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殺す

「《アクア》!」

俺とライアンの戦いはしばらく続いた。

ライアンは魔法は使えないらしく剣の攻撃をし続けた。

対する俺は剣を振ることは出来ないので、魔法で何とかするしかない。

魔法を使って攻撃しライアンが攻撃してきたところを『魔力武装』で守る。

鍛えてあるとはいえやはり歳の所為かライアンの攻撃はそこまで多くは通らなかった。

(戦い方次第では行ける……!)

既にこの戦いで俺は5つの魔法を使えることが分かった。

『魔力強化』、『ファイア』、『アクア』、『ストーン』、『ウインド』の5つだ。

手数ではこちらの方が圧倒出来ている。

ただ向こうも人間だ。

学習という物がある。

徐々に俺の攻撃は見切られるようになってきた。

なのでこちらもなるべく不規則に魔法を使うようにしている。

「うらぁ!」

ライアンが剣を振りかざす。

あれは突撃か。

俺は『魔力強化』を展開して簡単に攻撃を防いだ。

正直どうして『魔力感化』すら出来ていない俺がここまでのことが出来るのかは謎だ。

まぁ、強いて言えばこの世界のどこかにいる『神』という存在だろうか。

異世界で魔法まであるんだからどこかしらにいる可能性は高いだろう。

ライアンの攻撃を受け切るとゴロゴロと回転しながら部屋を移動する。

立って戦うことが出来ない以上それくらいしか俺には移動方法が浮かばなかった。

おかげで服が血塗れだ。

ライアンは肩で息をしながらこちらを睨みつける。

「くそっ……俺は……転生者だぞ……」

「転生しようと人間だ。所詮できることには限りがある」

「うぉぉぉぉぉぉ!」

何度目かの攻撃をライアンは仕掛けてきた。

「《ファイア》」

俺は一直線に向かってくるライアンに向かって炎の球を発射した。

「ギャァァァァァ!」

ライアンはよけもせずそれを喰らう。

……馬鹿なのか?

火だるまになりながらもライアンはこちらに近づいてきた。

その執念だけは認めてもいい。

「舐めるな……俺を……舐めるなぁ!!」

ライアンは吠えると剣をこちらに向けて振り下ろしてきた。

ライオスの剣を炎が包んだ

「ッ!」

ここにきて魔法攻撃ッ!?

予想外の攻撃に俺は少なからず驚いていた。

足の不自由な俺では動くことはできない!

「っあああああああ!」

俺は思わず悲鳴を上げた。

「させるかぁ!」

死を覚悟した俺の前に飛び出した影があった。

斬。

あっけない音を立ててその影は地面に倒れた。

「――カリダッド神父?」

俺の命を救ってくれたのはカリダッド神父だった。

「ケイ……頼む……教会を……守ってくれ……」

そういうとカリダッド神父はその場に倒れ伏した。

「何だよ……かっこいい役持っていきやがって……」

俺は思わずつぶやく。

その時、振り抜いた構えからライアンが元に戻った。

「なんだ。お前も悪運が強いな、ケイ」

そういうとライアンは再び剣を構えた。

その刀身からは再び炎が上がっていた。

……まったく、俺はこんなキャラじゃないが2度も命を救ってもらった人の頼みだ。

その頼みを受けるのもやぶさかじゃない。

「……許さない、カリダッド神父の為に復讐して、下剋上してやる」

そういうと俺は両手をライアンに向けた。

「其の身を滅ぼせ永遠に、体は動きを止めただ静寂の時が流れる《カタスティレパステ・テュ・ギア・パンタ・オ・テュロノス・ティス・シィオピス・ポウ・スタマタエイ・ティ・ロイ・トウ・ソマトス》……」

俺の口からは聞いたことも無い言葉が紡がれていった。

聞いた事は無いけど意味は分かる。

これは魔法の詠唱だ。

それも詠唱付きの魔法は上級魔法。

分類次第では魔術にも分類されてしまうようなものだ。

「《精密な雪(アクリヴィ・ショーニ)》」

ライアンの足元に雪の結晶の様な魔法陣が展開された。

「うおお!?何だこれッ!?」

ライアンは突然動けなくなったことに相当驚いている様だ。

「お前を氷漬けにする。短い異世界人生で何を得られたのかよく考えるんだな」

俺はライアンに言い放つ。

しかしその声が彼に聞こえることはない。

だってすでに氷漬けになっていたから。

ぱっと見は分からない。

ただよく見てみるとこれ以上ないくらいに薄い氷がライアンに張っているのが分かった。

恐らく冷凍マグロみたくなっているんだろう。

その表情はただただ恐怖と憎悪に満ち満ちていた。

「――最悪だ」

一言で斬り捨てる。

異世界に来た以上何かしら命のやり取りをする可能性は考えていた。

だがいきなり同じ転生者、それもこんな卑怯な勝ち方をした。

気分がいいとはとてもじゃないが言い難い。

むしろさっき吐き捨てた「最悪」という言葉がふさわしい。

前世なら完全に犯罪者だ。

正当防衛が認められるのかどうか分からないが。

その時、身じろぎする影に俺は気を取られた。

「カリダッド神父!」

俺は這って近づき何とか体を仰向けにすると頭を横にし、気道を確保した。

「だいじょうぶ……」

そこまで言って俺は気が付いた。

大丈夫なわけないじゃないか。

「ケイ……あなたは……人を……」

「……ごめんなさい。貴方の様に咎人を許す心を俺は持てませんでした」

俺は素直に謝罪した。

カリダッド神父は笑って俺を見つめた。

「いえ……誰だって普通はそうなんです……私だって……人に殺意を覚えたことは1度ではありません」

「カリダッド神父……」

「ファザーと……呼んでくれませんか?」

唐突に、カリダッド神父はそんなことを言ってきた。

「いつまでも他人行儀では……家族に申し訳ないでしょう……もっと頼ってもいいんですよ……家族、ですから……」

不意に目頭が熱くなった。

「……父さん」

ファザーなんて気取ったい方は俺には出来ない。

だから父さん。

その人はそれを聞いて微笑んだ。

そして目を閉じると一言こういった。

「いざ主の下へ行かん」

それっきり父さんが目を覚ますことはなかった。

俺の目からは涙が絶えずこぼれ続けた。

「うっ……ぐぅ……!」

嗚咽を漏らしながら自らの父の顔を眺める。

ひとしきり泣いたところで俺は無理矢理涙を止めた。

手を腹の上で組むと近くに転がっていた杖を引き寄せる。

その杖を使って立ち上がると俺は教会の外の扉を目指して歩き出した。

さようなら父さん。

そしてこんにちは世界。

許さない、復讐して下剋上してやる……

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