29 家に帰宅。
29話
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
いつから止まっていたのだろう。トラックの中に外の音、生活音が聞こえきた。何もなかったように。
俺はケイロンに抱えられて、アイルサは背中とお尻をヒモで固定され、おんぶして貰い、俺たちは自分の家まで帰ってきた。俺の扱いが雑じゃないかな?一応いい所の次男なんですけど?
アイルサや俺を下ろしたケイロンが我が家の扉を開けてくれる。
「俺の扱い雑じゃない?」
「雑に扱っても、ある程度は大丈夫なように鍛えてるから問題ない。」
「そういう問題?」
「シーリィタ様って呼んで、着替や風呂、食事、トイレ、などなど、何かする度に使用人に手伝ってもらって、声かけてもらって、常に人に世話される生活がいいか?移動の際はどんな乗り物であろうと抱っこして、しっかり固定してやるから安心しろ。」
俺をからかっていっているが、ケイロンならやりそうだ。
「やめて下さい。今の生活がいいです。そんな生活したくないです。」
そんな生活はしてみたいが…毎日は絶対に無理だな。1人の時間とか欲しい。
「分かれば宜しい。…シー坊の場合はツンディナ様がそんな生活を許さないが、他はそんな生活も当たり前にする貴族もいる。」
「マジかよ…。ウチはそうならなくてよかった。アイルサの所はどんな生活だったの?」
アイルサに何も考えず話題を振ってみる。
「私は自分でやる様に言われてました。ある程度は家族が手伝ってくれましたが、食事の手伝いから始まり、仕事の手伝いなどもやりました。それに合わせて貴族としての勉強もして、夜になれば疲れて眠る。貴族としては当たり前の訓練ですよね?」
「マジか…。ごめん。貴族なめてた。俺ってかなり甘えて生活してたのか。」
普通のことですよね?って感じで言ってくるアイルサに俺はやってしまったと思った。髪の毛の色のせいで一族から冷たい対応を取られているらしいアイルサだ。きっとその生活リズムも普通ではないと聞いてから思い当たってしまった。
「おい、おい。俺は一応シー坊の教育係なんだぞ?…普通はそこまでしない。鍛錬や勉強はするが、料理や仕事の手伝いなんて、それこそ使用人や料理人がする。シー坊の訓練だって、その歳にしたらハードなんだぞ?アイルサの所は厳しすぎだ。」
ケイロンが言ったことで確信に変わる。あーやらかした。
「そうかもしれません。ですが、そうしないと私は一族にすぐにでも捨てられる様な立場でした。家族はそんなことない…と言ってくれましたが、一族や家族に迷惑をかけられません。生活を死ぬ気でしてなんとか認知してもらえるです。」
平然と言っているアイルサは本当に凄いな。
「…アイルサはうちにいる間はゆっくりしていいからね?」
なんて言うか考えているうちに謝るタイミングを見失い、気を使ったような言葉しかかけれなかった…。許してくれアイルサ。
「ありがとうございます。ですが、お手伝いできる所はしっかりしなければ!私は余所者です。貴方様の妻としてしっかりと働かなければ肩身が狭くなってしまいます。」
「うちは大丈夫だよ。そこまでしなくても。厳しくも甘くもないから。あくまで俺基準だけど。」
なんとか、上手く挽回しなければ。そんなことを思いながら会話を続ける。
「ですが…」
言葉を続けようとするのを遮り、別の人の声が聞こえきた。
「あら、随分と仲がいいのね。でも、まずはただいまの挨拶が先ではないのですか?シーリィタ。」
「母様!ただいま。…ただいま戻りましたね。」
「はい。おかえりなさい。シーリィタ。そちらの可愛らしい女の子も紹介してくれるわよね?」
見て出てきたと思うタイミングで母様が奥の部屋から出てくる。そのまま、俺たちは部屋の中へ案内されて、部屋の真ん中にある椅子に座る。紅茶なども用意されており軽く飲みながら話すことになった。
母様はにこやかに笑いながらも目を少し細めてこちらを見ている。あれは心を読んでいると分かるように、あえて、やっている仕草だ。
「母様。彼女は…」
「それは私が説明します。ツンディナ様。」
「ケイロン。私はシーリィタに説明を頼んだの。貴方がシーリィタを連れ出して魔物の恐ろしさを体験させた事については後でじっくりと話し合いましょう。」
「…かしこまりました。」
俺の代わりに説明しようとするケイロンを黙らせると俺の言葉を心理を確認する為に母様が俺の話を待っている。
「いえ。シーリィタ様でなく、私が自らご挨拶します。貴方がシーリィタ・ワンダー様のお母様でよろしいでしょうか?」
「えぇ、その通りです。構いませんよ。続けなさい。」
「ありがとうございます。お初にお目にかかります。私はシー一族、ワン・シーの代表。ビーサル・ワン・シーの2番目の娘。アイルサ・ワン・シーです。」
「本日は遅くに失礼して申し訳ありません。我が父である、ビーサル・ワン・シーは我が部隊のまとめをしており明日到着予定です。父と一緒に改めてご挨拶しますが、救援と支援物資の補給感謝しております。私はシーリィタ・ワンダー様の計らいで先行することになりました。今回の話がまとまるまで、ご厄介になります。」
アイルサが挨拶をする。言葉はすらすら出ているが、緊張して体が強張っている。
「丁寧にありがとうございます。私はワンダー一族の領地の1つ。領主ガネービス・ワンダーが治めるこの地でガネービス・ワンダーの妻をやっております。アイルサ・ワン・シー。貴方が滞在することを我が夫であるガネービス・ワンダーに代わり許可します。」
「ありがとうございます。」
「ですが、今回の話がまとまるまで、厄介になるだけでいいのですか?貴方はそれで帰ってもいいと?もし、もしも、訂正があるのなら…言っといた方がよろしいかと。」
緊張しているアイルサとは逆に当たり前のことのように心を読み、話をしてくる母様。貴方のことは分かっています。って慣れないときついよなぁ。慣れてもキツイけど。
「…ッツ。…私はシーリィタ・ワンダー。…いえ。シーリィタ様の妻になる為に来ました。我が身も心もシーリィタ様の為に捧げます。私がシーリィタ様と一緒になる事をお許しください。お願いします。」
「あら、そこまで言い切ってしまうのね。フフ…あの一族の者とはとても思えない思い切りだわ。…シーリィタは貴方の為に呪文作成までしたのね…。そこは後でじっくりシーリィタに聞くわ。」
「…どうしてそこまで。」
なぜ、言ってもいない事が、自分の心を読まれている。知らないアイルサにてみれば恐怖以外の何者でもない。
「アイルサ・ワン・シー。貴方は罪悪感から妻になると言ってる部分もあるわ。」
「……。」
無言だが泣きそうなのを必死で堪えるアイルサ。怖さもあるが、全てが罪悪感では無いと言いたい思いとでぐちゃぐちゃになっているのを我慢しているようでもある。
「でも、確かにシーリィタの事を好きなのも事実なの。きっかけが、貴方の為に呪文作成しただけ。そこからシーリィタを想って、好きになったの。そこに間違いはない。好きになるのに理由なんていらないわ。だから、シーリィタを好きだと、大切にしている限りは私は貴方とシーリィタの事を認めてあげる。ようこそ、ワンダー一族へ。貴方を歓迎するわ。」
アイルサ・ワン・シーは初めて誰かに認められたのかもしれない。怖くって、辛くって、でも、嬉しくって。
「ありがとうございます。」
アイルサは涙を流していたのだった。
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