20 俺の我儘。
20話
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
これが、俺とアイルサ・ワン・シーの初めての出会いである。
トラックの中は見事にキャンピングカーに改造されていた。運転席の少し後ろの右側に入口がある。入り口からキッチン、トイレ、があり二段ベッドが左右にあり、奥に椅子と机がある。
俺とアイルサ・ワン・シーは子供同士二段ベットの方へ行って話をしたらどうか?というビーサル・ワン・シーの言葉に従い二段ベッドに移動する。
そりゃ、5歳児前後の子供がこれからの相談に首を突っ込むわけにはいかないからな。仕方ないね。そうは言いつつも、耳を傾けずにはいられなかった。
「堅苦しいのは無しで行こう。こんな時に丁寧に喋っていられるか。今後の対策を話したい。いいな?」
一通り自己紹介も終わり話しを切り出したのはビーサル・ワン・シーだ。
「現状を教えてくれ。他のトラックには部下もいるんだろ?宝石や食料なんかの備蓄は大丈夫か?」
「部下はいる。だが、皆、旅の疲れで消耗している。幸い怪我は魔法で何とかなってるが宝石の備蓄、魔法力の回復が間に合ってない。食料もギリギリだ。供給してくれるとありがたい。」
「そこまでか。お前がいながらだいぶ酷いな。」
ケイロンは驚いた表情になった。
「長は悪くない!魔物と不作が一変に重なってきたんだ。今回だって長がいなけりゃ俺たちは…」
突然大きな声を出したレイト・ワン・シー。
「レイト!黙れ!」
「長!だけど…」
「どんな理由があろうと満足に出来てないのは俺の責任だ。黙ってろ!」
「でも…」
「リテル!このバカを外に連れてけ。頭を冷やさせろ。」
「了解。レイト行くよ。」
さっきとは別の柔らかい表情から無表情に変わり、リテルはレイトに近づいた。
「姉さん。だけどよ。あんまりじゃないか。長は悪くない。みんなの為に必至に…」
「いいから行くよ。レイトが感情的になってたら話が進まない。」
そう言って、アイアンクローをして、感情的になったレイトをリテルはレイトをトラックの外へ無理矢理連れてった。
「すまない。レイトはまだ若い。大目に見てくれるとありがたい。」
ビーサル・ワン・シーはケイロンに頭を下げ、さらに言葉を続けた。
「いや。俺も少し口が悪かった。すまない。だが、本当に何があった?」
ケイロンは心配そうに尋ねる。
「ケイロンになら真実を話してもいいだろう。すでに知ってるかもしれないが、今年のワン・シーは不作だったんだ。そこまでなら良かったんだが、他の部族も不作。シー一族全体が不作で余所から食料を買うことになった。もちろん、ワンダーからもゼネラル・マネージャを通して買っている。」
「今回はいい商売をさせていただきました。私はアフターケアも忘れない商人なので今回のちょっと危険な商売にも参加させていただきました。」
真面目な空気に似合わない明るい声でゼネラル・マネージャは答える。
ため息をついて、さらに重い口を動かし話し始めるビーサル・ワン・シー。
「だが、その食料が運搬中に魔物に襲われて、想定の半分程度しか手に入らなかった。」
「ねぇ。そんなに大人の会話が気になりますか?シーリィタ・ワンダー様?」
無言であったのに急に話し始めたアイルサ・ワン・シーにビックリして、声の方へ目を動かした。すると、俺の目の前に顔があった。
あーくそ可愛い。
「うぉ!え?あ?そ、そんな事ないですよ?俺が聞いても分からないですから。アイルサ・ワン・シー様。あ、そうだ。シーリィタ・ワンダーなんて長いからシーリィタでいいですよ。様もいらないです。」
誤魔化すような喋り方になってしまった。アイルサの顔がすぐ近くにある。目と目が合う。知らず知らずにドキドキしていた。
「そうですか。でしたら、私もアイルサで呼び捨てで構いません。シーリィタ様。」
母様に似た顔立ちだが、黒髪で黒い目。日本人の大和撫子を思わせる美しさ。
「うん。よろしくお願いします。アイルサ様。」
「「………」」
会話が続かない。5歳児に何話せばいいんだよ。いや、俺も5歳児なんだけどさ。
その無言の眺めているだけで心地よかった。
「お父様の話は本当です。不作で他の一族から無償か低予算、あるいは、分割で借りて食料を貰わなければ、シー一族は維持できません。ワンダー一族には、お父様が直接交渉に、私はその人質ですよ。一族の長の娘を人質にすればワンダー一族は、ワン・シーの一族に有利に働きかけれるわ。」
会話が全く頭に入って来なかった。多分きっと一目惚れってこんな感じなんだろうな。
32歳のおっさんが、約5歳の女の子に恋するとかどうなんだ?
いや、今は俺も約5歳か。ならいいか。
「あー、アイルサは可愛いね。」
「シーリィタ様?私の話を聞いていましたか?」
「アイルサみたいな子なら歓迎するよ?食料ならなんとかなるじゃないかな?」
「それが出来るか怪しいから私達が来たのです。シーリィタ様。話がすんなり通れば苦労はしません。それに私に拒否権はありません。望まれるままされるがままです。」
「そう。なら、俺が望めばアイルサは俺のものになるのかな?」
「はぁ。シーリィタ様に我が一族。ワン・シー一族を救う事が出来るなら、私はシーリィタ・ワンダー様のものになりましょう。」
話が成立してるようでしてない会話に呆れたアイルサがいた。
「なら、俺が救ってやるよ。」
そんな冷たい笑い方じゃなくて、暖かい笑い方が絶対に似合うと思うし、達観するにはまだ早い。なにより、家族、一族の愛情、そういう感情が育たないのが気に食わなかった。
俺のワガママでも思い込みでもいい。アイサル・ワン・シーという女の子が幸せになるのが見たい。そう思ったのだ。
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