第十話
一週間目です。ありがとうございます。
やがて全員にサインが配られ、所定の位置に着くと演習場の中に魔法で拡声された声がこだまする。
『SO歴254年度卒業試験、始めっ!』
それを合図に俺はすぐさまヤーリンを探すために動き始めた。
今回の試験のルールを聞いた時から過ぎった作戦がある。それはいち早くヤーリンと合流して、サポートに徹するという事。俺自身はどうなったところで構わないが、ヤーリンには良い点数を残してもらいたい。
魔法の成績はいいし、それ以外にも知識の幅が広かったりするのだが、案外抜けているところもある。思わぬポカをやってサインを壊されることは大いに考えられる。そうなった時、すぐに誰かのサインを破壊して復活することも容易いだろうが、それでも誰かがいた方が安心感も湧く、それが人情と言うものだ。
もしもヤーリンが、俺の協力を拒むなら・・・その時は戦ってみようかな。女の子には負けたくないとか、カッコイイところを見てもらいたいと思うのはやっぱり子供っぽいだろうか。
幸いにも俺とヤーリンの魔法の系統は同じだ。だから効率よく魔法を使うために有利を取れる場所は大よそ見当がつく。緑魔法は木々に覆われているこの演習場の中ならば、一定の魔力を得られる。だから残りの青魔法を使うために水辺近くを陣取るはず。ならば唯一流れている川を沿って行動していれば、ヤーリンと出会う確率が上がるだろう。
けれど今いる位置は川に近いとも遠いとも言えない場所だ。自衛のためにも、真っ先に森を抜けて川沿いに向かおう。
俺がそう計画立てて、足を進めた時。
後方に多数の魔力を感じ取った。その気配は全てふんだんに敵意を孕んでいた。さっと振り返る。するとそこには、最も見たくない顔があったのだった。
「よう、ヲルカ」
「・・・やあ、タックス。みんなも」
タックスとの悪い因縁は結局、今の今まで続いている。試験の内容を思えば、俺を目の敵にして狙ってくる事は予想できたが、如何せん早すぎる。どれだけ俺に執着してんだ、コイツ。
「気安く名前で呼ぶなと言っているだろ」
「ところでみんな、お揃いでどうしちゃったの?」
そう。問題はそこだ。
タックス、カーデン・ダム、ザルシィはいつものこととは言え、30人近くの男子生徒がタックスの後ろに控え、俺に魔法の照準を合わせている。その全員が、ヤーリンに岡惚れして、常日頃から俺に大なり小なりのちょっかいをかけてきている奴らだ。
まさかとは思うけど・・・手を組んでたりしてたりする?
「個々で動くよりも結託して事に望むのは当然の発想だろ。ルールでも徒党を組むことは禁止されていない」
「なるほどね。聡明で友情に厚い作戦だ。できれば、僕も仲間に入れてもらいたいんだけど」
「それは大歓迎だよ。僕らの目的はヤーリンと、それ以上に君なんだから」
そう言うとタックスは如何にも下卑た笑顔を見せつつ、腕を上げて合図をした。
「仲間の為にさっさと消えてくれよ、ヲルカ」
途端に様々な角度から、あらゆる魔法が俺を目掛けて飛んでくる。渾身の力で第一波は防いだものの、連発されたら流石に死ねる。
「ちょっと待ってよ。俺を倒したって1点入るだけだろ、割に合わないって」
「そんなことはない。お前がこのテストに精力的じゃない事は誰の目にも明らかだ。ともすればルールを度外視してヤーリンと手を組む可能性だってある。そうでなくともヤーリンをよく知るお前は予想外の方法でアイツを攻略するかもしれない。僕たちにとってはヤーリンと同じくらい脅威的だ」
図星を突かれるという事よりもタックスに考えを見透かされていたというのが、めちゃくちゃに腹立たしく、悔しく、そして悲しい。
そうして歪んだ俺の顔を見て、タックスは嗜虐的に言い放つ。
「あとは全員、個人的な恨みも少しあるかも知れないな」
「ほとんどそれが理由だろうが」
各個撃破は無理だ、数が違い過ぎる。即座にそう判断した俺はヤーリン直伝の霧の魔法を放つ。けれどもこの術は普段からこいつらのちょっかいを躱すのに使っているせいで、すぐに対処されることだろう。そこで俺は木陰に身を隠すと、今度は滅多に使わない囮の魔法を唱えて自分の分身を顕現させた。
囮を森の中へ走らせると上手い具合に引っかかり、全員がそれを追いかけていった。が、これは俺の苦手な白の魔法も絡んでいる術・・・。今の力量では一分そこら維持するのが限界だ。対抗するにはせめて水辺付近にいないと立ち行かない。
囮が出来るだけ時間を稼いでくれることを信じ、俺は走り出す。
こうなってくると女子生徒はともかくとして、男子生徒のほとんどが敵? いや、ルール上全員が敵なのだが、男子生徒に俺を討つために徒党を組む大義名分を与えてしまっている。
川に着くまでの時間が、俺にはやたらと長いものに感じられていた。
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