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裁かれる

「君が孤児院の殺人鬼、ケイ・エルージュだね?」

俺は詰所の牢に繋がれていた。

どうやら3年前のライアンの事件は俺の所為になっているらしい。

ご丁寧に殺人鬼呼ばわりだ。

否定しようにもこの様子だともはや断定されている様だ。

どうやら、図書館の不審者ではなく、孤児院の殺人鬼として前々からマークされていたらしい。

状況を打破しようにも洗脳魔法は身に付けてはいない。

このまま無実になるのはほぼ不可能な話だ。

懲役期間はどのくらいになるのだろうか……

目の前にいるのは先程の憲兵とは違い明らかな騎士。

話によると国お抱えの傭兵らしい。

厄介な奴に捕まったもんだ。

傭兵の割には物静かで物柔らかだがその目の奥に潜んでいるようなマグマの様に沸々と煮立っている闘志だ。

直感した、こいつは殺すと決めた相手は確実に始末する。

必要に、時に必要以上に。

更には執拗に殺すことが出来るタイプだ。

「さて、君は審問所から拾いの親であるカリダッド神父を含め12人の神父、および1人の孤児ライアン君を殺害した疑惑を持たれている」

「そうですか」

「何か異論は?」

「……言っても認めないだろう?」

「良くお分かりで」

「どうせならもう少し短い人生を堪能したかったもんだが」

「……達観していますね。」

「悪いか?せめてもの苦し紛れだ」

「君には悪魔が取り憑いているのですか?」

「悪魔が取り憑いているのなら今頃は貴族街で豪華絢爛の生活を送っていたんじゃないか?」

「……。」

傭兵は若干顔を引きつらせた。

「……ほかに質問は?」

「いえ、このまま裁判まであなたは待機することになります」

「どうぞご勝手に」

俺はそういうと杖を手に取ってベッドのところまで戻るとごろりと横になった。

ふと頭を傾けるとそこにはまださっきの傭兵がたたずんでいた。

「何してるんだ?仕事は早くした方が良いぞ」

傭兵ははっとした表情をすると足早に牢の前から立ち去った。

……ここには魔法を封じる術式が仕掛けられているらしい。

どうにもうまく魔力を練り上げて発動させることが出来ない。

俺は何をするでもなく数日間を牢の中で生活することになった。

別に悪い暮らしではない。

飯は1日3食ちゃんともらえるし牢内は陰湿だが不潔という程でもない。

程よく手入れされている。

そういえば授業で少子高齢化が進むと刑務所が介護施設になるって言ってたな。

どうせならそんな気分で世話になるのも悪くはないのかもしれない。

こうしてさらに数日後、俺は裁判に出頭することになった。

『魔術封印』が施された手枷を付け、脇から2人の衛兵が持ち上げる感じで俺は裁判席に出頭した。

裁判室に来ると俺は特別措置として椅子に座らされた。

周りには傍聴者もいて、裁判ドラマさながらに検事と弁護士らしき男が向かい合って座っていた。

「これより、マチルダ教会殺人事件の裁判を開始する」

何かの悪い冗談のような決まり文句を裁判長が宣言すると検事が立ち上がった。

「被告はマチルダ協会の書斎で13人もの人々を殺したのです。あろうことが拾ってもらったカリダッド神父にもその魔手は及びました。

 弁明の余地はありません。両腕を切断する刑を求刑します」

おいおい、もし有罪になったら俺は四肢が一切使えなくなるんかい。

えげつない……

「異議あり!」

ゲームに影響受けすぎだな。

弁護人が立ち上がった。

「見つかった傷は主に切り傷です。しかし、彼が部屋にそういった刃物を置いていた形跡はありません。しかもケイ君は足が動かない。それに切り傷は被害者の体の上部に集中しています。

 こんな子が刃物で切りつけたにしては斬りつけられた場所が高すぎます」

というかそもそもあれだな。

こんな孤児一人の為に裁判を起こしてくれること自体がかなり異例だと思うんだが……

後で知ったが最初の裁判に限っては国が負担する権利があるらしい。

ただし罰金の類は被告人が払うとか。

非常にありがた迷惑な話だ。

こうして不毛な論争はしばらく続いた。

その時だ。

裁判所に鐘の音が響き渡った。

「この音は……ウィルテッド卿だ!」

にわかに裁判所がざわつく。

これも後で聞いた話になるがウィルテッド卿というのはこの国の上級貴族らしい。

どうも俺の人生というのは偶然によって動いているような気がしてならない。

傍聴席の扉が大きく開け放たれそこに騎士の様な姿をした大男が入ってきた。

「ウィルテッド卿……」

裁判所中の人間が一斉に跪こうとするのを大男は片手で押しとどめた。

「そこのチビ助が今回の裁判の被告か?」

「はい何しろ13人の人間を殺した殺人鬼です」

「ふむ」

そういうとウィルテッド卿は俺を見下ろした。

「貴様は殺人鬼なのか?」

「……。」

ウィルテッド卿の質問を俺は沈黙で返した。

「なぜ答えない?」

「……囚人と貴族、どっちの方が偉いのかも知らないのか?」

なんとなく、というか露骨に嫌味を混じらせて言葉を返した。

あぁ終わったな。

斬首刑待ったなしだ。

しかし、その男の反応は違った。

「……っがはははは!まったくその通りだなチビ助! 失礼失礼、私も失念していたよ!」

……なんだこいつ。

「ふむ、では基礎の基礎を教えてくれた大切な師の為に真実という物を覗いてみようではないか」

そういうとウィルテッド卿は懐から水晶を取り出した。

「汝の辿った真実の足跡をここに示さん」

そういうと男は俺の額に水晶を押し当てた。

その瞬間、頭が割れる様な痛みと共に水晶が光り出した。

ぐわんぐわんと頭の中が共振を起こし視点が定まらない。

しかし、そんなぼんやりとした目でも会場に映し出された証拠が確固たるものとして決定された事は分かった。

『「んじゃ、死ねや。」、「《魔力強化》!」』

臨場感たっぷりに現場の様子が再生されている。

しばらくすると映像にはノイズが入り、水晶が砕け散った。

パリンッ!

儚い音が裁判所の中に響き渡る。

「さて、こいつの判決は決まったな」

水を打ったように静かだった裁判所にウィルテッド卿の声が波紋を呼び起こした。

「…はっ!判決ッ!無罪!正当防衛が認められました!」

裁判長が判決を出すとウィルテッド卿は俺の首根っこを掴んで裁判所の外に引きずり出した。

「さて、まずは無罪放免おめでとう。チビ助」

そういうとウィルテッド卿は人懐っこい笑みを俺に向けた。

どうも厄介な奴に目を付けれられたらしいな。

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