度胸
作戦決行日の夜、俺達は例の奴隷市場を包囲していた。
周りには魔法を主力としたウィザード小隊と遠距離武器を主力としたアーチャー中隊、前線は武力特化のアサルト中隊と救出隊のレスキュー小隊が異様なマスクを被って構えている。
オペレーターの俺は足が動かないことも相まって屋根の上で監視している。
『こちらケイ、準備はいいか?』
『問題ない、さっさと片付けよう』
俺は手で合図を出す。
「かかれ!」
屋敷の中に煙幕が投げ込まれた。
殺傷用の爆弾を放り投げてもよかったが今回は救助対象がいるため見送りとなった。
煙幕が扉から噴き出すと同時に冒険者たちは洗練された動きで突入した。
『ウィザード、結界を展開せよ。アーチャー、慈悲はいらん。即死毒を許可する』
現場の指揮官であるルドルフの的確な指示が魔法石から聞こえる。
「ルドルフ、東館の警備が手薄になっているが大丈夫か?」
『心配は無用だ。意図的に開けてある』
「了解した」
しばらく待っていると中から奴隷を連れたレスキューが出てきた。
『アサルト、状況を報告せよ。』
『こちらアサルト。現在店頭に展示されていた7人の奴隷を解放。奥にまだいると思われる』
『了解した。レスキュー、そっちはどうだ?』
『異常なし。だが奴隷たちはひどく衰弱している。中には解放しただけで動けない者もいる。増援を求む』
『分かった。オペレーターに報告しよう。オペレーター?』
「了解。周囲にいるA+に増援を求む」
俺は通信を受け取るとリストを探る。
「こちらケイ。聞こえてるか?」
『こちらハワード。何か用か?』
「A+の仕事だ。フローレンス奴隷市場は分かるか?」
『あぁ』
「現在任務中だが人手が足りん。レスキューとして参加してくれ」
『了解、近くのもんにも言っとくよ』
ぷつりと通信が途切れる。
A+の愛想の悪さはいつもの事だ。
さっきの例はむしろ友好的とまで言えるだろう。
現場の様子を確認していると5人ほどのメンバーが現れた。
恐らく先ほど通信をかけたハワード達だろう。
こちらにちらりと目をやるとそのあとは俺には目もくれずマスクをかぶり、建物の中に突入した。
「ルドルフ、5人をレスキューとして送った。そちらの調子はどうだ?」
『増援感謝する。今彼らと合流した。順調に進みそうだ』
「それは良かった。健闘を祈る」
順調に救助が進む中俺は違和感を見つけた。
煙が充満する建物の中からバンダナを被った男がよろめきながら出てきた。
あれが敵か。
魔法石越しに命令を下す。
「ミラー、お前が絞めろ」
『了解』
ストッと額に矢が撃ち込まれ男は絶命する。
「…あっけないもんだな」
俺は呟いた。
「ルドルフ、アーチャーをサーチャー分隊にして辺りを警戒した方がいいのでは?」
『…5分の1か』
「俺の指揮統制に問題があるようならお前が指示してくれ」
『いや、問題はないだろう。アーチャー、細分化しろ』
入り口に矢を向けていたアーチャーが屋根から撤退した。
俺自身も『索敵糸』を使って辺りの警戒を行う。
「ウィザード、アーチャーが少ない今お前たちが頼りだ。結界を張りつつ中から出てきた敵を始末しろ」
引き続き館を監視する。
奴隷たちは続々と運び出されている。
レスキュー達は対象を運び出しては再び突撃する。
連れ出された奴隷を回復しているのはウィザードだ。
「想定より数が多そうだ…」
最大で200人を想定して計画を練っていたがレスキューの様子からするとまだ中には人がいるようだった。
「レスキュー、想定で何人ほど奴隷はいる?」
『ざっと見たところ300は居そうだ。だがアサルトとの交戦に巻き込まれて30は死んでいる』
「では保護できそうな奴隷は合わせて何人いる?」
『推定230』
「ざっくり一個中隊…後で依頼主にはもう少し賃金を上げるように言っておくか」
考え事をしている間にも少しずつ保護されている奴隷は増えていく。
ざっくりと120人ほどか。
俺は魔法石に魔力を通すと近くにいたA+を呼びつけた。
しばらくして10人ほどのA+冒険者が現場に姿を現す。
「ここにいる奴隷を冒険者ギルドまで保護しろ」
『了解』
冒険者たちは頷くと動けなさそうな奴隷を担ぎ上げ、ギルドに案内を始めた。
やがて市場から火の手が上がり始めた。
「ルドルフ、発火の原因は?」
『証拠隠滅の為だろうな』
「なるほどな。ウィザード、消火しろ」
『不可能だ』
「なんだと?」
『初級魔術の『崩壊の炎』だ。並みの水属性魔法では太刀打ちできないだろう。ルドルフ、そこから撤退すべきだ』
「ルドルフ、そこにいる奴隷の場所と数は?」
『場所は南館で奴隷の数は5人だ。だがアサルトは撤退している。今いるのは3人』
「分かった。3人を連れて脱出しろ」
『残った2人はどうするつもりだ?』
「伊達に足が不自由な訳じゃない」
俺は『魔力武装』を展開すると館の中に突っ込んだ。
『魔力強化』の上位互換なのでいつも以上に常時魔力を消費するがより激しい運動が可能になる。
館は既に火が回っていた。
黒い炎が俺に纏わりつく。
「邪魔だ! 《浄化》!」
一時的に炎を浄化して無効化する。
それでも一瞬だ。
その一瞬後にはすぐに火の海に包まれる。
こいつが魔術に分類されているのは『浄化』系統の魔法、魔術を使わないといけないにも関わらず中々消えないことにある。
「《加速》」
炎が戻ってくるまでの一瞬。
俺は何とか戻ってくる前に地面を蹴って加速した。
姿勢を低く保って南館の扉を突き破る。
通路には2人の獣人が倒れていた。
恐らく姉弟だろうか。
2人ともぼろぼろの服を纏っているが手首には不思議なブレスレットを付けている。
「奴隷なのにこんな物を…?」
考えるのは後だ。
俺は強化された体で2人の体を担ぎ上げると近くの壁を蹴り飛ばした。
開いた穴に向かって『加速』で走り脱出する。
外に出ると同時に魔力が底を尽き俺は前のめりに倒れ込んだ。
誰かが駆け寄ってくる音が聞こえる。
「おい…丈夫か…」
「…識は…誰か…復を…」
そんな声がぷつぷつと聞こえてくる中、俺は誰かにガシッと肩を掴まれた。
「小僧、やるじゃないか。口先だけじゃなくて安心したぜ」
ルドルフが俺に笑いかけた。
俺達は周囲に気付かれないようひっそりとギルドに撤収した。




