表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪マニアの転生ギルド生活  作者: 音喜多子平
プロローグ
1/46

第一話

好きなものを詰め込んでの新連載です。よろしくお願いいたします。


「人間一つくらい取り柄があるもんだ」


 これは俺が中学生の頃に死んだ爺ちゃんの言葉だ。


 その言葉は此の世の真理だと思う。


 問題はその取り柄を、取り柄だと言える環境に恵まれるか否かという事だろう。


 江戸時代の人間にパソコンの才能があったとしても、そいつは役立たずとして一生終えただろうし、反対に今の世の中で剣術の才能があったところでそれで暮らしを成り立てることなどは難しい。


 そして俺の唯一、他の誰にも負けないと自負する取り柄というのは現代社会では到底役に立たない無用の長物だった。


 ◇


 そんな俺こと、清水山秋生(しみずやまあきお)の取り柄というのは『妖怪の知識が豊富』というその一点だけだった。


 俺は妖怪が好きだ。何よりも好きだ。物心がついたころから、俺は妖怪の魅力に取りつかれていた。


 子供の頃は、妖怪が少しでも出てくるような漫画やアニメの情報を仕入れると徹夜してでも全て網羅した。やがてそういった創作物に満足すると、実際の歴史に残っている伝承に興味を持った。


 高校時代は部活も勉強もそっちのけでアルバイトに明け暮れ、まとまった金が入るとその類の文献書類を集めに集めては、ほくそ笑んで読み耽っていた。


 大学では民俗学や神学にアプローチをかけて、学生ローンを組んででも日本各地の伝説の残る地や寺社仏閣に残る文献を見るために旅行に出かけていた。


 気が付けば友達と呼べるような奴は一人もいなく、就職活動も失敗し、それでも懲りずにアルバイトで食いつなぎながらも、古本屋で妖怪文書を買いあさる三十路過ぎの男が出来上がっていたという訳だ。


 世間一般に言わせれば、俺は立派な負け組になるだろう。


 だが、そんな俺には幸運と思えることが二つある。


 一つは当然、妖怪という存在を知り人生のほとんどを自分の心の声が求めるがままに費やすことができた事。


 もう一つは、そんな素晴らしい人生を三十年そこらで終えられるという事だ。


 ・・・。


 ・・・・・・。


 薄れいく意識の中、俺はそんな事を考えている。


 だってそうでも考えないと、流石の俺でも惨めすぎるかなと思えてくるのだ。


 身体に残った衝撃の余韻は俺が交通事故に巻き込まれたことを物言わずに語っている。痛みがないのはきっともう助からないからだろう。


 不思議と死の恐怖はなかった。


 腐っても人生の大半を目に見えない存在のために費やしてきたのだ。魂がどうなるとか、死後の世界があるのかないのかとか。そう・・・これは答え合わせのようなものだ。もしかしたら怨念みたいなものが残って、妖怪になれるかも知れない。


 いよいよ視界がぼやけてきた。頭に酸素が回っていないのが実感できる。


 ・・・。


 ・・・・・・・。


 これは・・・あれだな。


 高校生の時に丸四日間徹夜して古文書を読んだ後に襲われた睡魔に似てる気がする。


 ともすれば、あとは眠ってしまうほかない。


 中有の世界に妖怪は居るのかどうか、そんなことに胸馳せながら。俺の眼は光を失った。

読んでいただきありがとうございます。


感想、レビュー、評価、ブックマークなどして頂けますと嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ