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逃げる

あれから3年。

月日が経つのは本当に早い。

初めて人を殺してからももう3年になる。

俺はまだまだ一桁の8歳だ。

現在の俺の日課はもっぱら図書館に費やされている。

8年にもなって知らないことが多い世界において知識を詰め込むことはいまだにリマインダーリストの上位を占めていた。

とにかく、ノートと筆記用具を手に魔法や魔法の詠唱をひたすらに勉強する。

教会から逃げ出してきた以上俺の手持ちは残念ながらすっからかんだ。

物乞いに盗み、時には騙し取ったりしてノートやインク費は賄っている。

幸いなことに印刷業が発展しているためか紙やインクは眼が飛び出すような値段ではなかった。

羊皮紙に限っては物によって普通の紙より少し高い程度だ。

こうして俺は解読できる範囲で魔法に関する知識を吸収していった。

調べてみて分かったことはいくつかある。

まず、魔法の種類だ。

これは多種多様にある。

主なものは「(ファイア)」「(アクア)」「(ウィンド)」「(ストーン)」「(ライト)」「(ダーク)」「無」の7種類だ。

他にも組み合わせを使った「毒」や「腐」などもあるらしい。

現在使えるのは「無」「(ファイア)」「(アクア)」「(ウインド)」「(ストーン)」の5属性。

これは俺が幼児であることを差し引いてもこれはかなり異常なことだ。

属性は練習すればいくらでも習得することが出来る。

しかし、この歳頃ではどんな貴族でも2~3属性がせいぜいだという。

そしてそんな怪しい子供が日々貪る様に書物を読んでいれば当然怪しがった憲兵が押し寄せてくる。

ましてや俺は足が動かないのだ。

捕まったら何がどうなるか分かった物じゃない。

あらかじめ図書館の入り口に設置しておいた無属性の「索敵糸」で憲兵の人数を把握する。

これは非常に便利な代物でたとえ解除されたとしてもそこに侵入者が来たことを知らせるという単純ながらに厄介な魔法だ。

さて、今回来たのは5人。

軽武装の下っ端だろう。

それを知ると俺は同じ無属性の『魔力強化』で一時的に足を動かせるようにすると走って逃走を開始する。

目指すのは本棚の奥。

そこに簡易魔法陣を書いて罠を張る。

多少骨のある魔術師であればこのくらいは簡単に解いてしまうだろう。

だが目的はあくまで俺の逃走だ。

1秒でも長く時間を稼ぐのがこの魔法陣の仕事になる。

「流れる水よ、輝く光よ、我が体を浄化し給え。《浄化(プリフィケイション)》」

中級呪文を唱えて体に水を纏わせると俺は地面を滑り出した。

本来は光属性が必要なのだがこの際は光は必要ではない。

体の周りを回転するように動く水を制御しているのが光属性。

つまり、水の回転を制御しないのであれば一種の移動の様なものが可能になるわけだ。

もちろんデメリットは大きい。

効率的に制御できる光属性の代わりに自分の直の魔力がそれの代わりを果たし、結果ごっそり魔力が減る。

だが図書館の出入り口まで滑るにはもってこいだ。

俺は地面を寝っ転がったまま図書館の出入り口に滑り出した。

「あそこにいたぞ!」

「チッ!もう見つかったか!」

俺は舌打ちを吐くと体内の魔力を強引に押し出した。

ちなみに今やっているように魔力を操る魔法『魔力操作』は『魔力強化』とは別の枝分かれになる『魔力感知』の上位互換だ。

ちなみに『魔力感知』は『魔力感化』の上位互換だ。

ぐっとスピードが上がるのと同時に体内の疲労感がどっと押し寄せてきた。

だがここで下っ端如きに捕まるわけにはいかない。

くらくらする頭を必死に起こしながら俺は入り口に向かって滑り続けた。

「待てッ!」

「誰が待つか!」

俺はそんな捨て台詞を吐くと図書館の外に飛び出した。

そのまま『魔力強化』を展開して再び走り出す。

感覚のない足が違和感を伝えてくるがこの際無視だ。

「《上昇気流(アップドラフト)》!」

三方を囲まれたところまでくると俺は風属性の魔法を唱えて塀を乗り越えた。

そのまま逃げる様な事はせず飛び上がった塀の後ろでジッと息を潜める。

「おい!何処に行ったんだ!?」

「探せ!まだ近くにいる筈だ!」

憲兵たちはしばらくあちこちを探し回っていたがやがて別の場所へ走っていく音が聞こえた。

「とりあえず一安心ってところか。馬鹿な奴らだ。こんな低い塀で一般区とスラムを分けた気になっていやがる。」

俺が飛び越えたのはスラム街だ。

普通の憲兵はここを嫌がって探すような真似はしない。

これが我が逃走経路。

上手く決まったようだ。

俺は用心してもうしばらくの間そこでジッとしていたがやはり憲兵の足音が聞こえる様子はなかった。

奴らの足音は分かりやすい。

なにせプライドだけが高く、騎士よろしく鉄靴を履いている。

冒険者の様に革のブーツを履いていれば多少は俺を捕まえる可能性も増えただろうに。

「完全に撒いたな。」

「そうかな?」

は?

次の瞬間、俺は誰かを視認する間もなく昏倒させられた。

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