、飛べる亜人たちが近づいていくのが見えた。あの分なら、きっと下にいるであろうタックス達も標的にされるはず。せいぜい潰し合ってくれることを願うばかりだ。
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