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戦略

ギルド内にある自室に戻ると近くにあった壁を力任せに殴りつけた。

「……クソったれ」

書類はもらえたがあいつの態度は気に食わないことこの上ない。

平静を保とうと休憩スペースに足を向け、そこにあった紅茶パックで紅茶を淹れた。

部屋の壁に車椅子を寄せると紅茶を流し込む。

あいつはあわよくば俺を殺そうとして来ていた。

正当防衛で逆に殺してやってもよかったが、元々が公務員とSランク冒険者。

立場で言えば客と店員。

実力でさえ、俺は敵わないだろう。

つまるところ俺は完全にあいつに踊らされたことになる。

書類だってそうだ。

もぎ取ったはいいが考え方によっては自分から貴族の囲いに足を踏み入れたという考え方もできる。

つまるところ浅からぬ貴族の縁を作ったことで俺は将来確実に貴族に使い潰される可能性もある。

真綿で首を絞められたような気分だ。

まるでいい気がしない。

返せるのならこの書類を返して来ればよかった。

そうすれば多少マシだったのかもしれない。

「はぁ……」

ため息を吐くとギルドに持ち込まれた依頼書の束を手に取った。

とりあえず今はこの書類を片付けるのが先決だ。

俺は紅茶を片手に書類の分類を始めた。

「――ん?」

突如現れた依頼書に俺は思わず目を細めた。

改めて目を通して内容を確認する。

「これは…いい褒賞が得られそうだな」

カップに残っていた紅茶を飲み干すと俺は依頼書の計画を練り始めた。

 次の日、ちょうど来ていたマスターのマルクを呼び止める。

「マスター、少しよろしいですか?」

「何だね?」

「A+を動かしたいのでリストを見せていただけませんか?」

それを聞いたマルクは表情を変えずにただ「ついて来たまえ」とだけ言ってギルドマスターの部屋に俺を案内した。

執務机に腰かけると俺を見据える。

「さて、依頼内容は何だったんだい?」

「とある奴隷商施設の殲滅です。条件は施設にいる奴隷商に従事する者全てを殺すことと奴隷を開放し冒険者にしろと」

それを聞いたマルクは難しそうな顔をして顎に手を当てた。

「前者はいいとして後者の方は…」

「その話ですが冒険者登録料金だけで150人程冒険者になれそうな金額を投資すると。ギルドの口座を確認したところ最低装備を購入しても200人分の冒険者登録料が振り込まれていました」

それを聞いてマルクはますます渋い顔をする。

「…何か問題でも?」

「出来るのならA+はあまり使いたくないのだよ」

「そうですか。では私が指示を出しても?」

「好きにしたまえ」

「承りました」

俺はリストを受け取るとマルクの部屋から退出し、休憩室に戻った。

丁度いい伝手が出来そうだ。

紅茶を啜りながら俺は資料と睨めっこを開始した。

依頼主は…なるほど、随分と国王に近い大貴族様だ。

どうやら派閥がらみと見た。

であれば、どうしたものか。

双方のメンツを保つやり方…

考える。

刑事ドラマよろしく包囲してもいいが、貴族から甘い汁を啜っている連中が易々投降するとは思えない。

包囲…包囲する必要はあるのか?

確か戦国時代の黒田官兵衛は三方を囲むことであえて敵が逃げやすいようにしていたが…

だが、それを敵がかぎつけて逆に包囲殲滅される可能性もある。

「……だったら慈悲はないか」

A+は本来表向きには存在しないランクだ。

そこにいる連中は基本的にSランクになることを拒否したか、政治的な意図で排除されたが囲っておいた方がうまいやり方と判断された危険分子だ。

肝に限ってはそこら辺の冒険者よりかあるだろう。

「となると、ルドルフに相談する必要がありそうだな」

ルドルフとはA+のリーダーだ。

普段はギャングのスパイをしているが本業はA+だ。

俺は魔石を取るために車いすのストッパーを解除した。

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