15 呪文の訓練。
15話
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
それが、ケイロン・キロンという男である。
午前中の訓練を終えて、俺は庭に寝そべった状態になっていた。午前中の訓練と言っても1時間も動けば良い方で時間的にはそんなにたっていない。
準備運動、走り込み、筋トレ、どこに打ち込めば良いかの確認と練習。実際にケイロンと実戦形式の模擬戦で殴り合いを数回程度やって終わり。もちろん、5歳児のペースに抑えられての訓練だ。
500メートルも走れなければ、10回とか腕立ても出来ない。模擬戦も殴り合っている様でケイロンに程よく手加減されてボコボコにされている。そんな感じだ。
俺は物語の主人公みたくハイスペックではなく、年相応の成長をしている。ハズである。
寝転がっていたのは疲れているという理由ともう1つ理由がある。午前中の訓練の後半戦、呪文の訓練もやるのだ。
俺はまだ5歳児。正確には5歳ではないが、呪文が使える。
本来なら呪文協会に行き、教えてもらうことで、呪文作成を覚え、デメリットを知るのだが、赤ちゃんの時に呪文作成をしてしまった俺は呪文協会の過程をすっ飛ばしている。事前にデメリットも知っているしな。
呪文の訓練と言っても呪文作成するわけではない。呪文作成で作成した呪文を使いこなす訓練をするだけだ。
呪文作成は両親に禁止され、腕にミサンガをつけている。
このミサンガを着けていると呪文作成自体が出来なくなる不思議アイテムだ。
種類は、赤ちゃん用の部屋に貼る札タイプ。子供用のミサンガ。大人用のブレスレッド、ネックレス。奴隷や囚人用の首輪。など様々なタイプがあり、製造する機会がある。
昔、呪文作成封印装置を製造する機械を呪文作成した人がいたそうだ。
機械自体は呪文で現れた。しかし、呪文作成した本人は死んだ。その命と引き換えに。
この世界では呪文作成封印装置を製造する機械はそれぐらい重いデメリットに相当するらしい。それも覚悟の上で、呪文作成をしたのだろう。本に書かれるくらいには偉人にもなる。
「ほら、そろそろ起きろ。呪文の訓練するんだろ?見ててやるよ。」
寝そべっている俺に飲み物を持ってきてくれたケイロンが声をかけてくれた。
「ありがとう。でも、見てるだけじゃなくって、呪文を使ってもいいんだよ?」
「俺は呪文は苦手だからな。見てるだけだ。」
「いつもそうじゃんかー。減るもんじゃないし、いいだろー?」
「魔法力は減るからな。それに、身体を動かす方が性に合ってるんだ。」
ケイロンは苦笑いをしていた。
「じゃあ、1人でやりますよー。ちぇ。」
「拗ねるフリしてもやらんぞ?」
「ちくしょう。バレてる。」
俺は拗ねるフリをやめるとケイロンから少し離れた。
ケイロンは呪文を使用するのを嫌う。俺は1度もケイロンが呪文を使っているところを見たことがない。
アーラシュがオヤジの近くで勉強するようになり、俺の護衛と訓練に専念する様になって1年近く経つが理由は未だに教えてくれない。
「さてと、やりますか。」
「フー・アレ!」
呪文を唱えると直径約10センチ程度の丸い火の玉を生み出す。
次に直径約20センチ程度、直径約30センチ程度と生み出したまま浮かせて並べる。
「シー坊。次は順々に生み出した火の玉を槍状に。」
「わかってる。」
俺は小さい火の玉から順々に直径の長さの槍状にしていく。
毎日のことなので、一瞬で形を変え終わる。
魔法力は火の玉を1つ生み出した時に条件の通り1割使っている。感覚でしか分からないが、3つ出すとちょっと疲れる。
「元に戻して、1度呪文を解いてくれ。」
ケイロンに言われた通り火の槍を玉に戻すと生み出した呪文を消した。
「どう?毎日やってるから余裕だよ。」
「3歳からやってりゃ、慣れもするか。」
「まぁね。」
俺はにこやかに笑った。
2歳の時は呪文作成時と呪文を使うのを禁止されていた。
母様の「記憶があってもシーリィタが赤ちゃんの時間は今しかないわ。赤ちゃんとして可愛いがりたいの。」という気迫に負けた。
その代わり、毎日アーラシュと一緒にこの世界について勉強を教えてもらい。頭に叩き込み3歳より勉強と訓練という形になった。
「それじゃ、次だ。無詠唱。1つでいいぞ。」
「はい出来た。」
すぐに直径約10センチの火の玉を生み出し、消した。
「無詠唱。槍状。30センチ。」
「ほい。」
「詠唱。ナイフ型。20センチ。」
「ほい。フー・アレ!」
「よし。次は動きながら出してみろ。」
「了解。」
ケイロンが俺を捕まえようとする。捕まらないようにさっきと同じく、指示通りに火を生み出す。たまに、蹴りなど入れてくるから恐ろしい。
「お疲れ!」
「もう無理。」
何度か捕まった所で終了。俺は再び庭に寝そべった。これが呪文の訓練である。
ケイロンは全く疲れた表情をしないで笑っていた。
「シーリィタ。お前まだ魔法力に余裕あるか?」
いつもはこれで終わりなのにケイロンはそんなことを言ってきた。
「魔法力?まだ大丈夫そうだね。」
ケイロンは少し考えたようなそぶりを見せた。
「なら、少し気持ち悪くなるまで火の玉に魔法力を注いでみろ。」
「いいけど。危ないよ?」
「注ぎ終わったら、いつもみたいに消せば問題ない。」
火の玉を出し、魔法力を注ぎ込む。だんだんと大きくなる。不安になってきた。
「うわぁ。ケイロン大丈夫なの?うぇ。なんか、気持ち悪くなってきた。」
「慌てて、火の玉を投げなりしなければ大丈夫だ。いいぞ。やめて。」
落ち着いた様子でケイロンは言った。
俺はすぐに火の玉を消した。
「今度からこれも追加でやるからな。」
「本当に?ケイロンの訓練って地味だよな。俺は呪文はもっと、こう、派手なものだと思ってたよ。」
教えてもらってることに不満はない。だが、俺の考えてた異世界とちょっと違う。
最初は訓練は大変だが魔法。呪文が使えるのが嬉しかった。
序盤でこの手の訓練を疎かにしないのは、ゲームやアニメなんかの鉄則みたいな所があるので頑張ってやってきた。だが、実際に数年やると地味で飽きてくるというのが身にしみた。
この世界は呪文作成しないと新しい呪文が手に入らないので余計に飽きを感じる。
こう、必殺技的なものが欲しいお年頃だ。いや、中身は生前と合わせて、約32歳のおっさんなんだけどさ。
ケイロンはやれやれと言った感じで呆れていた。
「気持ちはわかる。俺だってそう思う。だが、実際は地味な訓練ほど、いざって時に役立ってるんだぞ?」
「そりゃね。分かるんだけど。」
「はぁ。仕方ない。機会があったら俺の呪文を見せてやるから、その時まではしっかり訓練しろ。」
「機会っていつだよ?」
「機会は機会だ。そうだなぁ。無いとは思うが、例えば魔物に襲われてるとかそんな感じだな。」
「俺、訓練サボろうかな…。」
「サボってもいいが、ツンディナ様にはしっかり報告しとく。」
「ちくしょう!俺に自由はないのか。」
「十分自由にやってると思うがな。俺は。」
「ですよねー。」
そんな冗談のような愚痴っぽい会話をしていると、アーラシュが走ってこちらにやってきた。何か急いでいるみたいだった。
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