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「さて、まずは無罪放免おめでとう。チビ助」

「……ん。どうも」

それを聞いた従者が真っ青になって剣の柄に手をやった。

「貴様!ここにいるのがどなたか分かっているのか!?」

「知っているから俺はこんな態度を取っているんだよ。

貴族の仕事がどんなものなのかも知らないでお前は従者をやっているのか?」

俺は冷たい目でそいつを見据えた。

「もう我慢できん!卿のご厚意を踏みにじりおって!」

そういうとその従者は剣を抜刀した。

なるほど、ライアンが使っていた剣よりも刃渡りが長いな。

人によってそれぞれのサイズがあるらしい。

そんな適当な思考をしているとウィルテッド卿がその従者をいさめた。

「待てぃ!チビ助、お前は貴族の仕事は何だと思うんだ?」

「正直に答えればお茶会による情報収集や国王への助言。それに国を守るための鍛練。

 口汚く言えば庶民から高い税金を取り立てることと貴族街で贅沢三昧の生活をすること。それに庶民に嫌われること」

俺は両面を言ってみた。

ウィルテッド卿は感心したように目を見開くと顎に手をやって考え込むような仕草をした。

「君は中々賢い子の様だ」

「そう思うか?そう思うなら商人にでも側近にするんだな」

そういうと俺は杖をついて出て行こうとした。

「待て」

ウィルテッド卿が俺の肩を掴んで無理矢理足を止める。

その結果俺は頭からずっこけそうになった。

ウィルテッド卿がしっかりつかんでいなかったら地面に顔がめり込むところだった。

「君、私に仕える気はないか?」

半ば予想通りの質問に俺はため息を吐く。

「無いって遠まわしに言ったつもりなんだが」

「そうか…」

そういうとウィルテッド卿は素直に俺から手を放した。

「それでも君が気が向いたときの為にこれを渡しておこう」

抜剣していた従者に目配せして何かを持ってこさせる。

従者が手に持っていたのは鉄のカードだった。

不思議な紋章が刻まれており、太陽にかざして見ると部分によって陽光が差し込んでくる透かしの技術が入っていた。

だが、いくら見てもこれは鉄のカードだ。

魔法か何かだろうか。

「これは私の紹介状の様なものだ。もし気が向いたらこれを詰所の兵に渡してくれ。すぐに迎えに行くよ」

「そうですか」

俺はそれをポケットに突っ込むと今度こそその場から立ち去った。

これでしばらくの間は図書館で勉強をしていても睨まれることはなかろう。

一応この板は貴族の後ろ盾を示唆することでもある。

正直言うとあまり使いたいものではないが本当にいざというときの為には取っておいた方が良いのかもしれない。

そして、一番気を付けなくてはいけないのがこのカードの意味だ。

これを使えば使う程ウィルテッド卿に抱え込まれるということと同義。

むやみやたらと使った場合それはばっちりと貴族に囲まれることを意味する。

かといってこれを棄てた場合、貴族の名誉を傷つけたとして問答無用で打ち首だ。

その際は裁判すらもないのかもしれない。

「つくづく嫌なカードをもらったもんだ」

「そうか、では返してくれてもいいのだぞ?」

裏道を歩きながらふっとつぶやいた言葉はどうやら誰かに聞かれていたらしい。

振り返るとそこには俺に向けて抜刀したあの従者がいた。

「何か? 卿の護衛はしないのか?」

「いや、必要ない。私は後片付けとしてここに残った」

「あっそ。馬車でも片付けるつもりか?」

「貴様を片付けさせてもらおう」

「へぇ……」

これは素直に計算外だ。

それに貴族の部下である以上必要最低限の武術は叩き込まれていると見た。

とどめは剣。

ただでさえ足の使えない俺は素手でも十分に殺すことのできる相手だ。

にもかかわらず剣を持ってきたということは問答無用で俺を殺す意思を持っている。

さすがに俺も冷や汗をかいた。

どうする。どうすればいい?

ぐるぐると考え、俺は結論に至った。

「《旋風(ホワールウインド)》」

「うおっ!」

従者の周りに竜巻が起こる。

ふむ、習得したての魔法ではこれが限界か。

これでも本気で魔法を発動させたのだがばっちりと効いている様子がまるでない。

「《魔力武装(マギアス・アーマメント)》」

従者は剣をスラリと引き抜くと、俺に向かって剣を振り下ろしてきた。

熟練者の『魔力武装』は相当の脅威だ。

本で読んだだけだがある達人は中級魔術を防ぐほどの魔力武装を展開することが出来るらしい。

あいつがそれだけの実力を持っているのかどうかは分からないが用心に越したことはない。

俺も魔力強化で多少体を強化する。

「……私と戦おうというのか?」

「いや、お前から逃げるんだ」

そういうと俺は中級魔法を唱えた。

「かの大風を今再び吹かせたまえ、《岩石旋風(ホワール・ロック)》」

今度は石つぶての嵐が従者に襲い掛かる。

「クッ!これしきの事で!」

そういうと従者は『魔力武装』の強度をさらに上げた。

魔力の反発で俺の『岩石旋風』は消滅する。

「ふざけるなよ!小僧!」

従者は怒りに眼を見開いた。

「何処見てるんだ?」

俺は素直に疑問に思ったことを口に出してみた。

「なッ!?」

「仮にも従者なら俺の気配くらいで分かれ」

俺は『索敵糸』を応用して従者の上にいた。

「貴様!」

「蜘蛛の女王よ、その力をか弱き人間の為に今役立てん、《拘束糸(ロック・ストリングス)》」

先程まで俺を支えていた糸が今度は従者に向かっていく。

剣で切り捨てているが俺の魔法の方がスピードは速い。

あっという間に『魔力武装』ごと糸は包み込んだ。

上位互換の『解体糸(デスメンタル・ストリングス)』なら殺すこともできるのかもしれないがあいにくそこまでは習得出来てはいない。

ただ、それでもこいつを殺すことは可能だ。

こいつが呪文さえ唱えていなければ。

「切り裂き尽くせ、世界に吹く風よ!《旋風刃(カット・ブレード)》!」

従者が発動したのは風属性魔法の典型、『風刃(ウインド・ブレード)』の上位互換だ。

複数の風を刃の形に置き換え、周囲を切り裂く魔法だ。

俺の『拘束糸』はあっという間に切断された。

こうなった以上俺に残された選択肢はかなり少ない。

どんなに見積もっても3つだろうか。

命乞いをするか、残り少ない魔術で上級魔法を展開するか、逃げるか。

『魔力強化』で多少足を動かせるとはいえ、この従者にかかれば『魔力強化』をするまでもなく追い付かれるだろう。

だからこそトリッキーな作戦で裏をかく必要がある。

「死んでもらおう!」

従者はそういって俺に斬りかかる。

その時、俺にふとアイデアが思い浮かんだ。

まず相手の剣を『魔力強化』で転がって躱すと呪文を唱える。

「母なる大地よ、目覚めの時を迎え今この望みを叶えよ《ミテラ・ギィ、シニディトポリィスティ・アフィンティン・エルピィダ・トーダ・ポ・エイヒィーティ・エクスポニェーセイ》。

大いなる始動(メガイル・アルティ)》」

突如として、地面が盛り上がり急斜面を俺と従者の間に作る。

俺はその傾斜に従うままゴロゴロと地面を転がって従者との距離を離す。

これで俺の魔力はほぼゼロだ。

後一発、低級魔法でも撃とうものなら俺は魔力切れを起こし気絶する。

『魔力強化』はすでに解除し、地面が容赦なく衝撃を与える。

口の中に血の味がするがもはや贅沢は言ってられない。

ゴロゴロと勢いのままに転がり続け、塀にぶつかって止まる。

まずい、追い詰められた。

従者は既に残った一方をふさいでいる。

従者は剣を手にこちらを見下ろしている。

「……合格だ、ケイ・エルージュ」

不意にそんな声が俺に降りかかる。

「自己紹介をさせてもらおう。私の名はルーク・アルベルト。リフォティス・ウィルテッド卿の従者を試す審査官だ」

そういうと従者、いやルークは俺を助け起こした。

「私が調査したのは、お前の知力、魔法の技術、それらの機転の利かせ方だ。お前はそれをクリアした。おめでとう」

……パスしたのだが嬉しくないのはなぜだろうか?

「ちなみに不合格だったら?」

「私が自らの手で始末するまでだ」

ルークは迷いなく答えた。

そこには槍で貫かれようと卿に仕えようとする意志が感じられる。

「既に『索敵糸』の応用でほぼほぼ及第点には達していた。さらに『大いなる始動』をあんなことに使うとは私でも予想外だ。脱帽するよ」

ルークは俺の上体を塀に立てかけるとしゃがみ込んで話し始めた。

「……そいつはどうも」

「そう謙遜するな。既に私は君に敵意を抱いていないのだから。正直な話をすると君の優秀さは私が部下に欲しいくらいだ」

「それはやめた方が良い。」

ルークの提案につながりそうな言葉に俺はすかさず待ったをかけた。

「ほう、何故?」

「あんたの沽券に関わる」

「大丈夫だ、既に卿が先に目を付けているからな」

……何が大丈夫なのかはこの際突っ込まないでおこう。

「で、合格したらしいがこれから俺はどうなるんだ?」

「今から仕えてもらう訳では無い。貴族の従者には仕えるためのテストがあってな。15歳からだ」

「15歳まで生き延びて初めて合格という訳か」

「物分かりがよくて助かる。それまではそのカードが多少は保証してくれるだろう。無論、卿に仕えないのならそれでも構わんが……」

「分かってるよ、俺も不慮の事故には会いたくない」

それを聞くとルークは満足したのか、頷きを一つ返すと立ち上がった。

「15歳に再びお前に会える事を私も卿も期待しているぞ。」

そういうと鋭く口笛を吹く。

しばらくすると何処からともなく馬が現れた。

ルークはそれにまたがるとあっという間に姿を消した。

……このカードをもらってあいつに従者に誘われた時点ですでに俺は囲まれていたってことか。

完全に一本取られた。

「……クソっ」

陽が沈み始めた空を見上げて俺は吐き捨てる。

本当にいろんなことがあった一日だった。

しばらくは何もない日が続くといいのだが……

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