28 許可。
28話
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
アイルサを一緒に連れていくためにビーサル・ワン・シーを説得しにいくことになった。
外に出るとアイルサとケイロンと一緒にビーサル・ワン・シーを探す。
「アイルサ様。外に出られるならご一緒します。」
トラックの上で周りを確認していたリテル・ワン・シーは飛び降り、トラックの入り口にいるアイルサに声をかけた。護衛で一緒について来てくれる。
「えぇ。ありがとう。リテル。」
「今の所、周囲に魔物、人間の気配はありません。まもなく日が落ちますのでご注意を。」
「お父様に会いにいくだけです。そこまで時間はかけません。それに、リテルが気配が無いと言うのであれば大丈夫でしょう。」
「ありがとうございます。ですが、充分にご注意を。何があるかわかりません。」
「充分に注意話するわ。」
「は!」
リテル・ワン・シーが護衛っぽい雰囲気の所を初めて見たかもしれない。いままでは比較的ケイロンが絡んでいたからそうでもなかったのかもしれない。
あ、ケイロンに話しかけてる。あー。さっきと全く違うな。
「さっきと全く印象が違うな。リテル・ワン・シー。」
「あれでもキチンと護衛の為に呪文を使用していますよ?リテルがいれば余程のことがない限り安全です。」
今度は忙しそうに荷物の運搬をするレイト・ワン・シーを発見する。彼は本当に護衛なのだろうか?完全なる雑用である。
「レイト・ワン・シーもあれでいいのか?」
「はい。彼も優秀な呪文を使用して護衛しています。ふふ、貴方様にはそうは見えないかもしれませんが。」
「護衛ってよりも雑用だもんな…。」
「これも護衛の一環です。貴方様。私達の身の回りの世話をする事も求められます。基本は近くにいるものですが、今回は人員が少ないので護衛だけというわけには行かないのです。」
「レイト!こっちの荷物も運んでくれ!」
「了解です!」
ビーサル・ワン・シーの掛け声に反応して、何度も往復するレイト・ワン・シー。他の部下もいるが、レイト・ワン・シーは人一倍働いていた。
指示を出していたビーサル・ワン・シーがアイルサを見つけた様だ。こちらに近づいて来た。
「アイルサ。どうした?比較的安全とは言え何があるか分からん。トラックの中にいてくれると助かるんだがな?」
優しい口調でアイルサに対応するビーサル・ワン・シー。アイルサも少しだが緊張しているようだ。
「えぇ、それは承知しておます。お父様。ですが、シーリィタ様がお話があるそうです。」
「ん?シーリィタ・ワンダーがか?どの様な用件だ?」
優しい口調ではなく、少し低音の声に変わる。
「お忙しいところすみません。私とケイロンは街へと戻ります。そのご挨拶をと思いまして。それから、お願いがございます。」
「お願い?とりあえず言ってみろ。」
ビーサル・ワン・シーの纏っている気配だろうか。それが一層、重くなった気がした。
「はい。アイルサ・ワン・シー様を我が屋敷に先にご招待したいのです。アイルサ・ワン・シー様は私と同い年とうかがっています。皆様長旅でお疲れでしょう。皆様全員は無理でもアイルサ・ワン・シー様だけでも先にゆっくりさせてあげたいと思った次第です。」
よくこんな言葉がポンと出て来たもんだ。と自分でも思った。理由としてはそれらしいものだと思う。
営業とかもこんな雰囲気で交渉したりするから似たようなものといえばそうなのかな。
助けに来ているので申し出自体は悪くないと思う。まぁ、なぜ、一族の代表であるビーサル・ワン・シーを連れて行かないのかとか、娘のみは無理だとか言われれば弱い。
「…申し出はありがたい。街までの道中はどう移動する?日も落ちる。危険だ。」
「ケイロンが運んでくれます。ケイロンなら子供2人程度余裕で日が落ちるまでに間に合います。ケイロン問題ないんだよな?」
「は!可能です。街までは私が責任を持って護衛いたします。」
ケイロンも真面目な口調で答える。
「可能なんだろう。だが、娘1人を行かせるわけにも行くまい。」
「お父様。私もシーリィタ様と共に行きたいです。…ダメでしょうか?」
アイルサが娘の我儘を使ってうまく援護してくれる。
「困った我儘だ。…アイルサがそこまでシーリィタ・ワンダーに心を許しているとはな。本当に難儀だ。」
雰囲気が重い。誰も話さず、作業しているはずの周りの騒音さえ止まった様だった。
「分かった。…許可しよう。」
「ありがとうございます!お父様。」
「申し出を聞いていただき、ありがとうございます。」
なんとか説得というか許しをくれた。これでアイルサと一緒にいることが可能になった。
ビーサル・ワン・シーは少し沈黙してから意を決した様にこう言った。
「…シーリィタ・ワンダー。お前の呪文とデメリットを認める。アイルサ・ワン・シーの全てを任せる。娘を頼んだ。」
「はい。この身に変えましても。」
「その言葉忘れるなよ。」
俺に帰るまでの道中なにが出来るわけではないが娘を1日預かるわけだ。しっかりとしないといけない。
「お父様!ありがとうございます!シーリィタ様!良かったですね!認めてもらえて。」
喜んでいるアイルサ。喜び方がかなり大袈裟だ。それほど俺と離れたくなかったのだろう。まだ、数時間しか経ってないが慕ってくれるのは有難い。時間は関係ないか。好きな人といれるのだ。それでいいではないか。
俺もアイルサに向けて笑みを向けるのだった。
「シー坊わかってないな。こりゃ。」
ケイロンは、ぼそっと呟いたのだった。
トラックの中、1人で紅茶を飲んでいるゼネラル・マーネジャがいる。
「やぁ、皆様。元気かな?ゼネラル・マーネジャ、ま〜た〜の〜名〜をGM、そう!みんな大好き!神様だよ!」
GMは陽気に、面白おかしく、話し始める。
「アイルサ・ワン・シー。本当に凄いよね。あれでまだ約5歳とか。発達おかしくない?天才とか、そんな次元じゃないよね。ある意味では別存在。化け物に近いね。いや、正真正銘の夫婦の間に生まれた普通の人間。女の子。髪の毛とかも突然の偶然そうなっただけだし、発達速度が速いのは家族以外からは忌み嫌われて育った環境のおかげ。生存本能全開な感じだよねー。1番の化け物は案外、彼女以外の人達なのかもね。」
「私はノータッチ!そんな遺伝子的に面白そうとかで介入して設定入れても面白くない。偶然!起こる!ドラマチック!それが面白いのさ。私は支障が出ない程度で介入と傍観をするのが一番楽しい!今の様な感じが最高のポジションさ!」
ゆっくりと紅茶を一口飲み。誰が語って欲しいとも言ってないのに再び話し始める。
「ビーサル・ワン・シー。あれで悩み多き人だね。大切な友人を一族の長になる立場上受け入れてもらえず、離れなければならない決断をし、その上娘まで同じ境遇になり、同じ決断をする。せめてもの頼みの綱で別れた友人を頼らざる得ないとか。立場と感情の板挟みとか苦悩とか最高のスパイスだよね。同じ決断をしなくてはならない所とか、果たして彼はどれだけの苦しみを味わったんだろうね。見てる分には最高の展開だよね。あぁ、別れた友人との関係は良好さ。それでも理解し合えるって所に救いがあったよね。でなけりゃ、娘を送り出さないさ。あれで関係を良好にする力…努力かな。それがあるから崩壊しないんだろうね。脆い様で強いってのも見ものだね。」
コップに入っていた紅茶が空になり、新しい紅茶を淹れるために動き出す。
「これからも近くで見させてもらうね。いや楽みでならない。」
いつから止まっていたのだろう。トラックの中に外の音、生活音が聞こえきた。何もなかったように。
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書くって難しい。




